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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第五部~あるモキュメンタリー映像について~
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第1章〜広報部のある企画について〜⑦

「壮馬、今回の企画では、三〜四か所のスポットを回るってことだが、この中から取材場所を決めるか?」


 ()()()()()という怪異の存在を楽しげに語る親友にオレはたずねた。


「そうだね。市内にこれだけ候補地があるなら、選択に迷うくらいだ……ボクとしては、最初は比較的ソフトなスポットを巡ってから、徐々に恐怖度を上げて行って、最後は、最恐(さいきょう)のスポットで締めたいと考えているんだけど……どこから始めるのが良いかな?」


 壮馬の言葉に、すぐに返答する。


「比較的ソフトってことなら、市外だけど、『武甲(むこ)川の三途の踏切』あたりから始めるのが良いんじゃないか? ここからでも、さほど遠くないし、場所も武甲(むこ)川堤防沿いの道路だから、周辺にあまり迷惑も掛からないだろうしな」


武甲(むこ)川鉄橋の踏切か〜。あの場所は、ボクも夜に何度か通ったことがあるけど、照明もあるし、あんまり恐怖度は高くないんだよね。でも、最初のスポットとしては、ちょうど良いかも」


 オレの提案に、親友はすぐに乗ってきた。


「じゃあ、最初のロケ場所は、武甲(むこ)川鉄橋の踏切で良いですか?」


 いつの間にか、文芸部と同じようにタブレットPCを起動していた桃華が、広報部のGoogleカレンダーにアクセスして、撮影スケジュールの日程をまとめる準備を始めていた。


「そうだね。そして、二か所目と三か所目は、竜司と佐倉さんが話してくれた『日之池公園のテッちゃん』と『満地谷墓地(まんちだにぼち)の火垂るの墓の少女像』を抑えておきたいな」


「わかりました!」


 壮馬の返答を確認した桃華は、自分自身とオレが語った心霊スポットをカレンダーに落とし込んでいく。

 正直なところ、桃華が話してくれた少女像の怪異が語られる場所は、オレ自身の父親の遺骨が納められている墓地の近くでもあるので、夜中に騒ぐような行為は避けたいのだが……。


 いわく付きの場所であることと、視聴者ウケしそうなネタでもあることから、満地谷墓地(まんちだにぼち)を撮影候補から外すという選択肢はあり得ないだろう。


 もちろん、他の場所についても同じことは言えるが、せめて、撮影時にはあまりはしゃぎ回ったりしないようにしたい。


 そんなことを考えている間に、カレンダーに撮影場所を書き込んでいた桃華が、続けてたずねる。


「最後の四か所目は、どうしますか? きぃセンパイの考えなら、ここが、動画のクライマックスになると思うんですけど……」


「ラストは、やっぱり、実際に事件が起きた場所か、『ブレア・ウィッチ』のように魔物が潜んでいるような場所が良いかな?」


 下級生女子の問いかけに応じた壮馬が即答した。


「実際に事件が起きた場所と言えば、五ガ池の二川ピクニックセンターだね。ここは、凄いよ……実際に新聞沙汰になった事件がいくつも出てくる」


 企画主の言葉に応えたのは、心霊スポットの候補地を検索していた文芸部の石沢だ。


「たしかに、この場所の周辺では、何十年も前からホラースポットとして語られる要素になりそうな事故や事件が起きてるみたいですね」


 タブレットPCのモニターを覗き込みながら、文芸部の代表者である天竹も言葉を続ける。

 彼女たちが検索した結果、以下のような事故や事件が実際に起きているようだ。


 ◯兜山(かぶとやま)事件


 知的障害者施設・兜山学園で園児二人の死亡事故が発生。1974年3月17日、園生の女児(12)が行方不明となる。また同月19日、園生の男児(12歳)も行方不明となる。同日中に学園の浄化槽から二人の溺死体が発見された。事故発生当初は、浄化槽周辺が園児たちの遊び場となっていたため園児による事故ととる説もあったが、遺体が発見された時には浄化槽は17kgのマンホールの蓋で閉じられていたことから、警察は園児の力でマンホールの蓋の開け閉めができないと判断し、また同じ現場で短い時間の間に二人の死体が続いて放置されていた不自然さから大人による殺人事件として捜査。事故当時のアリバイがない同園の保育士が逮捕される事態となる。

 長年に渡り裁判が行われたが、事件に関して起訴された者の全員の無罪が確定した。


 ◯兜山湿原強姦殺人事件


 1987年05月11日、兜山湿原で女性(56歳)を襲い抵抗されたため棒で殴って殺害。その後、白骨死体が発見された。犯人は自供し、死刑が求刑されたが、知的障害と飲酒が原因で善悪の判断能力が阻害されていたとして無期懲役が確定した。


 ◯ピクニックセンター強姦殺人事件


 1989年03月19日、兵庫県西宮市の仁川ピクニックセンターで、市職員(37)が同級生と来ていた小学5年生の女児(11)とボートや鬼ごっこで遊んだ後に乱暴しようとして抵抗されたため絞殺、翌日逮捕された。


 ◯硫化水素自殺事件


 2008年04月28日、兜山町の兜山森林公園で、巡回中の職員が公園内の女性用公衆トイレの扉に「硫化水素発生中。絶対に開けないで」などと書かれた紙が張られているのを発見した。

 通報を受けた警察と市消防局が確認すると、女性が死亡していた。周辺では人体に影響が出るとされる10ppmを上回る15.5ppmの硫化水素ガスが検出された。

 同署の調べでは、女性は二十歳前後。トイレは施錠され、洗剤の空き容器などが見つかっつた。同署は女性が自殺を図ったとみて、身元の確認を急いでいる。

 職員や当時園内にいた客にけがはなかった。同署などはトイレから半径約100メートルを立ち入り禁止にした。


「新聞や雑誌の記事を確認できたのは、これだけだけど、他にも公衆トイレで男の子が滅多刺しにされたとか、付近の集落に住んでいた女性が殺されて埋められた、という話しが出てくるね。これだけエピソードが出てくるなら、正直、私たち文芸部の創作なんて必要ないんじゃない?」


 淡々とした口調で語る石沢はるかの言葉には、猛暑になりつつある季節でも、背筋を冷たくさせるものがあった。

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