第2章〜黒と黄の詩〜③
天竹さんの単刀直入な質問に対して、図書室に来てから、もう何度目になるかわからない苦笑をたたえながら、ボクは答える。
「あ〜、そのことに関しては、自分の口からはチョット……」
実際のところ、中学生の頃から、(何があったのか詳しくは知らないけど)佐倉さんは、明らかに他の男子に対する態度とは違った感じで竜司に接していたし、ボクの次に、竜司の話し相手になっている、とは感じていたが……。
ただ、ボクが知る限り、これまで佐倉さん自身が、竜司に対する想いを口にしたことは無いはずだし、そんなことがあれば、(ボクが言うのもなんだけど)女子との付き合いに慣れていない友人は、冷静でいられないんじゃないかと思っている。
そんな訳で、知り合い(特に女子なら、なおさらだ)のプライバシーに立ち入ることをヨシとしない自分の心情として、明確な回答は避けるべきだと考えた。
それでも――――――。
今日の帰宅時を含めて、火曜日の教室や放送室での竜司に対する彼女の言動は、単なる同じ部の先輩と後輩という関係性とは、明らかに異なる感情のベクトルに感じられる。
あいまいな回答になってしまうことを、天竹さんには申し訳なく思いつつ、
「でも、最近の彼女のようすからして、そう感じるのもムリはないよね……中学の時は、あんな風に竜司に絡むことはなかったと記憶してるんだけど……」
と、自分自身が感じたことを率直に述べる。
「そうですか……」
明確な回答を得られなかったことに、少し落胆しつつも、天竹さんは、
「ただ……黄瀬くんから見ても、黒田くんに対する佐倉さんの態度は、中学生だった時より積極的に感じられる、ということですね?」
と、ボクの返答を的確に受け取って、理解してくれたようだ。
「そうだね……佐倉さんの個人的な事情に立ち入るつもりは無いけど、第三者の立場からすると、ウチの部長が、白草さんの入部を断ってくれたことは、ボクとしては、とても感謝してるよ。火曜日のようすだと、白草さんが広報部に入部してきたら、ウチの新入部員と衝突するのは、目に見えているからね」
今度は、少し大げさに肩をすくめながら、微苦笑を作って語ると、クラスメートは、可笑しそうに、クスクスと笑う。
「私としては、佐倉さんにやり込められる白草さんをもう少し見たい気もするんですが……同じ部活動になったら、黄瀬くんたちは、大変ですもんね」
「その悲劇を回避できただけでも、ボクは花金部長の決断を断固、支持したいよ」
そう答えると、天竹さんは、うんうん、とうなずいてくれる。彼女との会話が上手く転がり始めたと確信し、ボクは、今回の話題の本題についてふれることにした。
「ところで……その佐倉さんのことは、今回、天竹さんが話したいこと、聞きたいことと関係があるの?」
「そう、ですね……今回お話ししたいこと、そして、聞きたいことは、黒田くんに関することなので、無関係ではないですね」
彼女の返答を理解していることを伝えるために、今度はボクが、うんうん、と首をタテに振る。
「私から、お話ししておきたいのは、黒田くんと白草さんの関係性についてです。黄瀬くんは、今後の二人の関係が進展する可能性はあると思いますか?」
「え〜と……それは、竜司と白草さんが、付き合う、いわゆる恋人同士になる可能性ってこと?」
こちらの質問に、天竹さんがコクリとうなずくのを確認し、ボクは思案しながら、答えた。
「それは、竜司の立ち直りの早さにかかってる気がするなぁ……天竹さんが、週明けに話してくれたことが間違っていないなら、白草さんは、次に竜司が彼女に告白した時、OKする可能性が高いよね? なら、もう、あとは時間の問題じゃないの?」
恋愛の経験に関してい言えば竜司と大差のない自分に、他人の恋愛事情を推し量れるだけの知見があるとは思っていないので、いつものように「知らんけど……」と、付け加えそうになったが、目の前の同級生の真剣な表情を見て、最後の一言を飲み込んだ。