第4章〜三大配信者 芦宮高校最大の決戦〜⑤
白草さんと宮野さんが、ステージに上り、寿生徒会長の隣に立つと、一般生徒の席の方から、
「せ〜の!」
という掛け声のあとに、
「ヨツバちゃ〜ん!!」
という声が上がった。
その歓声に、
「みんな、ありがとう〜」
と、白草さんは、手を振りながら笑顔で応えている。
一◯◯◯名近い全校生徒の数からすれば、声を発した生徒の割合はわずかなんだろうけど、統制が取れていて大講堂に良く響く女子の声であったことから、ステージ上の生徒の名前をコールしたのは、おそらく、ダンス部のメンバーだと思われる。
全校生が集まるこの雰囲気の中で、ためらうことなく声を上げられるダンス部の陽キャラぶりに、ボクは思わず舌を巻く。
さらに、声を発した生徒の方に視線を向けると、同じクラスの野中さんと石川さんを含めた三人の生徒が立ち上がり、ボクたちが待機している列の方にやってきた。
(えっ!? 誰も注意しないのか?)
と、今回の企画の運営スタッフである生徒会メンバーや広報部の先輩たちを見渡すが、鳳花部長や上級生の荒木先輩らが動くようすはない。
野中さんたちの行動を不思議に思いながらも、何事も起きていないかのように進行が続いているステージの方に目を向けると、白草さんによる制作動画の紹介が始まった。
「わたしと一年生の宮野さんのチームは、ダンス部に協力してもらって、動画を制作しました。ダンス部らしく、素敵なダンス動画に仕上がっていると思うので、楽しんで観てください! わたし達のダンスが気に入ってくれたら、みんなも、#プロペラダンスを付けて、動画を投稿してみてね! それでは、ご覧ください! タイトルは、『Cross Over』」
シンプルな紹介メッセージだが、彼女の表情を見ると、遠くからでも、自分たちが創った映像に自信を持ていることが理解る。
その自信作を確認させてもらおうじゃないか――――――と、ボクは固い唾を飲み込んで、白草さんや寿生徒会長が立つステージの背後にそびえる巨大スクリーンに視線を送る。
映像の冒頭は、セピア色の映像で、ダンス部の練習風景が映し出された。
BGMには、表題曲をバラード調にアレンジしたインストゥルメンタルが使われている。
(アニメのサントラなのかな? 白草さん、よく、こんなアレンジを見つけてきたな……)
と、感心している間に、ダンス部員たちが参加した大会のようすだけでなく、部室や練習場所となっている体育館で談笑する日常風景のスナップ写真や映像が次々に流れる。
そして、数分間に渡って流れていたインストゥルメンタルの楽曲が終了すると同時にセピア色の映像が、フルカラーに色づくと、BGMもアーティストが歌う楽曲に切り替わり、そのタイミングに合わせて、ボクたち同じ待機列に来ていた野中さんと石川さん、そして、上級生らしい生徒の三人がステージに駆け上がって行った。
良く観察してみると、ステージに向かう三人は、右手の手首に色違いのスカーフのような布を巻いている。
上級生と思われる女生徒はオレンジ、ボクらと同じクラスの野中さんはパープル、石川さんはイエロー。さらに、先ほどからステージに立っている白草さんと宮野さんの右腕にも、それぞれ、ブルーとピンクの布が巻かれていた。
イントロの間に、ステージの定位置と思われる場所にたどり着いた彼女たちとともに、白草さんと宮野さんは、五人揃ってポーズを取ったあと、歌詞に合わせてステップを踏み始める。
♪ Your my only shining star
♪ Your my shooting star
曲に合わせて彼女たちの両手がプロペラを回すように激しく動き始めた瞬間、ボクの身体に衝撃が走った。
ステージ上の五人が披露するダンスは、背後の巨大スクリーンに映し出された映像に、ぴったりとシンクロしているのだ。
(あぁ……やられた……)
今回の企画での活動中、他チームに対して、そう痛感するのは、竜司と佐倉さんがVtuberの企画案を提出してきて以来、これで二度目だ。
まさか、本番で映像に合わせてダンスを披露するとは思わなかった。
白草さんやダンス部がステージ上でダンスを披露するということは、純粋に映像だけでPRすることとは異なる禁じ手のようにも感じられるが、禁則事項としてルールに明文化されていない以上、それを咎めることはできない。
なにより、大講堂に集まった全校生徒のこの盛り上がりを見せられると、彼女の考えた演出に抗議するのは、野暮なことのように思われた。
四月に転入生として、竜司とボクの目の前にあらわれた、白草四葉――――――。
ときおり、耳にすることがある彼女の上から目線の発言に反発を覚えて、今回の企画では絶対に負けられない、という想いを強くしたボクだけど……。
いま、ステージ上で四人のメンバーとともにダンスを披露しているクラスメートのセルフ・プロデュースの能力には、脱帽せざるを得ない。
考えてみれば、彼女はミュージカル女優として名を馳せた演者の母と、(いまは離婚してしまったらしい)演出家として活躍を続ける舞台監督の父の血を受け継いでいるのだ。
その才能が、持って生まれた天賦のものなのか、幼少時から両親のステージに触れていた文化的背景の賜物なのか、ボクには判断がつかないけれど、いつも自信に満ち溢れた発言をするだけの下地を十分に持っていることを見せつけられた想いだ。
「白草さんたち、やっぱり、スゴいですね……」
自分と同じく、ステージ上の彼女たちに向かって、悔しさと憧れの混じった視線を送っている天竹さんの言葉に、ボクは黙ってうなずくしかなかった。