第4章〜愛は目で見るものではなく、心で見るもの〜⑦
彼女の自撮り写真の中央を切り取ったアイコンをタップすると、おなじみの通話発信時のメロディーが流れ、すぐに聞き馴染みのある女子の声が聞こえてきた。
「やっほ~、クロ! 連絡まってたよ〜」
壮馬が言った、教師や生徒会以外のその他の方面のヒトとは、白草四葉のことだった。
「シロ……こんな時に、話したいことって、なんなんだ?」
「黄瀬クンから、『海沿いのバスケットコートで、トラブル発生』って、動画が送られてきたからね! クロは、大丈夫なの?」
「あぁ……オレは問題ない。以前にシロと緑川の家に行く前、すれ違った三人組を覚えてるか? あいつらとちょっと賭けバスケのゲームをしただけだ!」
「そうなんだ? 佐藤クンがいた時にすれ違ったあの背の高い人達かな? ちょっと、お話しできる?」
こんな連中と、なんの話しをするんだ……? と、いぶかしく思いつつも、ビデオ通話の状態にして、スマホのディスプレイを3x3の対戦相手だった三人の方に向けると、画面越しに彼ら三人の姿を確認したのか、スマホのスピーカーから、シロの声が聞こえてきた。
「こんにちは! 市立高校の白草四葉です。学校の帰り道に、わたしとすれ違ったこと、覚えてくれている?」
とつぜん始まった会話に、三人は、少し面食らったようすでありながらも、シロのことを思い出したのか、お互いに顔を見合わせたあと、ニヤケ面で返答する。
「あぁ、覚えてるぜ! 市高には、ずいぶんとレベルの高い女子が揃ってんなって、三人で話したこともな」
永井が先陣を切って答えると、掴んでいた緑川の胸元から手を離した政宗も言葉を続ける。
「今日は、知り合いの山吹あかりを誘いに来たんだが……四葉ちゃんだっけ? アンタが付き合ってくれるなら、あかりは、もうイイや! なぁ、おまえら?」
相変わらず品のない笑いを浮かべながら言う身長190センチの男子が言うと、残りの二人も、
「ああ!」
「だな!」
と、同調する。
そんな、三人の言葉を受けたシロは、「わあ! お誘い、ありがとう!」と明るい声で返事をしたあと、
「でも、わたし、ちょっと、気になることがあるんだ」
と、声のトーンを落として、続けてこう言い放った。
「そこで、カメラを構えている黄瀬クンが、最初のバスケットのプレー動画を送ってくれたから確認したんだよね〜。さっきまで、わたしのクラスの緑川くんの胸元を掴んでいたところも、バッチリ撮影されてると思うんだけど……『わたしのクラスの男子が、休日のバスケで他校の男子に乱暴された』って動画を《ミンスタグラム》に投稿したら、どうなるかな?」
シロの言葉を聞いた瞬間、三人の顔がサッと青ざめる。
「もしかしたら知ってくれているかも知れないけど、わたしの《ミンスタ》のフォロワー数は、110万人だから……フォロワーのみんなが拡散してくれたら、楽しいことになりそう」
クスクスと笑いながら語る女子生徒の声を耳にすると、
「なんだと、コラァ! ふざけんな!」
そう言って、駆け寄ってきた二又が、オレのスマホを奪おうと腕を伸ばす。
「おっと、ナニすんだよ、いきなり」
バスケ部の突進を交わしたオレの手元からは、続けてシロの声が漏れている。
「黄瀬クン、聞こえてる? いまの緑川クンが胸ぐらを掴まれていたシーンを含めて、良い感じの編集よろ〜」
「オッケー! 今日中に動画を完成させるよ」
自分の言葉に壮馬が返答すると、
「ありがと! 楽しみにしてる」
と言ったあと、シロは一方的に通話を切って会話を終了させた。
これも、相手のラフプレーをこっそり撮影していたことも、シロと連絡を取って動画の拡散を匂わせたことも、壮馬の考えたシナリオかも知れないが……。
まったく、無駄な挑発のせいで、オレの最新型iPhonePROになにかあったら、どうしてくれるんだ……?
友人と転入生相手に、軽い憤りを覚えながらも、オレは、目の前で苦虫を噛み潰すような表情で、こちらを睨みつけている三人に語りかける。
「まあ、そういうわけで、こっちは、バスケのときのプレーや、いまのあんた達の言動も、バッチリ動画で押さえている。撮影した動画をどう処理するかは、これからのあんたらの行動次第だ。どうするかは、自分たちで、ジックリと考えるんだな」
オレの言葉を耳にした政宗たちは、「チッ……」と舌打ちをして、バスケットコートを去って行く。
去り際に、三人が、オレたちやバスケ部の私物や自転車などに、なにか危害を加えないかと注意していたが、シロの脅しが効いたのか、特に被害はなかったようだ。
とりあえず、目の前の脅威が去ったことに安心し、オレは、緑川や壮馬、バスケ部のメンバーとともに、バーベキュー広場に戻る。
バスケ部の同級生女子を探し始めてから、すでに一時間近くが経過していたため、大半の肉は食い尽くされ、コンロの上には、野菜い多めの焼きそば少々が残っているだけだった。
苦笑し合いながら、肩をすくめるオレと緑川の表情を確認したのか、山吹あかりが声をかけてきた。
「緑川、黒田、アタシのせいでゴメンね……お詫びに、今度、どこかに遊びに行かない? 食べたいものとかあれば、奢るからさ」
その一言は、先日まで自室に引きこもっていたクラスメートの目標とするところだったと言える。
山吹からのありがたい申し出に、満面の笑みで、緑川に視線を送ったのだが……。
「ゴメン、山吹……その誘いは受けられない」
クラスメートの返答は、オレが想定もしていない内容だった。




