第4章〜三大配信者 芦宮高校最大の決戦〜⑮
「さて、最後は、黄瀬くんと文芸部のみなさんのグループね……」
鳳花部長は、満を持したようなためを作り、こちらを向いて、意味深長な笑顔を見せたように、ボクには感じられ、ゴクリ……と思わず固いツバを飲み込んでしまう。
それは、文芸部の代表である天竹さんも同じようで、ボクの隣で、緊張からなのだろうか、表情が強張っているの隠せていない。
そんな過剰な反応に気づいたのか、部長は、少し困ったような表情で、ボクらを諭すように語った。
「そんなに、緊張しなくても良いわよ……ふたりとも、せっかく、優勝したんだから、もっと堂々としていれば良いのに……」
鳳花部長の一言に、天竹さんとボクは、顔を見合わせる。
その瞬間、文芸部の代表者さんは、クスリと可笑しそうに笑みを見せたので、ボクの緊張も少しほぐれた気がした。
「すみません……そうですね……ボクたちの作品に対する部長の所感を聞かせてもらえますか?」
代表者に向きなおって答えると、彼女は、微笑んで「それでは……」と前置きをして語りだす。
「まずは、黄瀬くん、天竹さん、トップ得票おめでとう。今回の企画の期間中は、苦労も多かったんじゃないかと思うけど、良くがんばってくれたわね。ふたりは、今回の勝因をどんな風に考えている?」
鳳花部長のそんな質問に、天竹さんと再び視線を交わし、ボクは彼女に回答権を譲ることにした。
「私は……多くのクラブが取材に協力してくれたことが、今回の得票に繋がったと思っています。自分たちが、協力しくれたクラブに、どれだけ貢献できたかはわかりませんが……他のグループよりも活動人数が多かったので、それだけ、丁寧に各クラブの声を聞かせてもらうことができたと思っています」
「そう……謙虚だけど、的確な分析ね……」
文芸部の代表者の回答に微笑を浮かべて、うなずきながら返答した鳳花部長は、
「黄瀬くんは、どう考えているの?」
と、ボクに話しを振ってきた。
「そうですね、ボクも天竹さんと、だいたい同じような見解です。文芸部のみんなが各クラブとの交渉や聞き取り取材に対して、積極的に活動してくれたので、それだけ多くのクラブと提携してもらうことができました。そして、人数が多くて、スケジュールにも余裕があったことが、最終的にバドミントン部の協力をとりつけることができた要因にもなったと考えています。ボクは、対外交渉が得意な方ではないので……文芸部のみんなが、活発に行動してくれなかったら、今回の結果はなかったと思います」
ボクが、そう返答すると、天竹さんが意外そうな表情でたずね返してきた。
「そうだったんですか? てっきり、黄瀬くんは、広報部でこうしたことに慣れていると思っていたので、私は安心してクラブ訪問をすることができていたのですが……」
すると、竜司がとつぜん話しに割って入ってきた。
「天竹は、コイツのコミュ障ぶりを見てないのか? クラブ訪問を問題なくこなすようになるとは、壮馬も、ずいぶんと成長したもんだな……」
「なんだよ! ボクの対人関係のスキルは、別に関係ないじゃないか!?」
ニヤニヤした顔つきで語る親友に秒で反論すると、中学生時代からボクらのことを良く知る鳳花部長が、「あなたたちは、本当に仲が良いわね……」と、クスクスと笑いながら言ったあと、
「でも、黒田くんの言ったことについては、私も同感ね。黄瀬くんが対外交渉のスキルを身につけてくれたことは、広報部としても大きなメリットがあるわ。これで、外部との撮影前の事前交渉も黄瀬くんに安心して任せることができそう」
と、付け加える。
「いやいや! 部長、ちょっと待ってくださいよ……今回は、他に人が居なかったからで、やむを得ず、というかんじだったんで……」
このまま、広報部内で対外交渉の役目を担わされてはたまらない、とコチラ側の言い分を訴えるものの、我が部の代表者は、ボクの発言を一蹴する。
「新入生が入ってくれたとはいえ、みんなも認識しているとおり広報部は、常に人手不足なのよ。各自ができることを増やしていってもらわないと、とても仕事が回らないわ」
「――――――だ、そうだ。よろしく頼むぜ、渉外担当」
部長の一言のあと、竜司は、ニヤリと笑って、ボクの肩に手を回してきた。
(どうして、こうなった……ボクらは、今回のコンテストでトップの投票を得たのに……)
ただ、親友に絡まれながら、苦虫を噛み潰すような表情になってしまったことを察したのか、鳳花部長は、
「そうそう、まだ、黄瀬くんと文芸部の作品に対する私の見解を話していなかったわね……」
と、話題を変えようとする。
まとわりついてくる友人を引き離そうとする間に、天竹さんが、「ぜひ、よろしくお願いします!」と、返答すると、部長は、小さくうなずいてから、私見を述べはじめた。
「今回の黄瀬くんたちの作品で、もっとも優れていたところは、各クラブの部員さんたちの《想い》を丁寧に聞き取って、映像に仕上げていたことね……聞き取ったことをそのままインタビューとして映像にするだけでなく、いろんなクラブの共通する《想い》を見つけ出して、編集することができていたわ。時間をかけた丹念なクラブへの取材と、テーマを絞った編集技術は、他のグループより優れていたんじゃないかしら。私の期待どおり、良くがんばってくれたわね」
もちろん、それは、天竹さんをはじめ、文芸部を含めたメンバー全員に対しての講評なのだろうけど、まるで、ボクだけに向かって話しかけてくれているようで……。
落ち着いた口調ながらも、にこやかな笑みを浮かべた彼女にそう言われると、ついさっきまでのモヤモヤとした気分もどこかに消えて行ってしまう。
(相変わらず、部長は、ズルいなぁ……)
などと考えていると、我が部の代表者は続けて、こう言った。
「さて、あと、ふたつ伝えなければいけないことがあるの……ひとつ目は、今回のコンテスト優勝の特典として、黄瀬くんと文芸部合同で、夏休みの新しい企画を考えてほしいの」
鳳花部長の突然の申し出に、ボクと天竹さんは、またも顔を見合わせる。
そして、部長が語った次の一言は、これまで和やかだった放送部の雰囲気を一変させるのに十分なチカラを持っていた。
「そして、もうひとつ……事前に取り決めていた罰ゲームは、どうするの?」