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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第四部〜ラムネ瓶の中のガラス玉はとても綺麗に見える〜
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第2章〜先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん〜⑧

「こうなると、今さら尾羽(おばね)の短いオスがあらわれても、メスには相手にされない!」


 そう断言してから、またもシロの一人芝居が始まる。


 ヒソヒソ……「ねぇねぇ、あのオスさぁ、尾羽が短すぎじゃない?」

 ヒソヒソ……「ホントだ〜! アタシ、メスかと思っちゃった〜!」

 

 「「ねぇ〜! 尾羽が短くて許されるのは、小学生までだよね〜!」」


 クッ……なんて、腹の立つメスたちだ……!

 ここは、オスの尊厳をかけて、発言しなくては!!


「ちょっと待ってくれ! メスの中には、尾羽の短いオスを好む個体だっているだろう? 進化の過程には、多様性だって必要じゃないか?」


「そうね……たしかに、尾羽の短いオスを好むメスもいるだろうし、そのオスは子孫を残すことが出来るかも知れない……だけど、その結果、生まれるのは、尾羽の短い息子。その息子は、より尾羽の長くなった世代の多くのオスたちとメスの獲得競争を戦わないといけない……その結果、尾羽の短いオスの一族は――――――ううっ……」


 顔を覆ったあと、涙をぬぐうような仕草を見せたシロは、尾羽の短いオス一族の悲劇を暗示するかのように、顔を覆う。


「あ、あくまで、鳥の世界の話しだよな……? なあ、黒田」


 オレと同じ不安を感じたのだろう、緑川が不安げな表情で問いかけてくる。オレは、うなずきながら、再びシロにたずねた。


「だったら、どうすれば良いんだ? オレたちのようなメスに好かれない外見で生まれた非モテの男子は、相手に恵まれないまま、一生を過ごせって言うのかよ!?」


 声を上げるオレに、緑川武志も「そうだ! そうだ!」と同調する。


「まあ、生物学的には、ね……」


 ただ、シロは、そう言ったあと、ニコリと微笑んで付け加える。


「でも、わたしたちは、人間だもの。知恵と工夫で、不利な状況を乗り越えることができる。なにも、急にイケメンになれなんてことは言わないから安心して!」


「ち、知恵と工夫って、どうするんだよ?」


 今回の講義のメイン受講者である緑川が、質問を重ねる。

 そして、アドバイザーは、その質問を待っていたとばかりに、取り出したクジャクの羽根を模したアクセサリーの根本を指先でイジり、羽根をクルクルと回しながら、アイテムの重要性を強調する。


「その羽根モドキを胸元に差しておくって言ったよな? それに、どんな効果があるんだ? まさか、人間の女子も、孔雀みたいに羽根に惹かれるって訳じゃないよな?」


 オレがたずねると、シロは、微笑んだままうなずいた。


「もちろん、コレを身につけることで、女子を惹きつけようって訳じゃない。だけど、このアイテムをさっき言った会話の『ツカミ』に使うの。たとえば、こうした見慣れないモノがあると、女子の目を引き付けることができる。男子と違って、女子は変化や違いに敏感だからね。そこで、会話が生まれるの。例えば、こんな感じ」


 そう言って、シロは胸元にアクセサリーを差して、お得意の(?)コント……もとい、一人芝居を始める。


「あっ、リュウジ、面白いモノを着けてるね。その羽根、ちょっと、触らせてもらってもイイ?」


「おっと、ヨツバ……これは、高級品なんだ。気安く触らせるわけにはいかないな……」


 男子役と女子役を演じる際、声色だけでなく、右に左に、と立ち位置を変えて、役を演じ分けている。

 それしても、男子役と女子役の名前が、オレとシロのモノなのは、どういう意図があるんだ? そんな個人的な疑問をよそに、小芝居は続く。


「あっ、ゴメンね。そんなに高価なモノだったんだ」


「あぁ、ネット通販で10本600円だ」


「そうなんだ……って、全然、高級品なんかじゃないじゃない! もう、リュウジの意地悪!」


 そう言ったヨツバちゃんは、少女マンガの登場人物のように、相手をポカポカと軽く叩くような仕草をしている。そろそろ、口を挟んでも大丈夫だろうか?


「――――――なあ、シロ……色々とツッコミを入れたいところがあるんだが……それを全部おいておいて、そのアクセサリー1つで、そんなに上手く行くものなのか?」


 どこからどう見ても、怪しげな会話の展開に疑念が湧いてくる一方だが、シロは、自信満々のようすだ。


「大丈夫! このアイテムがご不満なら、派手なサングラスとか、わざとらしいウイッグとかでも良いけど……学校内での会話を考えるなら、この辺りが妥当なところでしょ? それに、これは、会話の『ツカミ』と好奇心旺盛な相手の欲求に手を触れないで、と『イジリ』を行う超高度な手法なんだ」


「そうなのか?」


「経験が無い段階では、信じられなくても仕方ないけど、騙されたと思って、試してみる価値はあると思うよ。実際に、わたしは、このやり方で、お仕事で知り合う女の子たちと仲良くなっているから。ジョークで相手の心を開かせつつ、会話の主導権を握るためには有効な方法だと言っておこうかな」


 まだ、半信半疑ではあるが、ネットメディアだけでなく、テレビや雑誌の仕事もこなしていたシロが実際に利用し、効果を上げていたというなら、少しは信用してみようという気持ちになる。

 そして、彼女はさらに言葉を続けた。


「このあと、さらに、そのターゲットになっている女子との会話には興味の無い振りをして、他のヒトとしばらく談笑すると、より相手を惹きつけるのに効果的。相手が自分に興味を持ったところで、こっちは、関心のない素振りを見せる。相手が食いついたら引く。逆に引いたら押す。『恋愛の法則は、押したり引いたり アダムとイブの次代から神様が決めていた』って、昔の歌でもあったでしょ?」


 そんな歌は知らん……と思いながらも、あとでスマホで検索してみたら、30年も前にリリースされたCMソングの歌詞だった。

 今どきの女子高生のカリスマのくせに、時おり微妙に古い年代の事例を出してくるシロに困惑しつつも――――――。

 週明けの放課後、彼女が言ったことが、まるで正確な予言のようにズバズバと的中したことに対して、感心すると同時に、背筋が寒くなる感覚を覚えたことは、説明するまでもないだろう。

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