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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第二部〜カリスマ女子高生になったわたしに、初恋の彼が全校生徒の目のまえで告白してきたけど、もう遅い!〜
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第3章〜カワイくてゴメン〜⑨

 三人の女子が駐車場を離れ、周囲に人がいなくなったことを確認してから、しゃがみこん

だまま、呆然としている佐倉に近寄る。

 オレが、そばによると、ようやく彼女は立ち上がり、


「く、黒田センパイが、どうして、ここにいるんですか? さっき、放送室に呼び出されてたじゃないですか!?」


と、いきなり抗議の声をぶつけてきた。


「ここに来た理由か? さっきも言ったが、リクエストボックスに入ってた投書の件で、ちょっと鳳花部長に頼まれてな……」


 オレが、そう言うと、佐倉はしばらく押し黙ったままだったので、彼女の髪についた砂を払うように、毛を撫でる。


「良く我慢したな、佐倉……それと、気づくのが遅くなってゴメンな……」


 そう言って、頭を下げると、彼女は、うつむいたまま、気まずそうに、


「あの……放送部は、どこまで今日おきたことを把握してるんですか? どうして、道徳の教科書に落書きされたことまで……」


と言ってから、ハッと表情を変える。


「放送部が事実を把握してるのは、リクエストボックスに投書された紙と、佐倉のクラスメートからお姉さんを通じて鳳花部長に伝えられた情報だけだよ。教科書の落書きの件は、完全に部長の推測だけど……あの三人と佐倉の反応を見ると、どうやら、完璧な推理だったみたいだな」


 佐倉の表情とは逆に、オレは苦笑しながら答えた。

 実際、我が山の手中学の生徒会長にして、放送部の部長である花金鳳花という上級生のカンの鋭さに、オレは驚きを隠せなかった。


「黒田くん……鈴木さんの妹さんが伝えてくれたことから想像するに、佐倉さんは、教科書か学習用具に、なにかイタズラをされてるハズ……彼女のようすがおかしかったのは、一時間目からのようだから、可能性が高いのは道徳の教科書ね。もし、犯人がシラをきるようだったら、この投書の紙から指紋を取って、被害にあった佐倉さんの持ち物と比較検証する、と伝えてちょうだい」


 淡々と自身の見解を言伝(ことづて)る先輩の姿を思い出し、


(鳳花先輩と付き合うオトコは、絶ッッッッ対に浮気とかデキねぇな……)


と、背中に冷や汗が伝わるのすら感じるほどだ。


  それでも、こうして、新入部員のピンチを救うことができたのは、彼女の機転と洞察力のおかげだ、と頼れる部長に感謝する。

 こちらから話しをしている間に、佐倉の表情も少しずつやわらいできたので、オレは、彼女に、こんな提案をしてみた。


「佐倉、さっきも言ったけど、よくがんばったな……けど、周りのヤツらに振り回されて、ストレスも溜まってるんじゃないか?」


 そこまで言って、オレはあたりを見渡す。さいわいなことに、駐車場の周囲には、自分たち以外、人影はなかった。

 佐倉を安心させるように、軽く微笑みながら、


「いまなら、周りには誰もいないし、本音をぶちまけても大丈夫だぞ」


と、言うと、彼女は、ハッとした表情になり、軽く握った左手の拳を口もとにあてる。

 そして、


「それじゃあ……」


と、つぶやくと、


「一年のオトコども! こっちの都合も考えずに、勝手に告ってくるんじゃねぇ! 断る方の面倒くささとか、想像したことあんのか!? せめて、相手に気をつかえるようになってから、出直して来い!」


と、絶叫した。

 さらに、彼女の咆哮は続く……。


「あと、ワタシに嫌がらせした女子! 部長に、あんなこと言われてなかったら、三人まとめて殴ってやってたわ! 可愛く生まれて悪かったな! でも、こっちは、外見だけ見て近寄って来るアホな男子には、興味ないんだよ! バカ? ブス? 調子に乗るな? ぜんぶ、そのまま、あんたらに返してやるわ! 自分の顔、鏡で見たことあんのか? だから、男子に相手されないんだよ! ふざけんな!」


 そこまで言い終わると、彼女は、ゼェゼェと肩で息をしながら、つぶやく。


「ハァ……ハァ……ちょっとだけ……すっきりしました」


 後輩女子のあまりの豹変ぶりに、一瞬、たじろぎながらも、彼女の率直すぎる本音の吐露に、思わず笑みがこぼれてしてしまい、


「やっぱ、面白いヤツだな、佐倉は……」


と、声をかけた。


 ※


 溜まっていた思いの丈をぶちまけると、ワタシは、少し気持ちが晴れた気がした。

 落ち着くために呼吸を整えていると、黒田センパイは、微笑みながら、つぶやくように言う。


「やっぱ、面白いヤツだな、佐倉は……」


「別に……思ったことを口にしただけです」


 他人には、聞かれたくない本音を叫んだにも関わらず、なぜか、「面白いヤツ」という評価を下してきた上級生を不思議に感じる。

 さらに、ワタシの返答に、彼は続けて語った。


「でも、いまみたいな内容をそのまま放送で語るのは、マズいかもな……ただ、佐倉のその毒舌……というか、トーク・スキルは、活かしたい……どうだ、放送中のトークでは、佐倉のその口の悪さの矛先は、オレにだけ向けてみないか?」


 その提案に、ワタシは、より一層の疑問を感じ、センパイに聞いてみた。


「センパイたちは……とくに、黒田センパイは、どうして、そんなにワタシのことを気に掛けるんですか? ワタシ個人のことなんて、放っておいてくれれば……」


 そこまで、口にすると、「おいおい、そんな寂しいこと言うなよ……」と、目の前の上級生は、また苦笑する。

 そして、彼は、


「う〜ん、鳳花先輩や壮馬が、なにを考えてるかはわからねぇケド……オレ個人としては、放送のリハーサルのときに、佐倉が心の底から楽しそうに話してるから……その機会を無くしてしまうのはもったいない、と思っただけだよ」


と、言葉を続けた。


『佐倉が心の底から楽しそうに話してるから……』


 彼の言ったその言葉が、なぜか、ワタシの心に突き刺さる。さらに、黒田センパイは、続けて、こう語った。


「それに、オレ自身も、放送のときに佐倉と二人で話すのは、楽しいしな」


 照れもせずに、ニコリと笑ったままの顔で語るその言葉に、鼓動が早くなるのを感じる。


(このヒトは、どうして、そんな恥ずかしいことを照れずに言えるんだろう……)


 そう考えると、自分の方が恥ずかしくなり、ほおが、紅潮していくのを感じてしまう。

 そのほおの火照りを誤魔化すために、ワタシは、なんとか言葉を発しようと努力した。

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