第3章〜最も長く続く愛は、報われない愛である〜⑦
昼休みに紅野アザミの手作りフィナンシェをいただくという役得と、緑川武志から相談を持ちかけられるという、あらたな厄介事を抱え込んだ翌日――――――。
オレは、その相談事を持ちかけた張本人である山吹あかりの話しを聞かせてもらうということで、女子バスケ部の練習が終わる午後7時まで、緑川とともに校内で時間をつぶしていた。
その緑川の話しによれば、昨日、LANEで山吹の悩みごとを聞くにあたって、オレが同席しても良いか、確認を取ったところ、アッサリと了承されたらしい。
これで、オレの出した1つ目の条件はクリアだ。
次に、なぜ、緑川が、山吹のことを気に掛けるのか? ということだが……。
これについては、おなじく、前日の放課後に、話しを聞かせてもらっていた。
「緑川、おまえは、自分の告白を嘲笑った山吹あかりを見返したい、と思っていたんじゃないのか? そんな相手の悩みごとなんて、放っておけば良いじゃないか?」
クラスメートの真意を探るべく、あえて挑発的に問いかける。
「たしかに、部屋に引きこもって、学校に登校する前までは、そう思ってた。いや、なんなら、先週の金曜日にバスケ部に訪問するまでは、そう考えていたんだけど……いつものルーティーンを仕掛けたあとで、山吹本人と二人で話したときに、気づいたんだ。彼女は、本当に悩んでいるんだって……」
「ふ〜ん、おまえが、そう確信するに至った理由はなにかあるのか?」
「確信……という訳じゃないけど、山吹と二人で話していたときに、心理テストみたいなルーティーンを仕掛けたんだ。その心理テストの質問を一生懸命考えている姿と回答の中身から、いま、彼女は本気で悩んで、困っていると、感じられたんだ。僕は、心理テストなんて曖昧なモノを信じてる訳じゃないけど、山吹の真剣な表情を見ていると、見捨てておけない感じがして……」
なるほど――――――。
オレも、緑川と同じように、簡単な心理テストで、人間の深層心理が判断できるなんて、疑わしいと思っているのだが……。それでも、その質問に真剣に答えている相手を緑川が好意的に捉えている、ということは伝わってきたので、オレの中で、引き続き悩めるクラスメートに協力することに前向きになっていた。
そして、もう1つ……。
緑川から相談を持ちかけられた直後、紅野アザミから、こんな申し出を受けたことも、オレの気持ちを後押ししていた。
「黒田くん、引き続いてだけど、緑川くんと山吹さんの相談に乗ってあげてくれないかな? 私のお菓子で良ければ、いつでも焼いてくるから」
笑顔の紅野に、そんな提案をされたら、どんな無茶な依頼だって、引き受けない訳にはいかない。
なんだか、上手くノセられた気がしないでもないが、なにごとも自分で背負い込んでしまうタイプのクラス委員のパートナーに頼られるというのは、悪い気はしない。
紅野には、以前に「クラス委員の仕事が長引く場合は、なるべくオレが作業を担当させてもらう」ということを伝えたのだが、彼女が、そのことを覚えてくれていたことを、オレは嬉しく感じていた。
緑川に関わることは、もう、お役御免だろうと思っていたが、先週までに引き続き、またも案件が持ち込まれたことに、内心で苦笑を浮かべつつ、その本人と話し込んでいると、待ち合わせ場所にしていた小会議室のドアがノックされた。
「ゴメン、遅くなって! 今日は練習を抜けられなくて……」
そう言って、会議室に入ってきた山吹あかりは、練習終了後に、急いで支度を整えてきたことがわかるくらい、息を切らせていた。
「いや、オレたちは、帰りが遅くなっても問題ないから……そうだよな、緑川?」
申し訳なさそうな表情の相手の気持ちを汲みながら、明るい口調でクラスメートに同意を求めると、男子生徒は、「うん、大丈夫だ!」と言って、力強く首をタテに振る。
笑顔混じりのオレの表情と緑川の真剣な表情を見比べながら、山吹あかりは、
「そっか……ありがとう……」
と言って、フッと表情を崩した。
「それじゃ、二人とも、話しの理解は早いタイプだと思うし、早速、本題に入らせてもらって良い?」
そうたずねる女子生徒に、オレとクラスメートは、だまってうなずく。
「じつは、ちょっと前から、他の学校の男子生徒に尾けられてる気がするんだ。最初は、偶然かと思ってたんだけど、先週くらいから、週に何回も下校するときの通学路で出くわすようになって……」
「そうか……それは、気味が悪いな……」
山吹の話しにうなずきながら答える。日の長い季節になっているとは言え、バスケ部の練習が終わる午後7時過ぎとなれば、あたりは暗がりになっている。そんな時間帯に、他校の男子と頻繁に顔を合わせるとなれば、不安にもなるだろう。
「ちなみに、その相手は、山吹の顔見知りなのか?」
オレが、続けて問いかけると、彼女は、なにかを噛みしめるように、苦い表情でうなずいた。
「ぶっちゃけて言うと、同中の男子たちなんだよね。ウチの学校と違って、あんまりガラの良い連中じゃないし、特にバスケ部のみんなには、男女問わず、なるべく関わりを持ってほしくないんだけど……」
言いながら、スマホを操作し、山吹あかりは、画像アプリから彼女の中学時代と思しき写真を表示させた。
「アタシの周りをウロついてるのは、この三人なんだよね……」
そう言って、差し出されたスマホのディスプレイには、どこかで見覚えのある茶髪の男子三人が写っていた。




