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第二章 緋色の黄金 その1

 全ては十年前、英国のとある田舎町で地質調査を行っていた大学の研究室が、地下に奇妙な空洞が複数発見したことから始まる。その空洞は八角形の細長い洞窟になっており、その奥には血のように赤黒い岩石が眠っていた。

 その岩石は『血晶炭』と名付けられ、調べたところ石炭よりも燃焼効率が良い上に軽量であったことから、新たな燃料資源として注目された。更には、英国に続き世界各所で八角形の洞窟が発見され、その奥に血晶炭が採掘されるようになったことで、瞬く間に世界中に血晶炭の採掘場が作られた。血晶炭は天然の洞窟の奥に存在しているため、採掘のために坑道を掘る必要が無かったことも、血晶炭採掘量の増加の一因とされる。

 洞窟の奥からトロッコで運び出される大量の血晶炭を眺めた詩人が、「まるで地球の出血のようだ」と表現したという逸話が残っている。

 日本でも東日本を中心に血晶炭の採掘場が建設された。中でも水戸藩領の北部の常盤炭鉱は国内最大級の規模で、江戸に向かう血晶炭の大部分の原産地となった。その結果、蒸気機関車が全国を運行し、蒸気を詰めたボンベによって自動車が走行され、工場には蒸気圧で稼働する巨大工具で溢れ、ガスタービンによる発電で通信網が整備された。

 悠久に続くと思われた、蒸気文明による人類の繁栄。

 だがそれは、地下から目覚めた者達によって呆気なく崩壊する。

 採掘中の作業員が行方不明になる事故が、ある日を境に激増したのである。当初は落盤や地下に溜まっていた有毒ガスなどが原因と見られていたが、自力で帰還した生存者が放った言葉が全てを変えてしまった。


「蜂だ、馬鹿でかい蜂が地下にいたんだっ。血晶炭の採掘場は、地下に隠れていた化け物蜂の巣だったんだよっ」


 その言葉に呼応するように、世界各地の採掘場で同様の事件が発生。そして、地下の蜂はついにその姿を人類の目の前に晒した。

 至近距離からのライフル弾でなければ傷付かない、鋼鉄の体表を持つ黒鉄蜂。彼らは哺乳類が地上を支配する遥か前から存在していた種族で、恐竜を始めとする大量絶滅の原因ではないかと考えられている。更新世の氷河時代に巣ごと地下へと潜って越冬を図っていたが、人類による蒸気革命で地表の平均気温が上昇したことで覚醒した、というのが主な仮説である。

 血晶炭を成分分析した結果、黒鉄蜂の強酸性の毒液と生物の脂肪分が混合し、固形化したものと明らかになった。恐らくは、黒鉄蜂は女王蜂や蜂の子の食料とするため、恐竜など地上の生物を毒液によって溶解した後、団子状に丸めて巣に蓄えていたものと思われる。スズメバチにも肉を丸めて巣に持ち帰り、女王蜂や蜂の子の食料とする習性があるため、黒鉄蜂との進化論的な関連性があると見られているが、まだ研究段階である。

 いずれにせよ、血晶炭とは黒鉄蜂の毒液によって溶解された後に結晶化した、生物の油脂である。つまり、血晶炭の表面の緋色は、比喩ではなく本当に血の色であった。


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