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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第四部〜ラムネ瓶の中のガラス玉はとても綺麗に見える〜
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第2章〜先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん〜⑤

「いきなり、そういうハイレベルな問題を出されても困る! なにか、ヒントは無いのか?」


 唐突に出題されたクイズに正解を出すべく、オレが、何か手掛かりになることはないのかとたずねると、隣では、緑川が


「そうだ! ヒントをくれよ!」


と、必死なようすで、訴えかけている。


「そうだよね〜。それがわかっていれば、二人とも苦労はしないよね〜」


 ニヤニヤと微笑みながら、オレたちをイジるシロ。彼女は、さらに続けて語る。


「それじゃ、大ヒント! 答えは、少女マンガの中にある!」


「「少女マンガか……」」


 緑川とオレの声が重なる。そして、クラスメートは、「これだ!」という回答を思いついたのか、声を張り上げた。


「わかった! 雨の日に子猫を助けてあげる不良少年! これだろう!?」


 オレは、少女マンガ全般に詳しいわけではないが、たしかに、そういう設定は良くあるパターンなのではないか、と感じる。気になる判定は――――――?


「残念! 惜しいけど、不正解です!!」


 シロは、両手で思い切りバツ印を作る。

  

「なっ、なんでだよ!? 少女マンガで昔から良くあるパターンじゃないのか?」


 声を上げる緑川に、今度は、オレがウンウンとうなずいた。

 しかし、シロは、チッチッチと人差し指を小刻みに動かしながら解説する。


「たしかに、ヤンキー少年の優しい一面が見られるっていうのは、『天◯なんかじゃない』の須◯晃クンのように王道だけど……最近じゃ、さすがにそんなシチュエーション減ってきてるでしょ?」


「まあ、たしかに、ちょっとイメージが古いか……」


 オレと緑川が、声を揃えて言うと、シロはジト目でこちらに視線を向けながら、問いかけてきた。


「あと、これって、男女の立場を逆転させれば、非モテのオタク男子に優しいギャルってキャラクターになると思うんだけど……二人とも、今の回答に、自分の好みが反映されてない?」


 あまりに鋭い指摘に、オレたち二人はアドバイザー役の女子から目をそらす。


「な、なんのことか、サッパリわからないな……」


 あさっての方向を見ながら答えると、シロは無表情のまま、


「そうなんだ〜? 『その磁器人形(アンティークドール)は恋をする』の北川真凛(きたがわまりん)ちゃんが好みだって言ったり、チックタック強豪校のダンス動画に見入ったりしてるように感じたのは、わたしの勘違いだったのかな〜?」


オレの方を見つめて、問い詰めるように語りかけてくる。

 その視線に耐えられずふたたび顔をそらそうとしたとき、オレたち二人の言動を気にするようすもなく、緑川がシロに問いかけた。


「じゃ、じゃあ、正解は、なんなんだよ!?」


「あっ、そうだったね。これ以上、待っていても二人から答えは出てこなさそうだし……正解を発表しないとね!」


 ニコリと笑みを見せたシロは、コホンと咳払いをしたあと、解答を告げる。


「正解は、第一印象が最悪なイケメンでした! 『風と共に去りぬ』のレッド・バトラー、『花◯り男子』の道◯寺司を筆頭に、最近の作品でも、こういうキャラクターは、たくさん出てくるよ」


 いや、 『風と共に去りぬ』は、少女マンガじゃないだろう、とツッコミを入れたいところだが……。

 たしかに、あの映画って、「少女マンガあるある」みたいなシチュエーションが満載なんだよな。恐るべし、古典の名作。あと、この映画の主人公は、シロの母親である小原真紅の芸名の由来にもなっている。


「た、たしかに、そういうキャラクターも少女マンガでありがちかも知れないけど……それが、今回の話しとどう関係あるんだよ? だいたい、イケメン限定なら、ほとんどのオトコは対象外じゃないか?」


 納得がいかない、という表情の緑川がたずねると、シロは、またも人差し指を小刻みに揺らし、澄ました表情で答える。

 

「実際の恋愛では、イケメンって要素は、そんなに大事じゃないんだ。大切なのは、相手の感情を揺さぶるってこと。少女マンガで、第一印象が最悪なイケメン君は、たいてい主人公に対して悪態をついたり、からかったりするでしょう? でも、そのあと、彼が隠しがちな優しい一面に気づいて……ってパターン。要するにギャップに萌えるって意味では、二人が考えた子猫を拾う不良少年も的外れって訳じゃないんだけどね」


「そのからかったりするっていうのが、いわゆる『イジリ』につながるってことか?」


「そのとおり! わたしの講義を受けているだけあって、鋭いねクロ!」


 さっきは、()()()()()()()()()()()()だのなんだの、思い切りディスられた気がしたのが、その反動からか、こうして誉められると、ちょっと嬉しい。


「ただし! イジったあとは、必ず相手をフォローする一言を入れること。その一言が、他の人が気づかないような視点なら効果は倍増! そうすると、どうなるか――――――」


 オレの言葉に答えたシロは、そこで、言葉を区切り、自分の世界に没入する。


「最初は、イヤなヤツだと思ったのに……」


「ホントは、わたしのことを理解してくれているの?」


「どうしよう、このヒトのことを好きになってもイイのかな?」


 まるで、少女マンガの背景のように、ふわふわのシャボン玉スクリーントーンが見えそうな『恋する乙女』じみたセリフを口にしながら、唐突に一人芝居をはじめたアドバイザー。その姿にドン引きしているのは、今回の講座の受講生である。


「なあ、白草四葉って、いつもこうなのか?」


 緑川の問いかけに、オレは短く答える。


「あぁ、オレにアドバイスしてたときも、こんな感じだった」


「そうか……黒田、良くこんな女子を相手に告白しようと思ったな……」


 クラスメートが口にした言葉は、オレ自身が自分に対して感じている疑問でもあった。

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