第4章〜推しが尊すぎてしんどいのに表現力がなさすぎてしんどい〜⑲
オレにとっては、あまり、思い出したくない出来事だけに、直接、感想を聞かせてもらうのは、少し……いや、大いに避けたいと感じる次第だ。
ただ、オレのそんな想いが少しだけ届いたのか、壮馬の問いかけに応じた宮野は、自信満々にこう答えた。
「はい! ライブ配信を観ながら、コメントも残すているので……最初にテレビに出たときの《YourTube》の映像のときから、ヨツバちゃんの出ている動画には、すっと、コメントを書き込んでます」
そう言って、彼女は、自分のスマホを取り出し、《YourTube》のアプリを起動して、リストから、動画を再生させる。
それは、オレが、シロと壮馬と一緒に観たテレビ局主催の歌番組のモノだ。
以前に視聴したときも、コメント欄を確認したが、宮野は、スマホの中の動画画面が小さくなることも気にせず、コメント欄を表示させた。
コメント欄には、以前にも目にした称賛の声の数々が並んでいるが、特色ある口調の書き込みが、ふと、目に止まった。
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カラオケの域を超えてる。テレビに出るのに無難にいかずにこの選曲の難易度。それでこういう曲を選んで、圧巻のパフォーマンスはすごいです。優勝以上だと思った。
歌唱力も発音も素晴らしいけど、何より振る舞いに余裕があるし、時おり覗かせる笑顔が本当に魅力的。将来絶対美人になるし、大成すると思う。
自分と年齢が離れていないのに、こんなに歌える人がいるなんて……
ヨツバちゃんは、間違いなく、自分にとって最高の歌姫だべ!
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画面の一番下に表示されたコメントを指差し、宮野が、口を開いた。
「これが、わたすがヨツバちゃんの出ている動画に最初に書き込んだコメントでス」
彼女の指差したコメントの上には、たしかに、
・snow_field 4年前
という文字が表示されていて、宮野雪乃のアカウントで書き込まれたことが推察できる。
「この動画、チョー恥ずかしいんだけど……でも、こんなに前からコメントをくれてたんだね〜! ありがとう!」
宮野に顔を寄せながら、スマホの画面を覗き込んでいたシロは、そのまま彼女の横顔にほおずりをする。
シロに捕まったままの彼女は、表情を赤らめながら、
「この前のオープン・スクールのときも、もちろんコメントをさせてもらってるべ」
と言いながら、(個人的に自動削除期限の三十日が早く過ぎてほしいと思っている)オープン・スクール時の《ミンスタ》ライブの動画を再生させた。
動画では、パレードを終えたオレが、ステージの上で、観客に声を掛けている。
コメント欄では、
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楽しかった〜〜〜〜!
四葉チャン、マジ神だった!
先輩のバイオリンも神!!
パレードもっと見たかった!
四葉チャンの歌も
センパイの演奏も
みんなのパレードも
どれも最高だったべ〜!!
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というコメントが表示されている。
宮野が書き込んだというコメントは、すぐにわかった。
あのあと、あまりのショックのため、あらためて動画を見返すことはなかったのだが、多くのクラブのメンバーたちと一緒に、自分が行ったパレードに、こうしたコメントが付いているのを目にするのは、面映い気分になる。
「なんか、こういうコメントを見るのは、恥ずかしいな……」
などと、オレは口にして、頭をかく。
そんなこちらのようすを見ていたシロは、
「うん、そうだね」
と、嗜虐的な笑顔を見せると、動画のシークバーを動かして、場面を一気にスキップさせる。
再びステージが映し出されると、画面中央の人物は、思いの丈を叫んだ。
「白草四葉さん、オレと付き合ってください!」
その言葉を確認したシロは、オレと桃華の方に視線を向けながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
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キャ〜〜〜〜〜♡
愛の告白、キタ━(゜∀゜)━!
マジもんの告白キタ!
告白の瞬間とか初めて見たべ
めっちゃ、青春やん!
ざわざわざわざわwwwww
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コメント欄には、そんな書き込みが並んでいた。
このあとのことは、思い出したくもない――――――。
宮野の書き込んだものと思われるコメントは確認できたので、映像を再生しているスマホから視線をそらすと、オレの隣で「ギリッ」と歯を鳴らし、かすかに口元を震わせる桃華のようすに気づいた。
「どうした、桃華――――――?」
と、声をかけようとするより前に、彼女は、口をひらき、シロと宮野に語りかける。
「宮野さんのコメントは確認できたし、もういいでしょう?」
やんわりと、映像の再生停止をうながす口調は穏やかなものの、その表情には、明らかに不快感がにじみ出ていた。
「あら、ここからがイイところなのに……」
そう言ったシロだが、オレの方にチラリと視線を向けると、少しバツが悪そうな表情になり、
「でも、そうね……フォロワーさんが熱烈なコメントをしてくれていることはわかったし」
と、つぶやいて、「ありがとう、宮野サン」と言い、自身の熱心なフォロワーに映像の再生停止をうながした。
あくまで、オレ自身に関することなのに、不愉快そうな表情を見せる桃華のようすを不思議に思いながら、気を取り直して話しかける。
「さすが、白草四葉だな! 《ミンスタ》や《トゥイッター》で、フォロワーが大勢いるとは聞いていたが、こんなに熱いファンが近くに居るなんてさ」
なるべく、さわやかな笑顔で、シロと宮野の二人に語りかけると、
「わたしも、同じ学校に、フォロワーさんが居てくれて嬉しいな!」
「わ、わたすも、高校に進学してヨツバちゃんと同じ学校になれるなんて思ってなかったから、まだ、夢のようだべ……」
女子二名が、それぞれに喜びの声をあげた。
そんな二人のようすを見ながら、鳳花部長は、こんな申し出をする。
「宮野さん、白草さん。これから、私たち広報部のメンバーと連絡を取りやすくするために、メッセージアプリのグループと位置情報アプリに登録してくれない?」
「《LANE》と《Benly》ですね、わかりました!」
シロは、部長の言葉に快く応じ、
「わたすも、大丈夫でス」
と、宮野もシロに続く。
「もちろん、広報部と連絡を取る必要がなくなった場合や、あなたたちからの申し出があったときには、すぐにデータや履歴を削除するから、安心してね」
こうして、鳳花部長とスマホで情報を交換した二人は、放送室に招かれたその日のうちに、広報部の仮メンバーのような待遇が決定した。
そして、我が広報部の責任者は、あらためて入部希望者と、その協力者に対して、提案を行う。
「これから、広報部では、SNSを活用する宣伝・広報にもチカラを入れていこうと考えているから……宮野さん、可能なら、ソーシャル・メディアを使った広報活動の企画を出してくれない? 白草さん、早速で申し訳ないのだけど、この企画にあなたのチカラを貸してもらえると助かるわ」
「わかりますた!」
「はい、喜んで!」
宮野とシロは、部長の言葉に、それぞれ短く返答する。
「ありがとう! 良い返事が聞けて嬉しいわ。二年生の頼り《・》に《・》な《・》る《・》男子たちも協力してくれると思うわ」
笑顔を作った鳳花部長は、オレと壮馬の方に視線を向けて、そう断言する。
広報部の責任者の言葉とあっては、オレたち二人に断る理由などない。
「わかりました! 了解です」
部長の言葉を受け取ったオレは、即座に返答し、壮馬も「承知しました」と短く答える。
「佐倉さんも、フォローをお願いね」
最後に、声をかけた桃華に対しても笑顔を絶やさなかった鳳花部長に対して、一年生部員は、
「鳳花センパイが、そう言うなら……わかりました」
と、渋々ながら、部長のお《・》願い《・》を承諾したようだ。
「それじゃ、今日のタスクはやり終えたし、私は、これで上がらせてもらうわ。企画会議を開きたいなら、このまま、放送室を使ってくれて構わないから」
そう言って、花金鳳花部長は、オレたち五人を残し、放送室をあとにした。