第3章〜カワイくてゴメン〜⑰
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「気のせいでしょうか? いま、ワタシが、いちばん聞きたくないヒトの声が聞こえた気がしたんですけど……」
「いまのは、シロの声、だよな……!? 紅野と天竹だけじゃなくて、なんで、シロまで……」
桃華のつぶやきに反応し、オレも、同じように独り言をもらしてしまう。
その一言が気になったのか、桃華がたずねてきた。
「紅野センパイと天竹センパイが、どうかしたんですか?」
彼女の問いに応じるように、オレは、自分のスマホの画面を彼女に向けて告げる。
「LANEに、壮馬からメッセージが来てたわ」
スマホには、壮馬から、
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天竹さんと紅野さんが、ボクの
話しを聞きたいってことで、
落ち着いて話せる場所として、
編集室に来てもらおうと思う
問題ないよね?
(返信ない場合、了承とみなす)
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というメッセージが届いていた。
さらに、オレは《LANE》の画面を閉じて、シロの位置情報を確認しようと、《Benly》のアプリを起動する。
「うわッ……! やっぱり、シロも、このマンションに来てる……」
そうつぶやくと、続けて、玄関の外の方から、かすかに女性と思われる声と
ドン! ドン!
と、ドアを叩く音が聞こえてきた。
「ちょっと、クロ! 居るんでしょ!? 居留守を使うって、どういうこと! あ《・》の《・》コ《・》が居るのも、わかってるのよ! いいから、早く出てきなさい!」
平日の昼間でマンションに人影は少なく、同じフロアには、三部屋しかないとは言え、さすがに、この騒音を放っておくわけにはいかない、そう考えたオレは、桃華と顔を見合わせてから、
「やれやれ……」
と言って、立ち上がり、玄関に向かうと、彼女も、後ろからついてきた。
玄関のドアをガチャリと開け、
「いい加減にしろ、シロ……近所迷惑だぞ……」
一軒向こ《・》う《・》のオレが一人暮らしをしている三◯一号室の部屋のドアを叩き続ける騒音の主に注意すると、続けて、
「あっ! あ〜〜〜〜〜〜〜!!」
小学生の頃からボイス・トレーニングで鍛えている白草四葉の甲高い声が、マンション中に響いた。
※
くろセンパイと一緒に、今日か《・》ら《・》ワ《・》タ《・》シ《・》が《・》住む《・》こ《・》と《・》に《・》な《・》っ《・》た《・》三◯三号室の自室の玄関から、廊下に顔を出すと、
「クロ! それに、生意気な《・》一年生! なんで、アナタが、そんなとこに!?」
白草センパイは、こちらを指差し、声を上げる。
「なんでも、なにも……ここは、今日からワタシが住むことになる部屋ですから」
ワタシの返答に、彼女は、
「な・な・な……」
と、声を上げながら、ワナワナと震えながら、こちらの部屋に歩いてくる。
そのようすを見ながら、ワタシは、澄ました表情で、上級生にたずねてみた。
「あれ? そう言えば、往生際の《・》悪い《・》センパイは、さっき、くろセンパイの部屋に向かって、『あ《・》の《・》コ《・》が居るのも、わかってるのよ!』って言ってませんでした? ワタシが、このマンションに居ることは、わかってたんじゃないんですか?」
「そ、そうよ! 黄瀬クンの《Benly》に、あなたたち二人が、ココに居るって……」
なるほど、そういうことか……。彼女が、ここまで声を張り上げている理由が、良くわかった。
そうして、ワタシが、冷静に状況を観察していると、ワタシが契約している部屋まで近寄ってきた白草センパイの背後から声がかけられた。
「いくら、このフロアにはボクたち以外、誰も居ないと言っても、ご近所迷惑だよ……良ければ、竜司も、白草さんも、佐倉さんも、《編集室》で話しをすれば?」
広報部の二人のセンパイが利用している《編集室》の玄関から、紅野センパイと天竹センパイと一緒に廊下に出てきた、きぃセンパイが、ワタシたちを室内に招く。
「壮馬、LANEを未読スルーしてたのは申し訳ないが……紅野に天竹に、メッセージにはなかった白草まで……なんで、編集室に集まってるのか、説明してくれないか?」
室内に入ってすぐに質問をするくろセンパイに、きぃセンパイが即答する。
「天竹さんに、ボクと竜司の子どもの頃の話しを聞かせて、ってお願いされたんだ」
「そっか……オレたちのガキの頃の話しなんて、特に面白いエピソードもないだろ? それで、紅野と白草も一緒に誘ったのか?」
「ボクも、そう断りを入れたんだけどね……ちなみに、紅野さんは、天竹さんが誘ってたみたいだけど、白草さんとは、マンションの前で、偶然会っただよ」
きぃセンパイが答えると、紅野センパイも同意して、
「ちょうど、私たちが、マンションに着いた時に、白草さんも出てきたところだったから……私が『一緒に黄瀬くんのお話しを聞かない?』って、誘ってみたの。ゴメンね、勝手に黒田くんたちのお部屋にお邪魔して……」
「いや、それは、別に問題ないよ……気にしないでくれ」
恐縮したようすで、くろセンパイが返答する。
ただ、そんな彼に対して、はた目からも苛立ちを隠せない口調で、
「そ・ん・な・こ・と・よ・り……」
と、流れを断ち切るように、会話に入ってくる人がいた。