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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第四部〜ラムネ瓶の中のガラス玉はとても綺麗に見える〜
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第4章〜愛は目で見るものではなく、心で見るもの〜

 アークの頂点の位置でゲームをスターとさせた政宗(まさむね)は、ダム、ダムとリズム良くボールをつきながら、身長差のある緑川武志(みどりかわたけし)を見下ろしている。


「あかりの前で、デカい口たたいたことを後悔させてやる」


 いかにも悪役キャラが言いそうなセリフを吐いたあと、姿勢を低くしてドリブルの体勢に入った政宗は、あっという間に緑川のマーク(と呼べるほどのシロモノでないことは半分素人のオレにでもわかる)をかわして、山吹(やまぶき)あかりと一対一の状況を作り、ニヤリと不敵な笑みを浮かべたあと、ノールックで永井(ながい)にパスを出す。慌ててそのマークにつこうとしたオレを嘲笑うかのように、永井は素早いバウンドで二又(ふたまた)へとボールを送る。ゴール前で待ち構えていた二又は、迫る山吹を軽くいなしながらシュート体勢に入ったかと思いきや、フェイントで政宗にボールを預けた。ノーマークだった身長190センチの男子は、そのままゴール下へと駆け込んでダンクシュートをリングへと叩き込む。


 敵ながら、惚れ惚れとするような連携プレーだった。


北中(きたちゅう)の『黒い三連星』と呼ばれたオレたちを舐めたことを後悔しても(おせ)ぇぞ」


 デカい手のひらで、バンッと緑川の華奢な背中を叩いた政宗は、相変わらず品のない笑みを浮かべて高笑いするように語る。

 その相手の言動に、すっかり萎縮してしまったのか、ただでさえ細身の体を小さくしている男子生徒に、


「ドンマイ、緑川! まだ、始まったばっかだよ」


と声をかけた山吹は、アークの頂点に立ち、ゲームを再開させるべくオレにパスを出してきた彼女に応え、簡単に告げられたゲームプランどおり、素早くボールを返す。


 すっかりオレたちを舐めきって、油断していた相手の三人がディフェンスの体勢に入る前に、アークの外から放たれたボールは、美しい放物線を描き――――――。

 

 リングの手前のフチに当たって、そのままゴールの外へと落下する体勢に入った。


 クッ……と、歯噛みしながら悔しがる山吹に、またもニヤケ顔の政宗が、


「アウトサイドプレーなら勝てると思ったのか? 女子用とじゃ、ボールの大きさも重さも違うんだ。練習どおりに行くわけねぇだろ!」


と、挑発するように言う。


 山吹のアイデアも、無謀だったわけでは無い。

 アークの内側からのシュートが1点で、アークの外側から放ったシュートが2点になるということは、シュートが失敗しない限り、相手の半分しかシュートを打てなくても勝ち切ることができる。そして、体格的にもバスケの経験値にも大きな差がある相手を出し抜こうとすれば、ゴール付近のインサイドプレーは捨てて、自分ひとりでも得点が狙えるアウトサイドプレーにすべてを賭ける、という考え自体は、悪くないアイデアだとオレも感じた。

 

 ただし――――――。


 オレは、以前にバスケ部の練習風景を取材をした際のことを思い出す。

 男女双方のコートからボールが転がってきたとき、足元に転がってきた二つのボールの大きさが異なることに違和感を覚えたオレが、林先輩にたずねたところ、上級生は、


「男子用は7号球、女子用は6号球って言うのを使っていて、大きさも重さも違うんだよ」


と教えてくれた。

 普段の練習や試合で使っているボールと異なれば、繊細なコントロールを要求されるシューター・プレーヤーの山吹にとって、非常に不利な条件となることは、勝負の決着を見るまでもなく明らかだ。


 バスケ部への取材の回想や自分たちが極めて劣勢に立たされたことを認識する暇などなく、政宗たちのオフェンスで再開されたゲームは、予想するまでもなく、一方的な展開に傾いていく。

 最初の攻防で、自分たちのとオレたちのチームの実力差を把握したと思われる政宗たちは、完全な舐めプレーのモードに入った。


 一人でドリブルで切り込んでからのレイアップシュート、スクリーンプレーを利用したパスアンドゴー、オレたちディフェンスがボールの動きに目を奪われた瞬間に背後のゴール前に出されるパス……。

 余裕でスコアを重ねていく相手は、ついに、山吹を嘲笑うかのようにアークの外側からシュートを打ち始めた。


 これは、半分程度の成功率の精度でしかなかったが、なにしろ、オレたちは、リバウンドでボールを奪えないため、相手はプレッシャーを感じることなく、次々とシュートを放つことができる。


 さらに、悪いことに「オフェンスファウルがあった場合、フリースローは与えられない」という3x3スリー・エックス・スリーのルールを最大限に利用し、相手は、オフェンス側に立ったとき、デイフェンスに対して突進をしたり、手で押すなどのオフェンスチャージングを頻繁に仕掛けてきた。


 なかでも、集中的に狙われたのは緑川で、ボールを保持した相手に身体を寄せていくと、遠慮なく肘や上半身をぶつけられていた。

 それでも、執拗に相手に食らいつことするその姿には、鬼気迫るものがある。

 

 そんな姿のクラスメートが倒れた回数を数えていたオレが、額の汗を手の甲で拭いながら、


「おい、オフェンスのファウルでフリースローはなくても、3x3スリー・エックス・スリーじゃ、ファウル7回で、相手に1スローが与えられるんじゃなかったか?」


と、三人に向かって言うと、


「ハッ! 好きにしろよ」


と言って、政宗がオレにボールを放ってよこす。

 この時点でのスコアは、4対14とトリプルスコア以上のリードを許している。


 オレたちのチームの得点源と、その内訳については、説明するまでもないだろうが……。

 なんとか、アークの外側からのシュートを成功させることができるようになってきた山吹ではあるが、その精度は、まだ数回に一度の成功と言ったところだ。


 ボールを受け取ったオレは、


「頼んだぞ」


と言って、山吹に手渡す。


 彼女は黙ってうなずくと、シュート体勢に入り、この日、三度目のシュートを決めてみせた。


 現役プレーヤーの山吹あかりはともかく、相手の得点が勝利への折り返しに入ったあたりで、三人のラフプレーと、こちらを翻弄する動きに体力を削られたオレと緑川のヒザは、カクカクと笑いと始めていた。


(そろそろ、緑川もオレも、限界が近いな……)


 そんな考えが、頭をよぎったが――――――。


 コートの外から、


「タイムアウトだ!」


という声が上がったのは、そのときだった。

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