幕間②〜極醸!生徒会〜その2・後編
「最近でも、私たちの身近でも起こったことだし……愛の告白の場面を想定して、話しをしても良い?」
『愛の告白』という、普段の生徒会副会長なら、およそ口にしないフレーズが聞かれたため、ここまで、彼女の語る言葉に注意を向けていなかった香緒里は、耳をすませて、鳳花の解説に意識を向ける。
「たとえば、『あなたを愛しています』という言葉を伝えるとき、もしくは、受け取るときに、どんな手段で伝えたり、受け取りたい? 一例をあげるなら、こんな伝え方があるわよね?」
弾むような口調で楽しげに語る鳳花は、ホワイトボードに向かい、マーカーペンで真っ白な板に事例を書いていく。
1.会って直接伝える
2.手紙で伝える
3.電話で伝える
4.SNSやメールで伝える
ホワイトボードに書き込まれた事例を目にした香緒里は、つぶやくように語る。
「う〜ん……あたしなら、やっぱり、直接会って伝えてもらいたいかな〜。手紙は、もう今どきって感じじゃないし、電話じゃ軽い感じがするしね……SNSとかは、さすがに論外だわ……」
その言葉を耳にした、生徒会長が身を乗り出して、会計担当に向き直る。
「ほうほう……これは、前田さんの理想の告白シチュエーションを聞かせてもらわなきゃ、ですな〜」
「え〜、それをここで語るの〜?」
美奈子の言葉を受け、そう口にする会計担当の前田香緒里だが、その表情は、まんざらでもなさそうだ。
「もう、しょうがないな〜」
そう言いながら、頬を掻く仕草をする彼女に対して、三名の生徒会役員は、
(結局、語るんだ……)
と、無言でツッコミを入れながら、同級生女子の口から、どんなシチュエーションが語られるのか、耳をそばだてる。
「そうだな〜。外国の浜辺で、なんて贅沢は言わないから……せめて夕陽が綺麗に見える海岸で、ふたりきりのときに、『ずっと一緒にいたい……君じゃないとダメなんだ……』なんて、言われてみたいよね〜! って、もう会長もナニ言わせんのよ!」
(自分から、ノリノリで語ったんじゃない……)
再び無言のツッコミを入れつつも、鳳花は、ニコリと微笑みながら、ホワイトボードをつかいながら、解説を続ける。
「香緒里さん、ありがとう! いまの言葉を参考にさせてもらうわね。あなたが最初に語ってくれたように、告白の言葉を対面で伝えるのか、手紙で伝えるのか、電話で伝えるのか、それとも、SNSを利用するのか……どれも全く同じ意味や価値を持つと思う? おそらく、多くの人が、香緒里さんと同様に、『それは違う』という印象を持つと思うの」
自身の意見を肯定された香緒里だけでなく、美奈子と茉純も、一様に首をタテに振ってうなずく。
「香緒里さんは、対面 → 手紙 → 電話 → SNSという順番で重みが告白の言葉の重みが違ってくると感じているようだけど……間接的な伝達手段に頼らず、対面での告白することも、媒体 = メディアの一種と考えるなら、『メディアは、メッセージである』というマクルーハンの言葉は、より説得力を持ってくると思うわない?」
まるで、講義を行っているかのような鳳花の解説に、生徒会長の美奈子は感心する。
「はぁ〜、なるほどね〜。『ずっと一緒にいたい……君じゃないとダメなんだ……』って、まったく同じ言葉を伝えるにしても、伝える手段によって、受け手側の印象は違って来るってことか……」
「そうね。そして、さっきは、本の例を出したけど……『愛の告白』を手紙などの文字情報で伝えるにしても、手書きのボールペンで書かれた手紙と、PCなどで書かれた文書を印刷したものは印象が異なるわよね……さらに、そのメッセージが、血染めの文字で書かれていたりしたら……」
美奈子の言葉に応じた鳳花は、そこまで言うと、クスクスと可笑しそうに笑う。
「ふむ……血染めの赤い文字で、『ずっと一緒にいたい……君じゃないとダメなんだ……』ですか」
副会長の言葉を受けた書紀担当の茉純が、つぶやくように言うと、
「そんなの、軽いホラーじゃん! あたしの理想のシチュを例に出すのはやめてよ!」
自らの妄想……もとい、願望を事例に出された香緒里は、大きく抗議の声をあげた。
憤る会計担当のようすを眺めていた生徒会長は、さすがに、ネタにしすぎたと、申し訳なく感じたのか、場を収めようと結論を述べる。
「まあ、いまの例えで、鳳花が言いたいことは、だいたい理解できたよ。つまり、動画配信者は、いまの視聴環境にマッチした内容で人気を得てるっていう理解で良い?」
「その通りよ! さすがは、生徒会長! 理解が早くて助かるわ。リビングに置かれた大型テレビと、自分の部屋に居てスマートフォンの画面で視聴する映像や動画では、求められる内容が異なるということね。美奈子は、楽器の演奏動画を視聴するときは、あまりスマートフォンを使わないんじゃない?」
「う〜ん、たしかにそうだな〜。じっくり映像を見たいから、ノートパソコンで観る場合が多いかも」
「白草さんが得意にしている歌やダンスのショート動画は、きっと彼女に似た趣味を持つスマートフォンの視聴者をターゲットにしていると思うの。もしかしたら、彼女がお母様と違って、活躍の場をテレビからネットメディアに移したのは、そうしたことが関係あるんじゃないかしら? あと、私は、そちらの方面の知識に明るいわけじゃないけれど……佐倉さんのやろうとしているVtuberも、白草さんのファンとは、ターゲット層が異なっていたとしても、動画を視聴する場合、お茶の間で複数人で視聴するのではなくて、スマートフォンで個人視聴することが多いだろうし……視聴する人にとっては、テレビで観るタレント以上に、より親近感が湧きやすい存在であることは想像に難くないわ」
鳳花の説明は、やや長くなったものの、自分たちの知る生徒ということもあり、理解がしやすかったのか、細かで難しい話しを避けがちな香緒里も納得したようだ。
「そっか……それで、副会長は、白草さんや佐倉さんが、自分たちの強みを活かしてるって言ってたんだね」
会計担当の彼女は、そう言ったあと、
「こうして、色んな人のことが理解っていくのは、楽しいね! ね、生野さん!」
と、ノートPCのディスプレイに向かって、淡々とキーボードのタイピングを続ける書紀担当に声をかける。
香緒里からかけられた言葉にうなずいた茉純は、笑みを浮かべながら返答する。
「えぇ、そうですね……今日は、私も前田さんの新しい一面を知ることができて、とても、満足しています。生徒会データベースの前田さんの欄には、理想の告白のシチュエーションとして、《夕陽が綺麗に見える海岸で、ふたりきりのときに、『ずっと一緒にいたい……君じゃないとダメなんだ……』と言われる》という内容を追記しておきました」
「ちょっと! ナニ余計なことしてるの! 早く、データを保存する前に、その一文を早く消して!」
生徒会室には、ふたたび、会計担当の声が響き渡る――――――。
そんな他のメンバーの言動を横目に見ながら、生徒会の影の統治者と目されている花金鳳花は、
(たしかに、美奈子たちも盛り上がっているように、白草さんや佐倉さんのアイデアは面白そうだけど……それでも、今回は黄瀬くんのがんばりに期待したい……)
と、中学生時代から交流のある下級生の奮闘に期待をかけるのであった。