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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第二部〜カリスマ女子高生になったわたしに、初恋の彼が全校生徒の目のまえで告白してきたけど、もう遅い!〜
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第2章〜黒と黄の詩〜⑩

 コンピュータ室をあとにして、自分たち四年一組の教室を施錠し、職員室にカギを戻したボクたちは、手提げカバンに忍ばせておいたドリンクを飲みながら会話する。


「もう、五時近くになってるけど……黒田は、家に帰らなくて大丈夫なの?」


「あ〜、母ちゃんは、今日も仕事で帰りが遅いと思うから……大丈夫だ……」


 ぶっきらぼうに、返事をする彼だが、その口調は、なぜか少し寂しそうに感じられる。

 

(なにか、家庭の事情があるのかな……)


と、考えていると、隣を歩くクラスメートは、言葉を続けた。


「それより、急に遊びに行って、黄瀬の家は大丈夫なのか?」


 放課後の教室での会話から、黒田が周りに気をつかうタイプだということは感じていたが、こんな時でも、こちらの事情に気を配るとは……。


「遊び、じゃなくて、学校の宿題をするだけだし、気にしなくてイイよ」


 なるべく、彼に気兼ねなく、我が家に訪問してもらえるように返答しておく。

 すると、黒田は、ほおをかきながら、

「そっか……じゃあ、ちゃんと、デザインを決めないとな……ありがとう、黄瀬」


と言って、笑顔を見せる。そんな会話を続けながら飲み干したオ◯ンジーナは、少し温くなってしまっていたが、やけに美味しく感じられた。


 ※


 ボクの家の自室に、黒田を招いて行われた共同制作課題(グループワーク)のレイアウト協議は、思ったよりスムーズに終了した。

 タブレットを操作しながら、彼が提案してくる修正案をすぐに画面上で再現すると、


「やっぱり、パソコンとかタブレットは便利なんだな〜」


彼は、感心したようにつぶやく。

 いや、デジタル機器を使うのは、あくまで手段であって、共同作業を行うクラスメートのセンスやアイデアがなければ、こんなに順調に進めることはできなかっただろう。

 できあがったレイアウト案を印刷し、二人で確認しながら、


「黒田のアイデアが良かったからだよ……ボク、一人じゃ、こんなにキレイなレイアウトはデキなかったと思う」


感じたことを素直に口にすると、彼は、また、ほおをかきながら、返答する。


「いや……オレは、班の活動に参加できてなかったから……これくらいはな……」


 謙遜する彼に、


「黒田は、そう言うけど、他の三人なんて、まったく協力する気がなさそうだよ?」


と、自分たちに仕事を押し付けて帰ってしまったメンバーのことを思い浮かべながら言葉を返すと、彼は、「う〜ん」とうなってから、少し真剣な表情で答える。


「黄瀬と違って、三人とも、共同制作課題(グループワーク)で、ナニをすればイイか、わからなかったんじゃねぇか?」 


「なにをすれば良いかわからない……って、授業中にも先生が説明してたじゃん?」


「いや、そういうことじゃなくて……この班活動ってさ、調べ学習をして、文章をまとめて、全体のデザインを決めてから、真っ白な模造紙に描いていかないとダメだろ? 大きくて真っ白な紙を先に想像すると、ナニから手を付けて良いか、わからなくなるんじゃないか? みんな、黄瀬みたいに先生の説明だけで、わかるわけじゃないんだよ」


「なんだ、ソレ……それなら、そう言えばイイじゃないか……」


「まあ、自分ができないこととか、わかっていないことを他人に言うのって恥ずかしいじゃん? 黄瀬だって、そうじゃないか?」


 そう言われれば、そうかも知れないケド……。

 ボクが、不満そうな表情をすると、それを察したのか、黒田は、一転して明るい表情で、


「でも、ちゃんと、自分ができることがわかれば、大丈夫だよ」


と答えて、さらに、言葉を続ける。


「加藤は、戦国時代とか武将が好きだからさ、白鷺城について調べてくれたことを書いてもらおうぜ! あと、小野と幸田は、美術図工クラブだろ? 小野は、風景画を描くのが上手いし、幸田はキャラクターのイラストが得意だからな……二人には、調べ学習の量を減らして、模造紙に絵やイラストを描いてもらったら良いんじゃないか、って思ってるんだ」


 ――――――そこまで考えていたとは……。


 黒田が、他人に気を配る人間だということは、今日の会話からも感じていたけど、他のメンバーの好みや得意なことまで把握して、それぞれに役割を振ろうとしている、とまでは思ってもみなかった。

 なぜか、楽しそうに語る彼に、「そっか……」と短く返事をしつつ、


「そこまでわかってて、今日は、どうして三人を帰らせたのさ?」


と、気になることをたずねてみる。


「今日は、デザインもナニも決まってなかっただろ? どうして良いかわからないヤツに、イヤイヤ残ってもらっても、不満が残るだけで、作業は進まね〜よ」


「まぁ、それも、そうか……」


「それに、あんな風に言ってても、三人とも、ちょっと申し訳なさそうな感じだっただろ? 明日、こっちから、やってほしいことを頼めば引き受けてくれる可能性は高いと思うぞ」


「そうか……なるほどね」


 深謀遠慮……というと、かなり大げさだが、この時のボクは、黒田竜司が考えている内容の深さに、すっかり感心していた。

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