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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第二部〜カリスマ女子高生になったわたしに、初恋の彼が全校生徒の目のまえで告白してきたけど、もう遅い!〜
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第1章〜幼なじみは絶対に勝てないラブコメ〜⑩

「こんなに熱心に見てもらえるなら……うん! 今度の動画では、このネイルをオススメするしかないよね〜」


 一人でナニゴトかを語っているシロの言葉も、ほとんど耳には入ってこない。

 その光景は、ナニか禁忌(タブー)に触れているかのような感覚で、オレの理性を揺るがすには十分であった。


「それじゃ、熱心に視線を送ってくれるクロに、これを履かせてもらおうかな〜?」


 かすかに耳に入る彼女の言葉に反応し、再び視線をあげると、そこには、カバンから取り出した真新しいハイソックスを、片手でつまみ、ユラユラと揺らすシロの姿があった。

 

 ナニをバカなことを――――――。

 大昔の甘やかされて育ったワガママ姫と従者ではあるまいし――――――。


 オレの中の理性は、彼女の言葉を一蹴し、その言動に屈してはならない、と警告を鳴らしているのだが……。

 シロに反論の言葉を述べるより前に、自身の本能の部分が、オレの身体を制御し、気づけば、彼女の前にひざまずき、聖なる黒の布地を受け取るべく、うやうやしく両手を差し伸べている自分がいた。


「今日のクロは、とっても素直ね……」


 妖艶といっても良い笑みを浮かべた彼女は、オレの手のひらに、ソックスを優しく置く。

 手元にある漆黒のソックスと目の前の白磁のようなシロの脚部は、別々のパーツに別れているだけでも、美しいコントラストに感じられる。

 それを、オレ自身の手で完成に導けるのだと実感すると、動悸は早鐘のように高まり、息苦しささえ覚える。

 あらためて、目前に差し出された爪先に目を向けると、五本の指に、丁寧に施されたネイルは光沢を放ち、彼女の愛らしい指の形をさらに際立たせているように見える。

 その美しさに目を見張りつつ、自分が、その部位にベールを覆うのだ、という仄暗(ほのくら)い喜びが、どこからかこみ上げてくるのを感じた。

 履かせやすくするために、黒の布地を丸め、開口部を彼女の爪先にあてる。

 そうして、ソックスを両手で丁寧に足先に押し込むと、ひざまずいた姿勢の上方から、


「んっ……」


という、微かな声が漏れるのが聞こえた。

 その瞬間、あまりの緊張感にノドを固い唾が通り過ぎるのを感じた。

 彼女の反応に、動揺を悟られないよう、両手だけを動かし、かかとまで入ったソックスの丸めた部分を徐々に上げていくが、意識しないようにすればするほど、緊張が高まる。

 なめらかな布地は、スルスルとシロの脚を覆っていき、ついに膝上にまで到達した。

 ちょうど膝のあたりまでの制服のスカート丈であるため、いまや、雪のような白さの彼女の脚部は、すっかり黒に覆われている。

 シロに課されたミッションを完了したオレは、すぐに立ち上がって


「ふ〜」


と、静かに息を吐き出した。

 動揺を隠しながらの行為が功を奏したのか、どうやら、こちらの内心の胸の高鳴りに気づかれてはいないようである。


「濡れたままで、気持ち悪かったから――――――すぐに履き替えることができて良かった! おかげで、スッキリしたわ、ありがとう、クロ……」


 夕日を背にしているからだろうか、やや赤みを帯びて見える彼女に、自分自身の心中を悟られないように注意しながら、短く返答する。


「あぁ……お役に立てたなら、光栄だ……」


 すると、シロは、「うん」と、小さくうなずいたあと、珍しく「もう一つ、お願いがあるんだけど……」と、控えめな口調でたずねてきた。


「ねぇ、クロ……転入生として、わたしが、この学校に馴染めるよう助けてくれる、って言ってくれたことは、まだ有効?」


「あぁ、モチロン! もう、オレが手助けしなくても、シロは、十分に、この学校に馴染んでいるとは思うが……まだ、オレにできることがあれば、なんでも言ってくれ」


 安請け合いと思われるかも知れないが、クラス委員としての立場上、告白を断られた相手ではあっても、彼女との約束は果たしておきたい。


「良かった! じゃあ、早速なんだけど……わたしが、広報部に入部することは難しいみたいだから、忙しいクロが、どこにいるのかいつでもわかるように、《Benly》で、お互いの位置情報が共有できたら、って思うんだ……」


 彼女の提案に、


「あ〜、《Benly》かぁ〜」


と、頭をかきながら、つぶやく。

《Benly》は、家族や友人などと位置情報を共有できるスマホのアプリだ。このアプリを起動するだけで、情報をシェアしている相手の位置が、スマホの地図上に表示される。


「部員がバラバラに活動している広報部には、マストのアプリだよ!」


などと、壮馬はしきりに利用することを薦めてくるのだが……。

 十代にしては、少数派と言えるかもしれないが、友人や知り合いと言えども、四六時中、自分の居る場所や行動を誰かに知られる、ということに関して、やはりオレには、抵抗感があった。


「ボクたちは、男だし、ストーカーの被害にあうなんて可能性なんて、測定限界値以下でしょ? 竜司は、いつから、そんなにモテるようになったのさ?」


 口の悪い友人は、そう言って、オレが、このサービスを利用する際のデメリットを否定し、説得を試みたが、壮馬だけでなく、いまだに、ナニを考えているかわからないところがある鳳花部長などに、自分の居場所が監視されると想像するだけで、このアプリを積極的に利用する気持ちになれなかった(ちなみに、この件について、部長命令がくだされたという事実はない)。

 そうして、これまで経験した《Benly》をめぐる議論を頭の中で振り返っていると、彼女に似つかわしくない、しおらしい態度で、目の前の同級生は、再びたずねてくる。


「ダメ、かな……?」


「まぁ、ダメってわけじゃないが……」


 すると、彼女は、表情を一変させて、前向きな口調になり、


「じゃあ、スマホを持ってきてるなら、今すぐダウンロードしよう!」


と、いつものように強引に迫ってきた。

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