第4章〜推しが尊すぎてしんどいのに表現力がなさすぎてしんどい〜⑩
※
待ち合わせの午前十時半より少し早くカフェに着いたワタシは、店内に入り、席を確保する。
ガラス張りの店内は、晴れた屋外の陽光をいっぱいに取り入れていて明るい雰囲気で、広くゆとりのあるスペースで清々しい気分にさせてくれる。
待ち合わせの十時三十分になると、店内からのガラス越しに、天竹センパイがやって来るのが見えた。店内に入り、こちらに気づいた天竹さんは、ワタシの確保した二人用の席に来ると、
「私の方からお誘いしたのに……お待たせして、申し訳ありません。佐倉さん」
「いえいえ! 待ち合わせの時間通りですし、ワタシも、さっき来たばかりだから大丈夫ですよ」
下級生の自分にも丁寧な言葉遣いをするセンパイに好感をいだきながら、ワタシは返答する。
「それより、注文をしちゃいませんか?」
そう言って、センパイにも席についてもらい、ワタシたちは、モーニング・セットの注文をする。
ワタシは、クロワッサンとスクランブルエッグとアイスカフェラテを、天竹センパイは、プチパンとスクランブルエッグとホットミルクティーをそれぞれ注文して、ブランチの到着を待つ。
「でも、意外でした……天竹センパイからお誘いをいただくなんて! ワタシは、まだ広報部に入ったばかりですし、クラブ関係のご依頼なら――――――」
天竹センパイの同級生である、くろセンパイ&きぃセンパイの二人、もしくは、部長の鳳花センパイへの申し出をお願いしたい旨を、彼女に伝えようとすると……。
「いえ、今日お話ししたいのは、直接的に広報部の活動に関わることではありませんので……」
対面の席に座る上級生は、キッパリと言い切った。
(広報部の活動とは、直接の関係がない――――――?)
彼女の言葉を不思議に感じ、思わず怪訝な表情が出てしまったワタシを顔色を察したのか、天竹センパイは、少しあせったようすで、説明を継ぎ足す。
しかし、その言葉は、ワタシをより惑わせるものだった。
「お話ししたいことというのは、黒田くんのことです」
彼女の口から、言葉が発せられると同時に、自分の眉間のシワが深くなるのがわかった。
その瞬間、背後から
「お待たせいたしました。こちら、クロワッサンとスクランブルエッグのセットになります」
と、注文したモーニング・セットの到着を告げるウェイターのお兄さんの声が割り込んできた。
不意にかけられた言葉に、ビクリ! と肩を震わせてしまったワタシは、告げられたセットの内容が、自分の注文したメニューであることに気づき、小さく手を挙げる。
クロワッサンとスクランブルエッグが載せられたプレートをワタシの前に置いたウェイターさんは、続けて、
「こちら、プチパンとスクランブルエッグのセットになります」
と告げて、天竹センパイの前にもプレートを置く。
「せっかくだから、さきに食べちゃいませんか?」
文芸部の部長であるという、このセンパイは、空気を読めているのか、読めていないのか、
(く、くろセンパイの話しなんて出されたら、落ち着いて食べれるわけないじゃん!)
というワタシの心の叫びをよそに、ミルクティーに口をつけたあと、スクランブルエッグを可愛らしい口に運び始めた。
あまり面識のない上級生に異論を挟むわけにもいかず、ワタシも焼き立てのクロワッサンに手をのばす。
小さくかぶりついただけで、芳醇なバターの香りが感じられ、パン好きのワタシにとっては満足いく限りなんだけど……残念ながら、いまは、この愛しいひし形の味を十分に堪能することができない。
(このヒト、いったい、なんの話しをするつもりなの――――――?)
このカフェを見つけたときから楽しみにしていた週末のブランチのひ《・》と《・》と《・》き《・》を台無しにされたことを少し恨みがましく思いながら、クロワッサンとサラダ、スクランブルエッグを食べ終わると、少し先に食べ終えていた彼女が、
「話しの続きをさせてもらって良いですか?」
と、たずねてきた。