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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第二部〜カリスマ女子高生になったわたしに、初恋の彼が全校生徒の目のまえで告白してきたけど、もう遅い!〜
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第3章〜カワイくてゴメン〜⑤

5月6日(月)


「えっ!? なにこれ……」


 それは、中学生活初めてのゴールデン・ウィークが終わった翌日、月曜日の一時間目のこと――――――。

 山の手中学では、この時間に道徳の授業が全学年一斉に行われるが、机から教科書を取り出して、開いた瞬間、思わず声が漏れてしまった。

 ワタシの発した声に気づいた近くの席の生徒が、こちらの方に目を向けたので、あわてて教科書を閉じる。

 幸運なことに、ワタシの席は、教卓から離れた後ろから二番目の位置だったので、この授業を受け持つ担任には、自然と漏れてしまった声は届かなかったようだ。

 教科書を閉じたまま、数秒の間うつむいていると、周りの生徒たちも気に留めるようすもなく、それぞれ、自分の教科書に目を落としている。

 そのことを確認したワタシは、あらためて、さっき目にしたページを開くと、そこには、太字の黒マジックで、


 死ね!

 ブス!

 調子にのんな!


と、書かれていた。

 本来は持ち帰られければいけない教科書類を机に置いたままだった自分にも責任があるとはいえ……。 


(中学生にもなって、こんなことをする人間がいるのか……)


 あきれると同時に、その幼稚な書き込みの内容と、書かれたページに記されていたのが、テレビなどでもお馴染みの頭にハコフグの帽子をかぶっている魚類学者が書いた『魚の涙』という文章だったため、そのギャップと書き込んだ人間の思慮の浅さに、ため息が漏れる。

 そして、


(ついに、来たか……)


と、先月末まで続いていた男子からの告白ラッシュの副反応が、あらわれたことをあらためて実感させられた。

 こんな下らないことをするのは、やはり、ワタシが告白を断った男子だろうか?

 教室内の学習机に置いたままの教科書に落書きがされているということは、自分の所属する一年三組に犯行を行った生徒がいる可能性が高い。

 このクラスで、ワタシに告白をしてきたのは、伊藤と南野という男子だ。

 

 そのどちらかが、この馬鹿馬鹿しい行為に及んだのではないか――――――。

 

 そんなことをずっと考えていたため、担任の話す内容が、ほとんど頭に入ってこないまま、気がつくと、一時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

 だが、ワタシは、このあと、自分の想像と認識が甘かったことを知ることになる。


 ※


 この日の二時間目の授業科目は、体育だった。

 バレーボールの授業のため、体育館に移動し、ネットを張り終えるなど準備を整え終わった頃、不意に周囲から視線を感じ、背後からクスクス、という笑い声が聞こえたような気がした。

 一時間目の教科書のこともあり、視線に過敏になっているだけか、と思い直して、準備体操のあと、数名のグループに別れて行うトス練習を始めたんだけど……。

 同じクラスの進藤さんと鈴木さんとグループになり、ボールをトスしようと構えると、


 バシンッ!


という音に続いて、背中に強い衝撃を感じた。


「ッ!!!!」


 声にならない声をあげて、後ろを振り返ると、


「ごめ〜ん! 手が滑っちゃった〜」


わざとらしく語る女子と、彼女に合わせてクスクスと笑う二人組の姿があった。

 自分の所属する三組とは違うクラスなので、(ふた)クラス合同で行う体育の授業くらいでしか面識がなかったが、こちらに顔を向けながら悪びれもせず、ニヤニヤという表情を崩さないのは、四組の中田・野元・平井の三人だった。

 一緒に練習の準備に入っていた進藤さんと鈴木さんは、ボールが転がるのも気にせず、オロオロとした表情で、ワタシと三人を交互に見ている。


「そう……気をつけてね」


 なるべく、表情を変えずに三人に告げたあと、自分のグループの二人には笑顔を作って、


「ゴメンね! 練習を続けよう」


と、声をかける。

 

「う、うん……」


「そうだね……」


 気をつかいながら、お互いに視線を交わしている彼女たちは、自分とは違う小学校から山の手中学に進学してきているので、まだ、人となりなどの細かなところはわからないが、きっと優しい性格なのだろう。

 二人に迷惑がかからないように、トスの練習を続けながら、ワタシは考える。


(もしかして、教科書の落書きも、同じクラスの男子ではなく――――――)


 明らかにこちらに敵意を向けてきた三人も、進藤さんと鈴木さんと同じく、ワタシとは違う小学校だったので、彼女たちの性格は、まだ良くわからない。

 ただ、自分が、彼女たち三人から目の敵にされる理由については、残念ながら、容易に想像がついた。

 直接か間接かはわからないが、おそらく、ワタシが、告白を断った男子たちの誰かに、その原因があるのだろう――――――。

 ただ、理由が判明しても、こうして、直接的な行動で敵意をぶつけられると、やはり、気持ちが沈んでしまう。


(鳳花センパイには、『女子から人気を得られるようにしてほしい』って言われているのに……)


 告白を断った男子から恨みを買うのは仕方ない、と思っていたが、まさか、女子から、こんな風に、敵意を向けられるとは思っていなかった。

 ゴールデンウィークの間、放送部の活動日が少ないこともあり、自分なりに女子にウケる(あるいは、少なくとも嫌われない)話し方を研究していたのだけど、それらの努力もムダに終わりそうだ。

 そのことが何より悲しく、鳳花センパイの期待に答えられない自分が不甲斐なさが、情けなかった。


(ワタシたちの放送番組が始まるまでに、自分でなんとかしないと……)


 金曜日には、第一回目の放送が、校内に流れることになっている。


(その時までに、いまの状態が続いていると、番組にも、放送部にも迷惑がかかってしまう……)


 そう考えたワタシは、放送部の活動に参加する前に、三人と話しをしておこうと覚悟を決めた。

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