第2章〜共鳴せよ! 市立芦宮高校文芸部〜⑧
6月1日(水)
ボクが、文芸部とのミーティングを終えた頃、各クラブの部長が参加しているグループLANEに、芦宮高校生徒会執行部からのお知らせメッセージが届いた。
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第1回芦宮高校クラブ活動
PR動画コンテストのお知らせ
生徒会と広報部では、芦宮高校
のクラブ活動を広くPRするため
部活動紹介の配信用動画を制作
することになりました。
この動画制作のため、広報部と
文芸部のメンバーが各クラブを
取材させていただきます。
各クラブにおきましては、取材
およびインタビューへのご協力
をいただけると幸いです。
生徒会執行部
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生徒会のアカウントから発信された文面は、おそらく、事務的な業務を一手に引き受けている生野先輩が作成したものだろう。
連絡会で話してくれていたとおり、丁寧な文面で各クラブに通達が行われたことで、ボクと文芸部のメンバーが、部活棟の部室に訪問するためのハードルは、格段に下がった。
前日のミーティングで、天竹さんは、
「各クラブの活動場所と四月時点での代表者の生徒名を、スプレッドシートにリストアップしておきました。黄瀬くんと文芸部のみんなに共有できるようにしているので、確認しておいてください」
と言って、取材やインタビューがしやすいように、表計算アプリに各部の概要をまとめてくれていた。
彼女の言うように、ボクと文芸部の部員さんが、内容を閲覧・編集できるようになっているので、取材やインタビュー結果を全員で共有することができる。
活動メンバーが二名に限られている竜司や白草さんたちのチームと違い、取材を行うメンバーが多いボクたちのグループは、情報共有を簡単に行えるようになったことで、人数の多さをより大きなメリットにすることができる。
「私たち、六人全員で押しかけるのも、迷惑になると思うので、ふたりづつに別れて、各クラブを訪問してみませんか? 三組で回れば、効率も良いですし……」
そう提案する天竹さんに、ボクらも賛同する。
ダンス部以外のクラブに協力してもらうことを考えてなさそうな白草さんたちはともかくとして、色々なクラブと交渉をすると予想される竜司たちのチームより初動で遅れを取っているボクたちにとって、効率よく各クラブを訪問していくことは大事な要素だ。
全員一致で、部長さんの案に賛成したことを確認すると、石沢さんが、こんなことを申し出てきた。
「それじゃあ、取材やインタビューをしに行く組み合わせだけど……私は、高瀬さんを連れて行こうと思うから、なつみは、井戸川さんをお願いね。そんで、部長の葵は、黄瀬くんと取材に行くこと! これで文句ないよね?」
彼女の提案に、今村さんと一年生は、
「は〜い! 異議なしで〜す」
と、即答した。
文芸部は、大人しいタイプの人たちが多いのかと思っていたけど、部員のみんなの意外なノリの良さに、ボクは少し困惑しながら、苦笑する。
「ちょっと! みんな、なにか、企んでいるような顔をしてるんだけど……何を考えているの?」
天竹さんは、小さく抗議の声をあげるが、他の部員さんたちは、四人で互いに顔を見合わせて、クスクスと笑い合うばかりだ。
これが、わが校の文芸部のノリなのだろう、とボクは顔に笑みを貼り付けたまま、そのようすを見守ることしかできない。
「もう……みんな、黄瀬くんが来てくれてから、おかしなテンションになってるよ? 気分が浮かれるのもわかるけど、活動は、しっかりしてね」
天竹さんが、部長さんらしく、部員のみんなに注意すると、今村さんがすぐに返答する。
「葵が、浮かれなさすぎなんだよ! せっかく、こんな機会があるんだから、楽しもうよ!」
こんな機会というのは、各クラブに取材やインタビューを行えることを言っているんだろうか?
文芸部のみんなが、そのことを楽しんでくれているなら、嬉しく感じるんだけど――――――。
「そうそう! この部活に、男子が来るなんて、滅多にないんだから!」
石沢さんの発言からすると、ボクが最初に想像したことは、もしかしたら、勘違いだったのかも知れない。
「はぁ……今日から、各クラブに取材に行くんだから、ちゃんと、真面目にやってよ」
ため息をつきながら、注意喚起を行う天竹さんだが、部員のみんなが、「は〜い」と声を揃えて、反省の態度を示すと、穏やかな表情にもどって、活動の本題に入る。
「じゃあ、それぞれのグループで、訪問するクラブを決めていこう。タブレットは、ふたりに一台で十分だと思うから、二年生が準備して」
彼女の一言で、石沢さんと今村さんが、通学用カバンから取り出したChromebook端末を起動し、それぞれペアを組む下級生と顔を寄せ合いながら、ディスプレイを注視する。
「私たち文芸部と広報部、それから、すでに白草さんたちと活動することが決まっているダンス部を除くと、芦宮高校には、21のクラブがあります。今週末までに、各クラブに最初の訪問をすることを目標に、各グループで取材の交渉をするクラブを決めていこう」
天竹さんが声をかけると、これまで、少し浮かれ気味だった部員さんたちは、真剣な表情でうなずいた。