表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第三部〜怪獣たちのバラード 三大配信者 芦宮高校最大の決戦〜
252/392

第4章〜三大配信者 芦宮高校最大の決戦〜②

 〜黒田竜司(くろだりゅうじ)の見解〜

 

「ハァ〜〜〜〜〜」

 

 週明けの月曜日の放課後、オレは、今回の動画コンテストの活動拠点になっている放送室で、ひとり、長いため息をついていた。

 

 授業が始める前、雑談がてらに話していた内容によると、壮馬たちは、ほとんどの取材撮影を終えて、編集作業に入るらしい。

 一方、シロの方はと言えば、活動に関する具体的な進捗報告を彼女が語ったわけではないが、あの余裕のある口ぶりから察するに、動画撮影は順調に進んでいるんだろう。


 いや、他のグループのことを気にしている場合ではない。

 問題は、自分たちの活動のスケジュールが、押せ押せになっていることだ。


 壮馬たちとの連絡会を終えた二週間前から、一日一軒の頻度でクラブを訪問して活動実態を取材し、モモカの演じる芦宮(あしのみや)サクラに、その魅力を語らせるというルーティーンをこなしてきたのだが……。


 多くの提携先を抱えたオレたちは、スケジュール調整が上手くいかず、結果として、バドミントン部の新人戦を現地取材することができない、という事態になってしまった。

 そして、男女合わせて数十名の部員を要するバドミントン部が、壮馬たちとの協力関係を築いたことにより、オレが計画していた取材先のクラブを増やし、基礎票を固めて三分の一以上の得票を獲得する、という目論見は、もろくも崩れさった。


 動画コンテストの投票日に諸事情で欠席する生徒のため、という名目で実施される期日前投票で、提携したクラブの部員から、なるべく多くの票を得たかったのだが、そのプランは、計画どおりに行かなかった。


 あとは、クラブに所属していない生徒が、Vtuberの芦宮(あしのみや)サクラというキャラクターに魅力を感じて投票してくれることを期待するしかない。


 だが、クラブ取材と、その後の音声収録の作業に忙殺されていたオレたちは、とてもではないが、シロたちのグループのような頻度で、活動をアピールする動画やメッセージを投稿することは出来なかった。


 タブレットPCで、Googleカレンダーを確認し、今週末まで、びっしりと詰まったクラブ訪問のスケジュール表をながめながら、


(残りの日程で、取材と動画編集の完了まで到達できるだろうか……)


と、再び、ため息をつくと、


 コンコン


小さく放送室のドアがノックされ、


「くろセンパイ、お疲れさまです」


と、モモカが入室してきた。

 普段は、クラブ活動が始まる放課後に、生き生きとした表情を見せる下級生も、土日も休みなく続いた連日の取材活動で、どこか疲労の色が見えるのは、オレの気のせいではないだろう。


「おつかれ、モモカ……今日はサッカー部の取材日だが……早速、出られるか?」


「大丈夫です! これくらいで、疲れてなんていられませんよ」


 笑顔を見せる彼女の気丈さに、


(うん、オレも負けていられないな……)


と、気合いを入れなおし、ふたりでグラウンドに向かう。


 サッカー部員たちが練習を始めたばかりのグラウンドに到着すると、部長の香川(かがわ)先輩と、オレと同じ学年の堂安(どうあん)が出迎えてくれた。


「おう、黒田! ようやく来てくれたか! 待ってたぞ!」


 上級生の言葉に、恐縮しながら、


「すいません……スケジュールが立て込んで、取材に来るのが遅くなってしまって」


そう返答すると、


「まあ、オレたちは、しばらく試合もないし、気にしなくて良いけどな」


と、香川部長は笑顔を見せてくれる。

 さらに、部長に応じるように語る堂安は、モモカに視線を向けながら、

 

「黒田はともかく、可愛い一年の女子に取材してもらえるなら、ウチは、いつだって大歓迎ッスよ」


豪快に笑う。


(オマエは、先月シロに告白を断られたばかりなのに、ずい分と立ち直りが早いな……)


 自分のことは棚に上げながら、心のなかで同級生にツッコミを入れるが、当のモモカは、慣れたようすで、


「ありがとうございます! 香川先輩、堂安先輩、今日は、よろしくお願いします」


と、丁寧に対応をしている。


 中学生のときは、男子に対しても、気に入らないことがあると、結構トゲのある対応をすることが多かったような気がするのだが、その頃に比べると、モモカの性格もかなり丸くなったように感じる。


「ところで、Vtuberの取材って、ナニをするんだ? もしかして、オレらもゲームのキャラみたいになるのか?」


 最終的な取材交渉を行ったときには不在だった堂安が、当然のように疑問を呈する。


「それには、このキャラクターを見てもらうのが早いかも……」


 オレは、取材用に利用しているタブレットPCを起動して、動画サイトをアクセスする。

 さらに、中部地方の大学生が制作したというサッカークラブの公式Vtuberが語るクラブや学校紹介の映像を取材相手のふたりに見てもらう。


「なるほど……こんな感じなのか。結構、面白そうッスね」


 堂安の言葉に、香川部長も、笑顔でうなずく。


「そうだろ? サッカークラブに公式Vtuberが居るなら、オレたちの学校にそういうキャラクターが居ても良いんじゃないかと思うんだよ」


 実は、体育会系の部員たちには、このテのキャラクターは、受けが良くないんじゃないかという不安もあったのだが、どうやら、そんな心配は必要なかったらしい。

 サッカー部の練習風景を動画で撮影しながら、部の活動や特長について、香川部長と中心選手の堂安に答えてもらい、取材はスムーズに進む。


 こうして、この日の自分たちの活動が順調におわったことに安心しつつ、オレとモモカは、残りの取材に対して、気持ちを新たにするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ