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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第四部〜ラムネ瓶の中のガラス玉はとても綺麗に見える〜
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第4章〜愛は目で見るものではなく、心で見るもの〜⑨

「最初に断っておくけど、僕は、基本的に心理テストなんてものを完全に信用している訳じゃない。キューブ・ルーティーンを使う上で大事なのは、ターゲットに楽しんでもらって、彼女に『この人は自分のことを理解してくれている』『この人は自分の欲しいものを理解してくれている』という感覚を抱いてもらうことだろう? このルーティーンは、その人の深層心理に本当に何があるのかを探るものじゃなくて、単なる会話の『ツール』として使えば良いんだ!」


 淡々と自分の考えを語る緑川に、オレも同調する。

 

「まあ、そうだな。白草四葉の『超恋愛学』の考えに従えば、これは、単なる会話の『ツカミ』だ」


 実際に、シロ自身も、このルーティーンの種明かしをする際に、一字一句を正確に説明しなくても、なるべく相手に「そうそう。わたしはそういうヒトなんだよね」と納得してもらえるように、それでいて少しは「え、わたしってそういう一面もあるのかも? 新しい発見があった」と思ってもらえるような話し方でやった方が良い、と言っていた気がする。


「そうだ、そんなことは、わかってるつもりだけど……」


「そうじゃなかったのか?」


 オレの問いかけに、クラスメートは、ゆっくりと首をタテに振った。


「このルーティーンを仕掛けたとき、山吹は、真剣な表情で答えていたんだ。キューブの大きさは、みんなが思っているほど大きくはない。実は、ちっぽけなモノだ。でも、はしごは、キューブを頼るように寄り掛かっているから、踏ん張るように耐えている。近くに誰も気付いていない嵐が起きているから、キューブが巻き込まれそうで不安だ、って……」


 なるほど……心理テストの解釈がどこまで正確なのかは怪しいとことではあるが、先ほどの通説的理解に照らし合わせれば、その回答を聞いて穏やかな心境でなくなるのも無理はない。


「それで、彼女は、自分がトラブルに巻き込まれていることを誰かに知ってほしかったんじゃないか……? と、考えたわけか?」


 緑川武志は、確認するように問いかけたオレの言葉に、三度(みたび)、うなずいた。


「そうか……オレも、緑川と同じように、心理テストを信じてるわけじゃないが……あのバスケ部の訪問から今日までのことを考えれば、状況はピッタリと当てはまるわけだしな……」


 オレも、ここまでは、クラスメートの言葉に同調する。


「だけど、そのことと山吹の誘いを断るのに、どんな関係があるんだ?」


 疑問に感じていることを口にすると、緑川は、自らの想いが溢れたのか、堰を切ったように語りだした。


「山吹と話していて感じたのは、彼女は、この前まで僕が想っていたような陰キャな男子を見下すような女子じゃないかも知れないってことだ……ホントの彼女は、友だち想いで、自分にも自信を持てないような繊細な性格なんじゃないかって感じたんだ。それを僕は、告白を断られたことで、逆恨みして……これじゃ、今日も絡んで来た、あの三人とまったく同じじゃないかって、自分が情けなくなったんだ」


 クラスメートの心情の吐露に、オレは、「そうだったのか……」と、一言つぶやく。

 そして、同じような体験をした経験者として、緑川に声をかける。


「話しにくいことを言ってくれて、ありがとうな。バスケを始める前に、緑川があの三人に食って掛かった理由がわかった気がするよ……」


 自分の思いの丈を語ることができたからなのか、クラスメートは、いく分かスッキリした表情を見せた。

 ただ、思い悩んでいることは、まだすべて解決したわけではないようだ。

 

「だから、いまのままじゃ、山吹とデ、デ、デート……じゃなくて……彼女と一緒に出掛けることなんて、出来ない……なあ、黒田……僕は、どうすれば、良いんだろう?」


 山吹と出掛けるということを真剣に考え、「デート」という単語をスンナリと口に出来ない男子生徒を可愛らしいヤツだ……と感じて、思わず表情がほころびそうになる。


 それは、この二ヶ月程の間に、緑川と同じ経験を二度もした自分が感じるシンパシーなのかも知れないが……。


 数週間の間に、外見だけでなく、内面にも大きな変化があったこのクラスメートのチカラになってやりたい、という気持ちが、心の奥底から沸き上がってきた。


「そうだな……今回のミッションは、完遂するまであと少しのところまで来てるって手応えがあるし……緑川にもう、ひと踏ん張りする気があるなら、オレに対応を任せてくれないか?」


 オレが、そう声をかけると、緑川はうつむき加減だった顔を上げ、真剣な表情で返答する。


「もし、可能ならお願いしたい! 頼む、黒田!」


 その必死の形相に苦笑しながら、オレは、二人の橋渡しの方法に頭を巡らせる。

 ただ、ここまで来ているのだから、もう、それほど大きな苦労はしなくて済むだろう、というのがオレの見立てである。


 あとは、どんな場を設定するか――――――。


 そんな思案をしながら、オレは、緑川との会話の中で、気になっていたことをたずねることにした。


「なあ、緑川。ちょっと、知りたいことがあるんだが……山吹は、キューブ・ルーティーンの質問で、どんな『馬』がそばにいるって答えていたんだ?」

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