第2章〜黒と黄の詩〜⑫
5月10日(火)
黒田のお父さんが亡くなっていた――――――。
三年生の時は、別のクラスだったからボクの耳には入っていなかったが、どうやら、それは、本当だったようだ。
翌日、早めに教室に登校したボクは、黒田が登校してくる前に、三年生の時に彼と同じクラスだった江藤に、それとなくたずねてみた。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……黒田のお父さんってさ……」
「あぁ、オレたちが、三年になった時くらいから、ずっと病気だったらしいよ。それで……」
(やっぱり、そうなのか……)
という表情が顔に出てしまったのか、江藤は、最後まで言い切らずに話しを切り上げた。
「そっか、ありがとう」
話しを聞かせてくれたことと、気をつかってくれたことを江藤に感謝していることを伝えてから、教室の自分の席に着く。
前日、黒田竜司と交わした会話から、他人に良く気が利く反面、時おり見せる寂しそうな表情が気になっていたが、その理由がわかった気がした。
(そんな状況で、ボクや班の他のメンバーに気をつかわなくてもイイのに……)
そう感じたボクは、今日の二時間目に予定されている社会の授業での共同制作課題で、どんな風に黒田と接すれば良いのだろう――――――と、考え始めた。
※
二時間目の授業が始まり、前日に続いて共同制作課題を行う時間になった。
放課後、ボクたちを残して帰った小野・加藤・幸田の三人は、バツの悪そうな表情で、黒田が先生からもらって来た模造紙とマジックペンのもとに集まってきた。
しかし、ボクと黒田が広げた真っ白な模造紙を見ると、女子の幸田が、
「なんだ……ナニも書けてないじゃん……」
と、口にする。
その言葉に、カチンと来るが、黒田は気にするようすもなく、
「昨日は、黄瀬と一緒に、どこにどんなことを書くのか、デザインを決めてたんだ」
と言ってから、
「黄瀬、印刷してくれた紙を出して」
と、ボクに前日プリントアウトしたレイアウト案を三人に見せるよう、要求してきた。
彼の言葉に従い、自宅で印刷したレイアウト案をメンバーの前に差し出す。
A4サイズの紙に印刷されたレイアウトを班の彼らに見せながら、黒田は、
「タイトルの横のキャラクターは、幸田に描いてもらいたいんだ。加藤には、白鷺城について調べたことを、この一番大きなスペースに書き込んでほしい。そして、小野は、加藤がまとめた文章の横に白鷺城のイラストを描いてくれないか? 写真は、わかりやすいものを用意するから……」
と、三人に指示を出す。
黒田の言葉を黙って聞いていた三人は、自分に提案された作業内容を理解したのか、素直にウンウンとうなずく。
やはり、彼の見立ては、間違っていなかったようだ――――――。
ただ、そのあとのできごとは、ボクの癇に障るものだった。
黒田の指示のあと、加藤が口を開く。
「黒田と黄瀬は、何をするんだ?」
「オレと黄瀬は、調べ学習で残りの項目を調べてまとめさせてもらうよ」
黒田の言葉のあとに、幸田と小野が続けざまに語る。
「そうだよね〜! 黒田くんは、先週ずっと休んでて、班活動に参加してなかったし、それくらいやってもらわないと!」
「そうそう!」
(コイツら、黒田の事情も知らないで、ナニ言ってんだよ!?)
カッとなったボクは、思わず声を上げていた。