第3章〜カワイくてゴメン〜⑫
「うおっ! 誰かと思ったら、モモカか……」
驚いたようすのくろセンパイは、動画に撮っておきたいほど良いリアクションを示したあと、「最後の日まで、女子に『キモい』って言われた……」と、落ち込む仕草を見せる。
こんな憎まれ口をたたきながらも……。
ワタシは、前日の夜まで、ずっと悩んでいたことがあった。
それは、
「くろセンパイに自分の想いを告げるべきか――――――?」
ということだ。
二年前の春の日以来、ワタシの、くろセンパイに対する想いは変わらない……どころか、大きくなっていくばかりだった。
あの日、ワタシに向けてくれた笑顔を思い出すだけで、切なく甘酸っぱい感情で胸がいっぱいになる。
ただ、その一方で、彼と放送番組でコンビを組んで気づいたことがあった。
(くろセンパイは、体面を考えて、番組で一緒に話す間柄の女子とは、決して交際しないだろうな……)
本人に直接、確認を取ったわけではないが、普段のセンパイの言動から、そのことはヒシヒシと感じ取ることができた。
そのため、くろセンパイが放送番組のパーソナリティを務めていた二学期の終わりまで、ワタシは、彼と心理的距離を縮める手段を持てなかった(その腹いせに、番組では、センパイを非モテキャラとしてイジり倒し、他の女子が遠さかるようなデ《・》バ《・》フ《・》を精一杯かけさせてもらったけど……)。
そして、三年生が部活を離れた二学期末から卒業を迎える今日この日までの日数は、自分にとってあまりに短すぎた。
クリスマスも、年末年始も、二月十四日も、それっぽいイベントの日を迎えるたびに、
(センパイに、なにかアピールでもしておこうかな……でも、受験で忙しそうだし……)
と、ウジウジと悩んでは機会を逃し続けて、この日まで来てしまった。
あの春の終わりに、鳳花センパイにオススメしてもらった、clover_fieldのアカウント主は、動画サイトにも進出して、女子のための恋愛講座を公開して人気を得ているらしく、自分も参考にすればよかった、と少しだけ後悔している。
(こうなったら、いっそ、思い切って、一発逆転を狙っての告白をしてみようか……)
とも考えたけど……。
それでは、中学生活が始まったばかりの頃に、こちらの都合も考えずに告白し、玉砕していった男子どもと、まったく同じだ。
くろセンパイの困ったような表情を見るのはキライではないけど……。
もちろん、自分の短絡的な行動で、彼の表情を曇らせたいわけでない。
ただ、この立場になって、初めてわかるのは、こちらからすれば迷惑でしかなかったあの場面に至るまで、彼らもワタシと同じように悩み、ついに、我慢できなくなったゆえの行動だったのだろう、ということだ。
そう考えると、
(告白を断るにしても、もう少し、優しくしてあげても良かったか……)
と、申し訳なく思う気持ちがわかないでもないが、それも、いまとなっては、どうしようもないことだった。
そんな自分にできることは――――――。
少し早く新しい舞台に立つセンパイに追いついて、あの日、ワタシを助けてくれたように、彼が悩んだり、迷ったりすることがあれば、今度は、自分が手を差し伸べることだ。
だから、きぃセンパイとともに、志望校に合格した、くろセンパイにワタシが言えることは、ひとつだけだった。
「くろセンパイ、きぃセンパイ、ワタシも芦宮高校に合格してみせますから、絶対、待っていてくださいね!」
ワタシが、そう言うと、
「おう! モモカ、また鳳花先輩たちと一緒に活動しようぜ!」
「待ってるからね! 佐倉さん」
二人のセンパイたちは、さっきまでの会話とはうって変わって、快く、さわやかな笑顔で返答してくれた。
この人たちの行く場所に、はやく自分も追いつかないと――――――
かたい決意を胸に秘めた、春のはじめのできごとだった。