第4章〜三大配信者 芦宮高校最大の決戦〜⑦
ステージから降りてきた白草さんは、同じ舞台に立ったダンス部のメンバーや宮野さんたちとハイタッチを交わしている。
全校生が見守る観覧席からは、
「ダンス部、最高〜!」
という、ひと昔まえの映画のコマーシャルのような歓声も上がった。
おそらく、ダンス部の部員が発した声だとは思うけど、その一言は、いまの大講堂の雰囲気を言い表している。
その歓声に、ステージに立ったメンバーたちとともに、手を振って応えた白草さんは、竜司と佐倉さんの方に向けて、フフン……といわゆるドヤ顔で視線を送った。
ボクの位置からでは、佐倉さんの表情は確認できなかったけど、余裕の笑みを見せる白草さんに対して、竜司も彼女の視線を受け止めるような不敵な笑みを浮かべているように見える。
「会場は、あたためておいたから、がんばってね、クロ!」
「あぁ、感謝してるぜ! これで、オレたちも、やりやすくなった」
真冬の空気が乾ききった時期とは真逆の季節なのに、ふたりが交わした視線からは、触れると火傷しそうな火花がバチバチと飛んでいる。
そして、視線を移した親友は、下級生に声をかける。
「それじゃ、行くかモモカ!」
「えぇ、やってやりましょう、くろセンパイ!」
竜司と佐倉さんが、パンとハイタッチを交わすと、ステージ上から彼らの出番を告げるアナウンスが流れた。
「さぁ、期待どおり、最初から盛り上がってるね〜! 続いては、二年生の黒田くんと一年生の佐倉さん、どうぞ!」
進行役の寿生徒会長に名前が呼ばれると、竜司がステージに上がって行く。
一方の佐倉さんは、舞台横に設置された簡易ブースで、カメラ付きのノートPCの前に座っている。
白草さんたちのプレゼンのおかげで盛り上がる観覧席からは、竜司たちにも拍手が送られた。
その拍手が鳴り止むのを待ってから、親友は、大きく呼吸をしたあと、落ち着いた口調で語り始めた。
「大きな拍手をありがとう。オレたちのグループは、この芦宮高校の新しいマスコットキャラクターをプロデュースしたいと思う。美術部とコンピュータークラブの協力のおかげで、オンライン上にオレたち芦高生の新しい仲間が誕生した。それじゃ、早速、本人に登場してもらおう! 芦宮高校・非公認Vtuber芦宮サクラだ!」
まるで、自社の新商品をプレゼンテーションする海外のカリスマ経営者のような仕草と語り口の竜司が、背後のスクリーンを振り返って、
「お〜い、サクラ、準備はいいか〜?」
と声をかけると、巨大スクリーンには、ボクたち芦宮高校の制服を着た女子生徒風の3Dアバターが、あらわれた。
美術部が原案を作成し、コンピュータークラブがモーションキャプチャーの作業補助を行ったというキャラクターは、栗色のセミロングのヘアスタイルの片側に桜の花を模した髪飾りが印象的で、親しみやすい丸顔の容姿は、万人受けするデザインになっている。
「はい、黒田センパイ、ありがとうございます。みなさ〜ん、こんにちは〜!」
以前にも聞いたとおり、いかにもVtuberっぽい、少し鼻にかかったような声で、第一声を発したスクリーンの中のアバターは、耳に手を当てて、観覧席の反応を確認するポーズを取った。
「あれあれ〜? みんな元気がないゾ〜? じゃあ、もう一度、こんにちは〜……って言っても、お子さま向けのヒーローショーじゃあるまいし、返事をしてくれるわけないか(笑)?」
大講堂に笑い声が響く。
巨大スクリーンのキャラクターは、佐倉さんの表情に合わせて苦笑するような表情を見せながら続けて語る。
「では、こちらから、自己紹介させてもらいます。あらためまして、こんにちは! 芦宮高校・非公認Vtuberの芦宮サクラです!」
コミカルな表情と仕草に親近感を覚えるのか、観覧席からは、どよめきと、拍手が起こった。
その反応に手応えを感じているのか、竜司は、満足したようにうなずきながら、スクリーンに向かってたずねる。
「今日は、サクラに依頼した初めての仕事を、観覧席のみんなに観てもらいたいと思うんだが、どうだろう?」
「そうですね! ワタシの初めてのお仕事は、色んなクラブにお邪魔して、クラブの魅力を取材することでした。取材させてもらったクラブのみなさんの許可がもらえるなら、ぜひ、観てもらいたいと想います! みなさ〜ん、どうですか〜?」
佐倉さん、もとい、芦宮サクラが呼びかけると、今度は、観覧席から散発的ながら声が上がる。
「いいぞ〜!」
「オレたちのクラブをキッチリ紹介してくれ〜!」
体育会系らしい男子生徒の声とともに、拍手がわき起こる。
ここまでで、十分に芦宮サクラと竜司は、観覧席の心をつかんでいるようだ。
「みなさん、ありがとうございます! それでは、ワタシの初めてのお仕事をご覧ください! ちなみに、ワタシ、芦宮サクラの目標は、お仕事の実績を積み上げて、この学校の公認キャラクターになることなので……みなさんからのご依頼待ってま〜す!」
アピールに余念のないVtuberが、両手を広げてヒラヒラ動かしながら語り終えると、スクリーンの画面が、リアルタイムの映像から編集された動画に切り替わった。