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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第四部〜ラムネ瓶の中のガラス玉はとても綺麗に見える〜
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第3章〜最も長く続く愛は、報われない愛である〜②

「僕は、黒田と同じクラスの緑川(みどりかわ)だ。先週、久々に学校に登校してきたから、雰囲気に馴染むために、黒田と一緒に各クラブを回らせてもらっているんだ」


 シロに報告を行ったときのような不安げな表情は影をひそめ、さわやかな笑顔すら浮かべて、クラスメートは自己紹介を行う。

 ただ、これまで緑川がルーティーンを仕掛けた相手とは異なり、我が部の後輩は、さして関心を示すようすもなく、これまでと同じように、ディスプレイに向かって、様々な表情を繰り出しながら、塩対応な言葉を返す。

 

「はあ……そうですか……」


「あ、あぁ……」


 出鼻をくじかれた格好になった男子生徒は、曖昧な言葉を口にしたあと、張り付いたような笑顔を浮かべることしかできないようだ。そんな緑川の言動に対して、桃華は、胡散臭い人物を見るような冷たい視線で上級生にチラリと目を向けると、鋭い指摘をしてきた。


「その羽根、男子の間で流行ってるんですか? 今日も何人かの男子が、そういうアクセを胸元に差しているのを見たんですけど……」


 その言葉で、オレは部室に来る間に覚えた違和感の正体に気づいた。


(そうだ! シロと別れたあと、廊下ですれ違った男子は、みんな緑川と同じように派手な鳥の羽根のアクセサリーを付けてたんだ!)


 ともあれ、クジャクの羽根に関心を示した桃華に対して、気を取り直したかのように、表情に明るさが戻った緑川は、シロ直伝の『孔雀の理論』を仕掛ける。


「この羽根が気になった? でも、手を触れないでよ。見たとおり、高級品だから」


 ようやく、会話の主導権を握ることができそうだ、とばかりに、自信に満ちあふれた表情で、お決まりのセリフを口にする同級生男子。

 しかし、我が広報部の下級生女子は、一筋縄では行くような相手ではなかった。


「はあ? 別に手に触ようとは思いませんけど……それに、どう見ても、その羽根、模造品じゃないですか? 高級品って言いましたけど、いくらなんですか?」


 上級生に対して、悪びれるようすもなく、淡々とした口調で言葉を返す桃華に、緑川は面食らったようで、

 

「ネ、ネット通販で10本600円……」


いつもと同じセリフを発しながらも、最後はトーンダウンするように、その言葉にはチカラが無くなっている。


「それ、面白いと思って言ってるんですか? ツッコミを入れてほしいなら、もうちょっと、まともにボケてください。あなたみたいなヒトは、こんなナンパまがいのことするより、パソコンに向かって、ソシャゲのキャラのTier表でも作ってた方が、お似合いですよ!」


 初対面のしかも年上の男子生徒相手に、この返答である。


「ゴ、ゴメン……」


 うなだれながら、謝罪の言葉を口にする緑川に対して、桃華は最後通告を言い放った。


「謝るくらいなら、最初から中途半端にボケるなって……ホント、()()()……」


「おい、モモカ! いくらなんでも、ちょっと、言い過ぎだぞ!」


 知らないこととは言え、不登校から復帰して一週間の生徒に、しかも、ご丁寧に、緑川のトラウマになっているワードを最後に付け加えての返答は、いくら桃華の口が悪いと言っても見過ごすことはできない。


「あっ……ちょっと、言い過ぎました。ごめんなさい」


 さすがに桃華も、言葉が過ぎたと感じたのか、オレの忠告のあと、すぐに上級生に謝罪した。


「いや、イイんだ……僕は調子に乗りすぎていたみたいだ……ちょっと、家で頭を冷やすよ」


 そう言って、肩を落としながら、緑川武志(みどりかわたけし)は、広報部を去って行く。

 パタリと部室のドアが閉じたあと、


「あの……ワタシ、何か言っちゃいました?」


 気まずそうに問うてくる後輩女子に対して、オレは苦笑して答える。


「まあ、あいつの地雷ワードが出てしまったっぽいからなぁ」


「それは、申し訳ありませんでした。くろセンパイ、緑川さんに、ワタシが謝っているって伝えてもらえませんか」


「あぁ、フォローはしとくから、モモカは、あんまり気にするな。こっちこそ、変なことに巻き込んで、すまなかったな……」


 そう言いながらも、オレには、気になっていたことがある。

 先週は、野球部の中江(なかえ)先輩に、寿(ことぶき)生徒会長をはじめ、その他大勢の女子だけなく、ターゲットとなる山吹(やまぶき)あかりを相手にしても、見事に会話の主導権をにぎり、緑川武志(みどりかわたけし)という生徒の存在感を示すのに役立ったシロ直伝のルーティーンも、桃華相手には、まったく歯が立たなかった。


「変なことって、さっきの緑川さんの会話ですか?」


「あぁ、詳細は省くが、モモカが指摘した胸元のアクセサリーから始まった会話は、女子と親しく会話するためのルーティーン・トークなんだよ。まさか、この広報部でも、それを始めると思ってなかったから、対応が遅れて、緑川を止めることができなかった。スマン」


 頭を下げながら、このルーティーンを授けたアドバイザーの語ったことを思い出す。


「この一連の流れで、だいたいの女子は、ココロを開いてくれる。ただし、例外は、付き合いたての彼氏がいるラブラブカップルの女子と、片想いをしている女の子かな? 片想いに関しては、『最も長く続く愛は、報われない愛である』って言葉もあるからね。そういう一途な女子には、他の男子が付け入る余地が無いから」


 澄ました表情で真理を説くように語るシロの言葉を思い返しながら、「なあ、話しは変わるんだが……」と、オレは、付き合いの長い下級生女子に気になることを聞いてみた。


「モモカ、もしかして、いま、気になってる男子とかいるのか?」

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