第4章〜三大配信者 芦宮高校最大の決戦〜⑧
ステージ上の天井から吊るされた大型スクリーンに、サッカー部の練習着を着た部員と彼らと向かい合うように立っている芦宮サクラが、映し出された。
BGMには、芦宮高校の校歌をスローテンポにアレンジした楽曲が流れている。
「……というわけで、クラブの取材にやってきました! まず、最初はサッカー部の紹介です! サッカー部からは、キャプテンの香川さんとチームのエース・ストライカー堂安さんに来てもらいました〜!」
最初に拍手するような仕草をした芦宮サクラの言葉に続き、「まずは、自己紹介をどうぞ!」とうながされたふたりの部員が、Vtuberのリクエストに応じる。
「サッカー部・キャプテン、三年の香川慎司です」
「サッカー部・二年、堂安立です」
カメラを見据えて、しっかりと自分たちの名前を名乗った部員に、サッカー部の関係者と思われる生徒から、拍手が起こる。
芦宮サクラは、続けてインタビューを行った。
「サッカー部は、全国大会に出場したこともあるけど、今年のチームの特長を教えてください」
「今年は、ディフェンスラインを中心に、しっかりと守りを固めつつ、ボールを奪ったあとの速攻で攻めるカタチを取っています。前線にボールを回せば、あとは、ウチの得点王が点を取ってくれるから……なっ、堂安!」
「お〜、堂安さんは、キャプテンからの信頼も厚いんですね〜? 堂安さん、先輩からの期待は、プレッシャーになったりしませんか?」
「まあ、点を取るのが、自分の仕事なんで……みんなが繋いでくれた想いを相手ゴールに叩き込む気持ちでやるだけッス!」
「わ〜! さすが、エース・ストライカー、カッコいい一言ですね! 続いて、クラブの今年の目標を聞かせてください」
Vtuberの問いかけに、香川主将は、さわやかな笑顔で応じる。
「6月のインターハイ県予選では、惜しくも準決勝で負けてしまったので、これからは、冬の選手権に向けて、練習に励みたいと思います」
「なるほど〜、期待したいですね! それでは、最後に全校生徒に向けて、一言お願いします」
「夏は、全国大会に出られなかったけど、本番の冬は、国立競技場目指してがんばるんで、応援よろしくおねがいします」
最後は、香川先輩と堂安のふたりが、そろって小さくガッツポーズを作って、インタビューを締めくくった。
ディスクジョッキーが、レコードをスクラッチするときのような効果音が鳴り、野球部の紹介に移る。
サッカー部の紹介時間は、わずか、一分ほどだったが、なにせ、竜司たちのグループは、取材するクラブの数が多い。
サクサクと体育会系の紹介が進み、続けて、美術部の加納部長が登場した。
彼女がスクリーンにあらわれると、ボクの周りの文芸部のメンバーに、ピリッとした空気が流れる。
ボク自身は、美術部に取材交渉をしに行ったわけではなく、彼女たちの意思確認のために部室を訪問しただけだが、美術部部長と直々に交渉し、最初に色よい返事をもらいながら、その約束を反故にされた石沢さんたちは思うところもあるだろう……その気持ちは、わからなくもない。
「今度は、美術部にお邪魔しています! コチラの美術部は、ワタシ、芦宮サクラのデザイン原画を担当してくれたんです! ある意味、ワタシの生みの親と言っても過言ではありません! 早速、代表者さんにお話しをうかがいましょう! まずは、自己紹介をどうぞ」
「美術部の部長、加納です。よろしく」
Vtuberにうながされた自己紹介は、非常に簡潔なものだった。
これまで登場した体育会系の面々と違い、加納部長は、こうしたインタビューなどが得意ではないのか、表情に変化がなく、どことなく、ぎこちなさを感じさせる。
それでも、芦宮サクラが、屈託のない表情で、
「ワタシのデザインは、どんな風に決まったのか、その経緯を教えてくれますか?」
と、問いかけると、加納部長の表情は、幾分か柔らかくなった。
「芦宮サクラのデザインは、美術部内でデザイン案を募って、多数決で決定したのよ。ちなみに、私が描いたモノが選ばれたわ」
「おぉ〜、それでは、このデザインは、部長さんのアイデアということですね! ワタシを生み出してくれて、ありがとうございます」
Vtuberが、感謝の言葉とともにお辞儀をすると、加納部長は、謙遜したように笑みを浮かべる。
「私は、デザイン案を描いただけだから……あなたを実際に動いているのは、コンピュータークラブの人達のおかげでしょう?」
クスクスと、おかしそうに微笑んでいる彼女に、芦宮サクラは、うなずくようにして返答する。
「それでも、美術部のみなさんが、ワタシのお母さん的存在であることは変わりませんよ。では、そろそろお時間なので、美術部のアピールポイントを全校生徒のみなさんにお伝えください」
「今回は、学校のキャラクターを作ろうというアイデアに協力させてもらいました。美術部は、個人の出展以外にも、さまざまな学校活動のデザイン協力を行っているので、自分たちの作品を見てもらえると嬉しいです」
最初にぎこちない感じとは一転して、朗らかな表情で語る加納部長の口調は、なめらかになっていた。
「佐倉さんは、相手の話しを引き出すのが上手ですね……」
ボクの隣で、つぶやくように語る天竹の言葉に、「そうだね」と、うなずく。
最後に、芦宮サクラのモーションキャプチャを担当するコンピュータークラブの紹介で、竜司たちの制作した動画は終了した。
彼らの動画が終了すると同時に、ボクは大きく息を吸い、呼吸を整える。
次は、いよいよ、ボクたちの出番だ。