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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第四部〜ラムネ瓶の中のガラス玉はとても綺麗に見える〜
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第2章〜先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん〜⑥

 翌週の月曜日――――――。

 週末に、みっちりとシロの講義を受けた緑川(みどりかわ)が、登校することになった。


 アドバイザー役の歯に絹きせぬ言動と時おり見せる過剰な演技にも動じることが少なくなってきたので、大丈夫だとは思うが、念のため、この日は、いつもより早く自宅のマンションを出発して、緑川の自宅に寄ってから一緒に登校することにした。

 

 万が一……という心配もよそに、目元の表情に明るさが見られるクラスメートは、初夏の季節でもマスクを装着している。

 これには、二つの狙いがあり、ひとつは、周りの生徒に、緑川が病気を理由に登校できなかったと察してもらうため、もうひとつは、シロの発案で、表情を引き締めるため、こっそりと口の周りの口輪筋を鍛えるのに役立つということだった。


 二年に進級してから初登校となるクラスメートと一緒に教室に入ると、真っ先に二人の女子生徒が声をかけてきた。


「緑川くん、来てくれたんだ。良かった……」


 クラス委員として責任を感じていたんだろうか、紅野アザミは、男子生徒の姿を確認し、ホッとしたような表情を浮かべている。


 その一方で、

 

「緑川くん! 四月に転校してきた白草四葉です。一年間ヨロシクね」


まるで、初対面であるかのように、緑川に声をかけるシロ。

 そのようすを見た周りの生徒たちは、まさか、白草四葉が、金曜日の放課後から付きっきりで、告白を断った女子を見返すためのアドバイスを行っているとは、夢にも思わないだろう。

 

(相変わらずシロの演技力は、スゲェな……)


 苦笑しながら、登校初日のクラスメートに目を向けると、マスクで覆われた口元を確認することはできなかったが、その目は、オレと同じく、何かを達観したかのように、目を細めながら、


「こ、こちらこそ、よろしく、白草さん」


と、ぎこちないながらも返答している。


 その不器用にも感じられる受け答えは、きっと、周囲の生徒からは、「四葉ちゃんに話しかけられて戸惑っている」と、解釈されていることだろう。

 そんなことを考えていると、もう一人、オレのもとにクラスメートがやって来た。


「先週は、放課後に顔を見せないと思ったら、彼に関わってたの? 竜司は相変わらず、苦労人気質だね」


「クラス委員としての仕事を果たしてるだけだ。それに、放課後は、緑川に広報部の手伝いをしてもらう予定だからな」


 同じ部に所属する壮馬に言葉を返すと、親友は、「ふ〜ん」と興味なさげに返答するだけだった。


 ◆


 放課後になり、オレは予定どおり、緑川と連れ立ってクラブ訪問に向かうことにする。

 シロのアドバイスを受けた我がクラスメートは、放課後になってから、制服の胸ポケットに()()()()()()()を指している。

 

 最初に訪れるのは、引きこもり状態にあったクラスメートの部屋の扉を開かせるために、大いにチカラを貸してくれた我が校が誇る強打者(パワーヒッター)が所属する野球部だ。


 同じクラスに所属していながら、教室では、緑川が色んな生徒に囲まれていたため、キッチリとお礼を言えなかったこともあり、テルこと、佐藤照明(さとうてるあき)には、あらためて、シッカリと感謝を伝えておきたい。


 広いグラウンドのすみで、部員たちと一緒に練習前のウォームアップを始めようとしている佐藤とキャプテンの大山(おおやま)先輩に声をかける。


「ちわッス! 広報部です。今日は、今年の新入部員のようすを見学させてもらいに来ました」


「おう、来たか竜司。キャプテンが、お待ちかねだぞ」


 最初に反応したテルに続き、穏やかな表情の上級生が声をかけてくれる。


「黒田くん、いらっしゃい。今日の取材は二人でするの?」


「よろしくお願いします。ツレの緑川は、久々に学校に登校してきたので、学校の雰囲気に馴染めるよう、一緒に各クラブを回ってるんです」


「よ、よろしくお願いします」


 上級生の問いかけに返答したオレが、緑川を紹介すると、クラスメートは、やや緊張気味にあいさつする。

 そんな緑川のようすを「こちらこそ、よろしく」と、穏やかな笑顔で受け止めたキャプテンは、


「それで、今日はどんなことを聞きたいの?」


と、たずねてきた。


「えぇ、新入生の入部状況と期待の新入部員、それから、今年のチームの豊富について話してもらえると嬉しいです」


 取材道具のICレコーダーと手帳を準備してから上級生に返答すると、大山先輩は落ち着いた口調で答えれくれた。


「今年も、ありがたいことに、10人以上の部員が入部してくれたんだ。その中でも、外野手の森下は、1年とは思えないバットスイングを見せていて、練習試合でもチャンスに強いから心強いよ。チームとしては、2年生投手の才木が、グングンと成長しているし、自分と同じ三年の青柳が復調すれば、本気で甲子園を狙えると思うんだ」


 その返答に、オレは、笑みを浮かべてうなずいて、キャプテンと二年生部員に声をかける。


「それは、期待できそうですね。夏の大会前には、また全力取材をさせてもらいます。クラスメートの手助けをしてくれる主砲もいるし、野球部にはお世話になっていますから……先週は、ありがとうな、テル!」


「おう、イイってことよ! 宮っ子ラーメン楽しみにしてるぞ」


 テルからの返答に、親指を立てて応えると、そこに女子生徒の声が割って入ってきた。


「あっ、黒田くんだ! 今日は二人で取材なの?」


 キャプテンと同じようなことをたずねてきたのは、野球部マネージャーの中江友里(なかえゆり)先輩だった。


「いえ、同行してくれている緑川は、久々に学校に登校してきたので、学校の雰囲気に馴染むために、一緒に各クラブを回ってるんです」


「そっか、緑川くんっていうんだ。うちの野球部をヨロシクね!」


 笑顔で返答する中江先輩は、続けてこう口にする。


「それしても、緑川くん。面白いモノを身に着けてるね。その羽根、ちょっと、触らせてもらってもイイ?」


 そう言って、クラスメートの胸元に飾られたクジャクの羽根を模したアクセサリーに手を伸ばそうとする先輩の行動を目の当たりしたオレは、アドバイザーの予言どおりのシチュエーションが起こったことに驚き、アドバイスを受けた本人と視線を交わした。

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