第1章〜クラス内カーストでアウトサイダーのボクたちが動画投稿で人気配信者を目指す件〜④
「なにかしら、佐倉さん? グループ分けの結果に異論があるなら、受け付けるわよ」
おっとりした口調で応じる部長の言葉に、モモカは笑顔で答える。
「いえ……白草センパイと違って、ワタシは、この組み合わせに、まっっったく不満はありません!」
わざわざ、自分の方に視線を送りながら語る下級生の言葉に、シロは、露骨に表情を歪める。
(まったく……ふたりとも、少しは仲良くしろよ……)
なぜ、ふたりが反発し合うのか――――――。
オレには、まったくわからないのだが、今後の円満なクラブ活動のためにも、彼女たちには、一刻も早く和解をしてもらいたい。
それはさておき、モモカは、オレやシロの意向など、まるで意識していないかのように、語り続ける。
「今回のコンテストでは、自分たちが動画を制作することによるメリットとリスクが、あまりにも少ない気がするんです」
「リスクが少ない、というと……?」
下級生の言い分に、疑問を感じたのだろう、鳳花部長が問い返すと、モモカは、自信に満ちた表情で答えた。
「お仕事の場面では複数の提案の中から、企画内容やコストなどを総合的に勘案し、依頼主が最も良いと判断した提案を行った業者が選ばれ、仕事が発注されると思うんですけど……一方で、広報内容を提案する側は、競争相手よりも良い提案を作るために、実作業やコストが発生しますし、お仕事が取れなければ、その努力は、まったくの無駄になっちゃいますよね?」
「えぇ……たしかに、そうね」
「実際のお仕事のように、具体的な報酬というメリットを得るのは難しくても、せめて、お仕事を取れなかった……つまり、制作した動画への投票数が一番少なかったグループには、なんらかのリスクを負ってもらうのは、どうでしょう?」
「それは、つまり――――――最下位のチームには、罰ゲーム的なモノを課す、ということ?」
「はい! そういうことです!」
さすが、鳳花部長、話しの理解が早い、と言った感じで下級生は返事をするが、自分たちの身に降りかかることで、勝手に話しが進むのは困る。
しかも、罰ゲーム的なモノを課される、というなら、なおさらだ。
「おいおい! モモカ、早まるな……」
と、声を掛けようとすると、オレよりも先に、壮馬が声を上げた。
「ちょっと、待ってよ佐倉さん! 罰ゲームをするなんて、今回の企画とは関係ないことじゃないか! それになにより、紅野さんや天竹さんは、広報部の部外者だ。二人をこんなことに巻き込むわけにはいかないよ!」
さすがは、我が友人。一点のスキもない、正論だ。
ただ、部外者という意味では、シロ……白草四葉も、広報部の部員ではないのだが、壮馬の中では、シロは迷惑を掛けてはいけない部外者にカウントされていないのだろうか?
オレが感じた疑問には、当事者自身も思うところがあったようで、すぐに手が挙がり、異論が挟まれる。
「はい! わたしも、広報部の部外者なのに、黄瀬クンから心配してもらえてないようなんですけど……ただ、わたし自身は、佐倉サンの提案に賛成してもイイかなって思ってます。なにか、モチベーションが上がることがないと、つまらないと思いますし……第一、最下位にさえならなければイイんですよね?」
不敵な笑みを浮かべながら、彼女は、モモカと紅野に視線を送る。
なんで、こんなときだけ、モモカとシロは、意見が一致するんだ……。
ただ、何にでも物怖じしない性格のふたりはともかくとして、壮馬の言うとおり、紅野と天竹にまで迷惑を掛けるわけにはいかない。
ここは、友人に同調し、前のめりになっているモモカとシロに、その提案を取り下げさせるべく、説得しようとしたのだが――――――。
「白草さんと佐倉さんが、そう言うなら、私も、その条件を受けようと思います!」
クラスメートが発した予想外の一言に、
「「「えぇっ!?」」」
オレ、壮馬、そして、天竹の声が重なった。
「ちょっと、ノア! どうしたの急に?」
「紅野さん! わざわざ、自分から、こんなことに首を突っ込んで行くことなんてないよ!」
こんなふうに、 紅野アザミと同じグループで動画を制作することになった天竹と壮馬が、オレ以上の熱心さで、彼女に考え直すように、説得を試みようとするものの……。
オレとともにクラス委員を務める女子生徒の意志は固く、生来の生真面目さゆえなのか、自分で決めたことを撤回するつもりは無いようだ。
「大丈夫だよ、葵! 罰ゲームを受けるのは、私だけにしてもらうから……それに、自分たちのチームだけ罰ゲームなしなんて不公平でしょ?」
こんなところにまで公平さを求める彼女の律儀な性格は、尊敬に値するが――――――。
映像編集の技術に長けた壮馬と組むことになるとはいえ、動画配信においては、同世代で国内屈指の存在と言って良いシロと、中学時代から、放送部で広報活動に慣れているモモカを相手に回すのは、あまりにもリスクが大きすぎるだろう。
自分と同じグループでないとは言え、彼女の身を案じて、
「いや、公平か不公平かで言えば、今回は、そもそも、白草と佐倉のふたりに有利な条件なんだから、紅野が同じ土俵に立つ必要なんてないと思うぞ」
と、再考するように促したのだが……。
「ふ〜ん……クロは、紅野さんの味方をするんだ」
「そうですよ! くろセンパイは、ワタシと同じチームなんですから、まず、自分たちのことを考えて下さい!」
右斜め前と左斜め前に立っているシロとモモカから、十字砲火を浴びてしまった。
さっきもそうだが、こんなときだけ鉄壁の二遊間コンビが見せるような連携プレーを披露するのは、やめてくれ……。
そんなオレたちのようすを苦笑しながら眺めていた紅野は、
「黒田くん、気を使ってくれてありがとう……でも、自分の学校のことをPRするためだから……私も本気で取り組みたいんだ……白草さんや佐倉さんに負けないようにね」
と、決意を込めたような表情で語る。
「エライ! 良く言った! さすが、私の可愛い後輩だね! これは、もう次期生徒会長に推薦するしかないね!」
満足したように語る現生徒会長の言葉に、はにかみながら、紅野は謙遜する。
「もう、大げさですよ……副部長は……」
そんなようすを見ながら、我が広報部の部長が、オレたちに向かって語りかけてきた。
「ペナルティを回避するための『負のインセンティブ』的な発想は、私の好みじゃないけれど……あなた達が、そうしたいと言うなら仕方ないわね……それで、肝心の罰ゲームについては、どうするの?」
「部長、それについては、ワタシに良いアイデアがあります!」
謎めいた笑みを浮かべながら主張したのは、またしてもモモカだった。