第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜⑨
「黒田クンさ〜、良くこんなヒトと一緒に動画運営やってるね?」
「それについては、オレ自身も、全く同感だ。たまに、自分の壮馬に対する慈悲深さをもってすれば、将来は宗教家にもなれるんじゃないか、と思えてくる」
竜司も我が意を得た、とばかりに同級生女子に同意する。
彼が、そこまで長年の友人への恨み節をぶつけるのには理由があった。
動画の編集術と竜司を丸め込む術に長けた壮馬は、その動画を二十四時間でネット上から消える《ミンスタグラム》だけでなく、十代の利用者が多い《チックタック》や《YourTube》にもアップロードしていたのだ。
動画の撮影とアップロードを行った日からしばらくは、傷心のためにふさぎ込み、ネット絶ちをしていた竜司だったが、数日が経過しても、学園に通う友人・知人から、メッセージアプリの《LANE》に、
「玉砕乙w春休み明けに会うのが楽しみだ!!」
「黒田クン、強く生きてね……」
という主旨のメッセージ着信が途絶えないことを不審に思い、自分たちが登録している各種動画のアカウントにアクセスをしてから、ようやく、相方の無慈悲な所行に気付いて、即刻、公開の停止を行った。
だが――――――。
時すでに遅く、公開停止時、《YourTube》の再生回数と視聴者数は、ともに四桁に達しており、コメント欄には、次のような内容が書き込まれていた。
「祝!三千再生達成!!」
「ホーネッツ1号=三千回振られたオトコwwwww」
感情を失くしたチベットスナギツネのような目付きで友人を見つめる竜司に、四葉も苦笑する。
すると、自身の人となりについて、批判の矛先が向かっていることを察した壮馬は、
(つきあいの長い竜司はともかく、ほぼ初対面の男子の部屋で傍若無人な発言を続ける白草さんにだけは、性格のことを言われたくないよ!!)
と言う言葉をかろうじて飲み込みつつ、
「なんだよ!? 今は、ボクの話じゃないだろう!?」
と、返答した。
壮馬の一言に、当初の目的を思い出したのか、四葉は、
「それもそうだね……で、どうするの? 黒田クン、わたしのアイデアに乗るの? 乗らないの?」
選択肢を提示して、竜司に決断を迫る。
彼女のその一言に、彼は意を決したように、「あぁ……」と、小さくつぶやき、
「乗るよ、白草のアイデアに」
と、口にした。
竜司の発した言葉に、待望の瞬間が来た、とばかりに、思わず息を呑み、目を丸くしたあと、喜びの笑みを隠そうと顔を口元を手で覆い、視線をそらそうとする四葉。
しかし、彼は直後に、彼女が予想しなかった言葉を口にした。
「ただし、復讐するのは、紅野に対してじゃない……」
黒田竜司の発した一言を耳にした瞬間、白草四葉の表情は、一転して怪訝なモノになる。
「紅野サンに対してじゃない、ってどういうこと? 聞かせてくれない?」
思惑がハズレてしまうことを懸念したのか、問いただすような強い口調でたずねる四葉に、竜司は、ハッキリとした口調で応えた。
「自分の想いが受け入れられなかったことについては、確かに悔しい想いはある。でも、それで相手のことを恨めしく考えたりはしない。悔しいのは、勘違いしていた上に、相手にされなかった自分自身に対してだ……だから――――――オレは、反省を込めて、二週間前のオレ自身に対して、復讐をしたい、と思う」
自分の目を真っ直ぐに見つめ、そう宣言する黒田竜司の目線に、体温と鼓動の高まりを感じ、白草四葉は、少しだけ視線をそらす。
彼女の表情に戸惑いをみてとったのか、さらに、彼は、こう言葉を付け加えた。
「白草、そのために、協力してくれるか?」
竜司の暑苦し……もとい、熱のこもった言動に気後れしたのだろうか?
四葉は、やや落ち着かない様子で、
「しょ、しょうがないな……そこまで言われたら……」
そう、つぶやいたあと、動揺を隠すように、
「わたしの指導は、厳しいよ? ついて来る自信はある!?」
と、熱を込めて語る同級生男子に問い返す。
「あぁ、ミッチリ鍛えてくれ!」
竜司が、応じると、傍らの壮馬が、苦笑しつつ、
「こういう恥ずかしいヤツなんだけど……」
と、四葉に語りかける。
すると、何かをささやくように、彼女の形の良い唇が、わずかに動くのが見えたが、竜司と壮馬の耳に、その声が届くことはなかった。
そして、自身の提案が受け入れられたことを確信したのか、四葉は、満足したようにニコリと微笑む。
そんな彼女の様子を見て、壮馬はペコリ、と頭を下げた。
「竜司をビシビシ教育してあげてください! ボクからも、お願いします」
アドバイザーに名乗り出た転入生は、あらためて問いかける。
「わかった! 黄瀬クンにも、色々と協力してもらわないと、だしね! 二人とも、覚悟はイイ?」
《竜馬ちゃんねる》の二名から、正式に承諾を得たことで、白草四葉の立案した計画が幕をあげることになった。
「それじゃあ、まずは黒田クン! あらためて、あなたの話しをシッカリと聞かせてくれない?」