第2章〜共鳴せよ! 市立芦宮高校文芸部〜⑦
5月31日(火)
生徒会室で行われた二回目の連絡会の翌日の放課後、ボクたちのチームは、図書室で対策会議を行うことにした。
生徒会が資料を保管している生徒専用の校内ネットワークには、生徒アカウントを持っていれば、誰でもアクセスできるようになっている。
そこで、ボクは、学校から支給されているタブレット端末で、昨日の連絡会の議事録と竜司たちや白草さんたちのチームが作った資料を提示して、ライバルチームの動向を文芸部のみんなにも共有することにした。
「なるほど〜、Vtuberに、ダンス動画かぁ……他のチームは、いかにも再生数が稼げそうなコンテンツを持ってきたね〜」
他チームのスライドショーを確認した石川さんが、声をあげる。
「これは、黄瀬くんが、不安に思う気持ちもわかるな〜。こういう企画って、自分たちのセンスや実績に自信がないと、出せないアイデアだもんね」
腕を組みながら、冷静に分析するのは、今村さん。今回の企画について、弱気になりがちなボクの心情が少しでも伝わっているようで助かる。
「白草ヨツバ先輩はともかくとして、私たちと同じ学年の佐倉さんって、そんなに実力がある生徒なんですか?」
「私たちとクラスが違うから詳しく知らないんですけど、たしか、入学してからしばらく、学校を休んでたんですよね?」
一年生の高瀬さんと井戸川さんが発した両方の問いに対して、ボクは、
「そうなんだよね」
と、苦笑いを浮かべながら肯定する。
「彼女は、ボクや花金部長と同じ中学の出身で、その頃から校内放送で、トークスキルを存分に発揮していたからね。今月はじめのオープンスクールも、佐倉さんが入学式から普通に出席していたら、ウチの部長は、彼女を司会進行役に抜擢していたと思うな」
そんな風に返答すると、下級生のふたりは、ボクの表情が感染ったように、
「私たち、そんなヒトと同じ学年なんだ」
と、顔を見合わせて苦笑する。
そんな一年生のようすを見ながら、ボクと同学年の石沢さんが、
「なに言ってるの? それを言えば、私らなんて、あの白草四葉と同じ学年だよ? しかも、転入生として話題をさらうとか、反則じゃない?」
と、乾いた笑いを浮かべながら語る。
「しかも、この前のオープン・スクールでは、いきなり四人の男子から告白されてたしね……あれで、よく女子を敵に回さなかったな、って感心するよ」
同じく二年の今村さんも、石沢さんに同調するようにうなずいた。
ボクも、彼女たちの言葉には同意するところが多かったけど、文芸部の部長さんだけは、異なる意見を持っていたようだ。
ボクたちの会話を黙って聞いていた天竹さんに、一年生の高瀬さんが、
「部長もそう思いますか?」
と、たずねると部長さんは、首を横に振ったあと、
「う〜ん……それは、どうかなぁ」
と、つぶやく。
「どういうことですか?」
不可解だという表情で問う井戸川さんに対して、真摯に答える。
「白草さんは、私たちのような地味な文系女子とは、あまり縁の無いタイプだと思うけど……男子よりは、女子に受けるタイプだと思うの。彼女の発信するSNSを時系列に沿って見たことがあるけど、やっぱり、女子向けの投稿が圧倒的に多いと感じたもの」
天竹さんが言ってるのは、オープン・スクールの直後に白草さんの言動のプロファイリングを行ったときに参照した書き込みのことだろう。あのとき、白草さん本人が認めるくらい、彼女の行動を詳細に分析してみせた天竹さんの語ることなら、聞いてみる価値はあるだろう。
「今回の企画でも、クラス内で中心的存在であるダンス部の野中さんや石川さんに声をかけているし、抑えるべきところは抑えているように感じるなぁ」
文芸部の部長さんが続けて発した言葉には、説得力があったのか、今村さんはアッサリと同意する。
「なるほど、カーストの高い位置にある陽キャラ女子と先に仲良くなっていれば、安泰ってことね?」
その言葉を肯定するようにうなずきつつも、天竹さんは、彼女なりに疑問を感じているであろうことを口にした。
「それもで、気になることはあります。今回の白草さんたちのダンス動画の企画ですが……黄瀬くん、男子の立場からして、ダンス部とのコラボって魅力を感じますか?」
いきなり、こちらに質問が振られたので、驚きながら返答する。
「えっと……クラス内のカーストで部外者の立場のボクの意見がどこまで参考になるかわからないけど……個人的には、白草さんとダンス部が一緒に活動しても、『陽キャラ女子たちが、がんばってるんだな』って感想にしかならないかな? 自分たち、陰キャラ男子とは、縁のなさそうなグループの話しだしね」
親友と呼べる存在のクラスメートが、全校生徒が注目する前で白草さんに告白し、盛大に玉砕しているので、自分の意見が、全男子を代表したものでないことを、あらかじめ、ことわっておくけど……。
同じように考えている男子は、多いのではないかと、ボクは感じている。
「ダンス動画って、バズりやすいから、再生数は稼げると思うけど……そういう意味じゃ、全校生徒の支持を得られるかは微妙かも知れないよね」
ボクが、さらに私見を付け加えると、文芸部の部員さんたちが、
「そうなんだ!」
一斉に声を上げた一方、部長の天竹さんは、
「やっぱり、そうですか……」
と、我が意を得たり、という表情でつぶやいた。
そして、なにやら思案顔に戻った彼女は、
「いま、黄瀬くんが言ってくれたことに、私たちの活路がある気がします。みんな、もう一度、学校の部活の実態を確認しよう!」
そう言って、自分のタブレット端末を取り出して、クラブ活動紹介ページの検索を始めた。