第1章〜広報部のある企画について〜②
「黄瀬クンの説明で、だいたいのことはわかったけど……わたし達は、何をすれば良いの? 広報部以外のメンバーが呼ばれているってことは、なにか役割があるんでしょ?」
壮馬によるモキュメンタリーの基本的な解説が終わったあと、真っ先に手を上げて質問をしたのは、シロだった。
「そうだね、今回は、白草さんにも、文芸部のみんなにも協力してもらいたいことがあるんだ。それを伝える前に、僕が企画している手法について説明させてもらって良いかな?」
壮馬は、そう言って、メンバーに確認を取ったあと、スライドを操作しながら、「今回は、モキュメンタリーの中でも基本的な演出である、『ファウンド・フッテージ』という手法を取ろうと考えているんだ」と言葉を続けた。
そして、親友は、先ほどに続いて、AIが出力したと思われるテキストで解説を行う。
『ファウンド・フッテージとは?』
あたかも誰かが個人的に撮影したビデオ映像であるかのように見せかけて、物語を語る映画やテレビの手法のことです。第三者によって発見された (found) 未編集の映像 (footage) なので、ファウンド・フッテージと呼ばれます。登場人物が撮影した記録映像が、事件後に第三者によって発見され公開されたという設定で物語が進んでいきます。
【ファウンド・フッテージの特徴】
主観的な視点:登場人物の目線でカメラが回っているため、観客はあたかもその場にいるかのような臨場感を味わえます。
手持ちカメラの映像:意図的に画面を揺らしたり、ピントが合わなかったりすることで、アマチュアが撮影したような粗い映像を演出します。
不完全な情報:登場人物が見ているもの、知っていることしか観客には伝わらないため、ミステリアスな雰囲気や緊迫感を生み出します。
リアリティの追求:ドキュメンタリーのような演出により、「これは実際に起こったことかもしれない」という感覚を観客に与え、恐怖やサスペンスを高めます。
ここまでの内容をスライドで説明し終えたあと、壮馬は、こう付け加えた。
「ファウンド・フッテージの手法を活用している映画は、さっきも例に上がった『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の他に、ボクと竜司のお気に入り作品でもある『クローバー・フィールド』があるんだ。そうだよね、竜司?」
親友の問いかけに、「あぁ、そうだな」とうなずくと、オレ以上に大きな反応を見せるメンバーがいた。
「『クローバー・フィールド』!?」
「そのタイトルは、ヨツバちゃんのSNSのアカウントとYourTubeのチャンネル名だべ」
シロの発した一言のあと、彼女の熱心なフォロワーである宮野が言葉を続けた。
「そう言えば、白草さんの動画のチャンネルは、同じタイトルだったね? もしかして、白草さんも、この映画に思い入れがあるの?」
女子二名の反応に対して、壮馬がたずねると、シロはフフッと微笑んで、オレに向かって視線を送りながら、思い出深そうに語る。
「そうね! 小学生の時、仲の良かった男の子に教えてもらった、大切な映画なんだ。『クローバー』っていうタイトルが、わたしの名前にも共通しているしね」
その思わせぶりな表情に、思わずドキリ―――としながら、気づいたことがあった。
以前は、彼女の言う仲の良かった男の子が誰のことなのかわからず、モヤモヤした気分になっていたのだが……。
シロが言った、小学生の頃に、この作品を彼女に薦めたのは、オレ自身にも当てはまることなのだ。
もしかすると、小学5年生になる前のオレのあの時の一言が、100万人以上のフォロワーを持つインフルエンサー・白草四葉に大きな影響を与えているのだろうか?
そう考えると、なんだか、照れくさくなるような不思議な感情が込み上げてきて、全身がこそばゆく感じる。
シロと目線があったあと、気恥ずかしさを感じながら、ほおのあたりを掻いていると、なぜか、隣に座る桃華がふてくされたような表情をしているのが印象に残った。
そんな風に、下級生の不機嫌な表情を不思議に感じている間にも、壮馬のプレゼンテーションは、いよいよ本題に入る。
「白草さんが思い入れのある作品なら、ちょうど良かった。今回の企画は、白草さんのSNSでの影響力に依存するところが大きいからね」
親友は、やや苦笑に近い笑みを浮かべながら語る。
「わたしのSNSが、どう関係するの?」
シロの疑問に反応した壮馬は、穏やかな笑みを浮かべながら、今回のプレゼンテーションの核心でもある部分を説明し始めた。
「ファウンド・フッテージの仕掛けをするからには、ボクたちが撮影した映像が、第三者によって発見された未編集のモノである必要があるんだけど……白草さんには、その映像の発見者、発信者になってほしいんだ。撮影者であるボクたちは、失踪する……っていうのは、あくまで動画配信の設定だけど、音信不通になる前には、積極的にSNSでの情報発信をするつもりだから、可能なら、その投稿の拡散にも協力してもらいたいと思っている」
親友の温めていたアイデアを確認すると、「ふ〜ん、面白そうね」とつぶやき、フォロワー数100万人以上を誇るカリスマ女子高生は、ニコリと微笑んだ。




