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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第四部〜ラムネ瓶の中のガラス玉はとても綺麗に見える〜
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第1章〜愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ〜⑩

 あらためて訪れた緑川武志(みどりかわたけし)の部屋を見渡すと、書斎と言っても良いほどの書棚の数と、その書棚に収まる本の数が目についた。小説やコミックのタイトルは、歴史モノが多いことに気がつく。また、判型を問わず、ライトノベルのタイトルも、いくつか確認できる。


「――――――で、僕に聞いてほしい話しってなんなだよ?」


 オレに、学習机に備えつけの椅子にうながし、自身はベッドに腰掛けた緑川は、そう切り出してきた。


「昨日、置かせてもらったメモの動画を見てくれたのなら、だいたいのことはわかるだろう?」


「まあ、そうだな……黒田()女子にフラレてたんだな」


「あぁ、しかも、短期間で二回()な……」


 緑川の返答の中に、「黒田()」という、助詞が入っていることで、オレは、自分の推察が正しかったことを確信しつつ、まだ核心には触れずに、まずは、こちらの話題だけを提供する。

 勘の良いタイプの人には説明するまでも無いと思うが、QRコードで読み取れるようにしていたのは、春休みに紅野アザミに告白してフラレた直後に、悪友の壮馬が撮影していた動画と、先日のオープン・スクールのイベントで白草四葉に告白し、華々しく玉砕したときの録画映像だ。


 どちらも、いまの段階では非公開映像になっているが、一時的に、URLを入力した端末からは閲覧可能になる設定に変更していた。


「どうして、別々の女子に短期間で二回も告白したんだよ? ふつう、告白を断られたら、気持ちが落ち込むだろ? 黒田は、女性不信になったりしなかったのか?」


 どうやら、緑川武志の関心は、最後に問いかけてきた疑問にあるらしい。ただ、クラスメートの知りたがっていることは、あえて一度スルーする。


「広報部の情報操作で、二回目の告白は、学園祭にむけてのデモンストレーションってことになってるんだけどな……これは、とある事情で、そうした方が良いという部内の判断だったんだが……そのために、オレは、二度目の心の傷を話せる相手がいなかったんだ。だから、先入観や、よけいな情報がなく、まっさらな状態の緑川になら、話しを聞いてもらえるかも知れない、と思ってな……」


「そ、そうだったのか……それで、紅野のあとに、しばらくして、あの白草()()に告白したのは……?」


「あぁ、そうだったな……オレが、紅野への告白の失敗から、すぐに立ち直れたのは、シロ……白草四葉のおかげだ。あいつは、紅野にフラレて落ち込んだまま新学期を迎えたオレに発破を掛けて、告白成功のための『超恋愛学』ってのを授けてくれたんだよ」


 オレが、ここ、ひと月半くらいの間に起きたことを思い返しながら語ると、うなずきながら話しを聞いていた緑川は、まだ解明されていない疑問をふたたび投げかけきた。


「黒田が、告白の失敗から立ち直ったのはわかったけど、それが、どうして、白草さんに告白することにつながるんだ? おまえは、紅野に告白リベンジをしようとしてたんだろう?」


「あぁ……それを言われるのが、自分にとって一番ツライところでもあり、オレ自身が自分に対して、不甲斐なさや不誠実さを感じている部分でもある。たしかに、オレは、ある時期まで紅野アザミに、自分に振り向いてもらいたい、と思ってアプローチをしていたんだけど……()()()()()が重なって、いつからか、白草四葉という女子生徒に惹かれるようになっていたんだ」


 その()()()()()の中には、この春に再会してからのことだけでなく、小学生のときにシロと出会った頃の思い出も含まれているのだが……。

 そのことを他人に話したところで、オレの感情を正当化し、理解してもらうことが出来るとは考えられない。


「そうか……そのことは、誰にも話すことが出来なかったんだな?」


「あぁ、さっき言った広報部が、『告白イベントは、デモンストレーションだ』という情報操作を校内で行ったのは、紅野の気持ちを傷つけないためだ。白草四葉のアドバイスを参考にしたオレは、結果的に紅野の気持ちをもてあそぶようなことをしてしまったわけだからな……これ以上、彼女をオレの身勝手な振る舞いに巻き込みたくなかった」


 自分の行為や行動を(あがな)う気持ちがあろうと、それが許されるわけではないと思うが、オレは、自分の胸のうちに抱えた想いを誰かに聞いてもらいたかったのだろう……。

 新学期以降も面識のなかったクラスメートが、落ち着いた態度で話しを聞いてくれたことに、ずいぶんと救われたような気持ちになった。


「色々なこと、か……まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()、無理もないかもな……」


 オレの話しをひと通り聞いた緑川は、納得したようにつぶやいた。

 正直、オレがシロに惹かれたのは、そんな言葉で表現できるような理由ではないのだが……。


 それでも、オレに共感を示してくれたということは、ここまでの会話で、新学期から一度も教室に顔を見せなかったクラスメートが、こちらに心を開いてくれているということだと判断した。


 そうして、オレは、緑川武志に今回の作戦のキモとなる本題を提案する。


「緑川、オレの話しを聞いてくれて、ありがとうな。そのお礼と言ってはなんだが……良かったら、おまえの話しも聞かせてくれないか?」

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