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スキル「PV」は閲覧数に応じて強くなる  作者: ジブン
第一章 0〜1922 〜旅立ち〜
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第八話 1262

 昨夜、急に「PV」が伸び始めた。何らかの展開が未だ見ぬ読者を獲得したのだ。

 

 ステータス分配としては、相変わらず「すばやさ」を伸ばす意向ではあるが、「農作業」や「目利き」スキルの有用性は魅力的である。

 だから今後のスキル発現を見越して使用可能「PV」をある程度貯めて置くことにする。

 ユニークスキル「PV」はステータスを任意で分配することで物事に臨機応変に対処できる点でも有用なのだ。

 

 「PV」スキルの性質を把握したことと、着実に伸びる「PV」のお陰で俺の生活は好転し始めている。


「マルク。どこからこれを?」


 机に置かれた大量の塩といくらかのライ麦パン、木の皿に盛られたニシンの塩漬けとガチョウのコンフィに、母マーサは目を丸くしていた。


「ヤグーさんの商売がうまくいって、家族で食べろって」 


 俺はそう言ったが、本当は自ら稼いだ金で買った物だ。


 全て合わせて700ゴールドほどだが、まだ金は余るほどあるのだ。

 

 これらの品はマクノリアの市場で、俺が「目利き」して選んだものだ。


 塩は料理以外にも保存食を作るのに役立つため、たくさん買っておいた。

 この小さな村では塩を手に入れるにも一苦労なのだ。


 ライ麦パンは、大食堂で食べたあの美味しさが忘れられなかったから買った。

 母にも是非この美味しさを味わって欲しい。


 そしてニシンの塩漬けとガチョウのコンフィはちょっとした贅沢のために買った。

 金を節約することも大事だが、今は無理にでも贅沢をすることが性急に思われた。 


 父ガリアが臥してから、母の心労は限界に近づいているようだった。

 だから少しでも美味しいものを食べて元気を出して欲しい。

 そんな願いからくる選定だった。


「ありがとう。マルク。本当に」

 

 母マーサは俺の手を握り、涙に震える声でそう言った。 


「まずはガリアの所へ持って行きましょう。ドルビンさんの分も。あとはお世話になってるベンソンさんと…」


「母さん。まずは母さんに食べて欲しいんだ」


 俺は初めてマーサを母さんと呼んだ。マルクにとってマーサとガリアが両親であることは分かっていたが、どうしても気恥ずかしくてその言葉が出なかった。


 だけど今は自然と「母さん」という言葉が出た。自分もお腹は空いているはずなのに、他の人の事を真っ先に考えるマーサを、息子として誇りに思ったからかもしれない。


 小さな口に恐る恐る食べ物を運び、その度に顔色を輝かせる母はどこか愛らしかった。そんな様子を微笑ましく見ていると「マルクも食べなさい」と母は何度も手を止める。


 ニシンの塩漬けとガチョウのコンフィは俺が選んだだけあって絶品であった。そもそも肉も魚もこの異世界に来て、初めて口にしたから感動は一際だった。


「私はもうお腹いっぱい」

「うん。僕もお腹いっぱいだよ」


 俺と母は明らかに満腹とは程遠いまま、食事を終えた。

 その後、母と共に残った品をドルビンの家やベンソンの家までお裾分けしに行った。

 

 この世界で学んだ助け合いの精神は、俺の中で確かに育れていた。

 

 それは自分が弱者として転生し、助けてもらわなければ生きられなかったからだと思う。


 ドルビンの助けもあり、父ガリアの容態は次第によくなっているようで、軽い運動も始めたようだ。


 あらゆる物事が好転し始めている。


 特にヤグーと過ごした10日間は金銭だけでなく自身の能力的にも、かなり成長できた気がする。


 魔石の売買ほど大きな利益を得ることはなかったが、「目利き」スキルのおかげで一人でも物の売買だけで利益を出せるようにはなった。


 しかしヤグーお得意の客引き口上だけはどうも真似する事はできず、大々的に物を売る事は苦手だと分かった。ヤグーは俺のたどたどしい口上を見て、よく笑っていた。


 ヤグーからは商売のイロハを教えてもらったが、他にも彼は興味深い事を言っていた。


 それは「封建制(ほうけんせい)」という政治体制がじきに終わりを迎えるだろうという事だった。

 

 ヤグーは旅商人として、いくつかの国を回ってきたが、魔法に頼らない技術の発展によって近年、産業と貿易はかなり盛んになっているらしい。


 特に機械技術の先駆である東の国では、一部のエリートが政治を司るのでなく、市井の人々による自治的な政治が進んでいるという。

  

 誰もが自由に売買し、土地を開墾する。そうした自由な政治は、人々の欲望や熱意がそのまま形になるゆえに、不安定ではあるが成長は著しいものとなっている。


 どれほど「封建制」が抑圧的な体制をとっていても、いずれ自由の風がこの国にもやってくるだろうとヤグーは語った。


 ヤグーの言う事柄は「民主制」や「資本主義」の原初的な形態だと思う。

 

 この世界は、今まさに一つの転換期を迎えているかもしれない。

 

 昨日のヤグーとの別れはやはり寂しかった。


「おい。本当に一緒に来ないんだな」

「はい。村に家族がいるので。今まで本当にありがとうございました」

「もったいねぇな。お前は「目利き」の才能があるのに」

「ヤグーさんの教えのお陰です」

「まぁ。そりゃそうだ。俺が選んだ男だからな。お前は」

「またそれですか」

「ふん。まぁ二度と会わねぇかもしれねぇから言っといてやるが、初めて会った時に、お前が白く光って見えたんだ」

「え?でも人には「目利き」はきかないはずじゃ?」

「あぁそうだ。だから言いたくなかったんだ。だが俺の「目利き」はやっぱり間違っちゃなかった。あばよ」


 ヤグーの短い指に鈍い金の指輪をキラリと光る。

 

 彼は馬車で王都セントフィルへと向うらしい。

 王都セントフィルとはサルマン方伯領の属する大国、「フェルマン王国」一番の都である。

 

 ヤグーは冒険者と呼ばれる用心棒を一人だけ雇っていた。セントフィルまでは馬車で四日ほどかかるために、野盗やモンスターの脅威があるのだという。


 もし生活に余裕ができたなら、王都や東の国にも行ってみたい。

 ヤグーや冒険者と呼べれる人々のように、自由に旅がしてみたい。


 そんな事を思いながら、俺は小さな村のさらに小さな家で眠りについた。


♢♢♢

 

 翌日、俺は騒がしい物音で目が覚めた。


 寝ぼけまなこで家を出ると、そこには動揺している様子の村人たちと、馬に乗ったサルマン家の騎士たちがいた。


 4人の騎士のうち先頭の1人は、今までみたサルマン家の騎士と違い、金の刺繍がほどこされた黒のチェニックを着ており、さらに目立つことに真っ赤な髪を(なび)かせている。


「このガキか?」


 先頭にいた赤髪の騎士が馬の上から俺をみて言った。


「そうです。ヴァルター様」


 騎士たちの近くにいた一人の村人が俺の事を指差す。

 

 何が起こっているのか分からないが、良いことではない。

 ともかく俺は緊張した面持ちで頭を下げる。


「ガリアの息子、マルクだな」


 ヴァルターと呼ばれた騎士は馬に乗ったまま、俺に近づいてくる。


「はい。そうです」


 俺は頭を下げたまま言った。


「お前が不審な動きをしていると報告があった。村を出て何をしてる?」


 俺は正直に商人の手伝いをしていた事を伝えた。


「ふん。まぁそれは後で確かめる。あと、お前の動きが常人離れしてるという報告も入っている。よく分からんが、とりあえずステータスを出せ」


 事情が分かってきた。

 

 俺が頻繁に村を出ていたことと農作業の異常な早さを不審に思った村人がサルマン家に報告をしたのだ。


 どうやり過ごそうか考えていると「早くしろ」とヴァルターは怒鳴った。

 

「ステータス」


ーーーーーーーーーーーー


名前:マルク

年齢:15歳


レベル:5  

最大体力:30

最大魔力:2 

力:25

魔力:2 

すばやさ:47

運:4


魔法:なし

スキル:農作業Lv.14 

     目利きLv.10

ユニークスキル:「PV」


ーーーーーーーーーーーー


 隠して上げてきた俺のステータスが騎士たちに暴露させると、辺りは不気味な静寂に包まれた。


「チッ。オットーの野郎は何を見てやがったんだ。このガキ、ただもんじゃねぇじゃねぇか」


 赤髪のヴァルターは舌打ちをすると、かったるそうに呟いた。


「おい。お前、金を渡してやれ」


 ヴァルターが促すと騎士の一人が俺を指差していた村人に金を渡す。

 

 村人は気まずそうに金を受け取ると、周りの視線を気にしながらそそくさと去っていった。

 

 村の中において不審な動きをしている奴を見つければ金を与える。


 そうした密告制度によって、監視の目を光らせ、反乱が起こらないようにしているのか。


「おい。ガキ。ここで死ぬか。大人しく連行されるか?」


 ヴァルターがそう言うと母マーサは声をあげる。


「マルクは何もしていません。この子は心優しい子です!」


 俺の前にとび出した母の抗議の声に、ヴァルターは溜息を漏らす。


「やれやれ、残念だが俺はオットーと違って、女にも容赦しない」


 そう言うとヴァルターは右手を上げ、手の平の上に赤い炎の玉を作ったかと思えば、それを母に向かって投げつけた。


「きゃー」


 

 今度は間に合った。


 俺は母を抱えて、紙一重でヴァルターの放った炎の玉を避けた。


 背後の我が家はパチパチと音を立てて燃え始める。


 こいつは殺す気で母に攻撃を放った。


 俺のすばやい動きに驚いた騎士たちは馬から降りて、一斉に剣を構える。


「連行して下さい。だけど…」


 俺はゆっくりと母を降ろす。


「だけど、何だ?」

「家族や村の人たちを傷つけたら、お前たちを殺す。絶対に殺す」


 燃える家を背後に俺は言った。


 その言葉に嘘はない。

 母や父に危害を加えるなら、どんな手を使ってでも、こいつらを殺す。  

 彼らは俺の生きる希望なのだ。


 ヴァルターは馬から降りることなく、俺を睨みつける。


「分かった。この村には手を出さないと誓う。おいお前ら、このガキに縄をかけろ」


 ヴァルターがそう言うと騎士たちは縄を持って俺を縛り始めた。


 良かった。

 今の俺の力でこいつらを殺すことができるかは分からない。

 もし殺せたとしても、必ずサルマン家による報復が起こり、村ごと滅ぼされていたかもしれない。

 

「母さん。絶対に帰ってくるから。父さんによろしく」


 そう告げた俺は手足を縛られたまま馬に担がれ、サルマン家の城へと連行された。 


ありがたい感想、レビューのお陰で「PV」が伸び始めました。

物語も展開をむかえますので、今後とも応援していただけると嬉しいです。


ーーー


 また今作品は読者との相互的な関係の中で作りたいと考えているので、お気軽にご意見、ご感想をお願いします。もちろんブックマーク登録や閲覧をしていただくだけでも、「PV」として作品に影響を与えますので、連載中はお祭り感覚で参加してください!


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