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スキル「PV」は閲覧数に応じて強くなる  作者: ジブン
第一章 0〜1922 〜旅立ち〜
5/23

第五話 416

ーーーーーーーーーーーー


名前:マルク

年齢:15歳


レベル:4  

最大体力:25

最大魔力:1 

力:20

魔力:1 

すばやさ:40

運:3


魔法:なし

スキル:農作業Lv.14

ユニークスキル:「PV」


ーーーーーーーーーーーー


 朝一にステータスを確認して、増えた「PV」を分配する。

 おそらくそれがこれからの日課になりそうだ。

 コスパのいい「すばやさ」を重点的に上げていくという方針は継続させていくつもりだ。

 しかし「PV」の伸びというものが分からない以上、ステータス分配は慎重に考えなくてはならない。

 

 母マーサとベンソンによれば今日は休息日らしい。

 だから俺とマーサは父が世話になっているドルビンの家へと向かった。


「少ないですがお金です。受け取ってください。あとはパンと干し肉を少し」


 母マーサはドルビンに小袋を渡す。


「お前さんたちは大丈夫なのか?」


「はい。マルクがよく働いてくれていますので」 


「分かった。これは医療費として受け取っておこう」

 

 ドルビンは渋々、わずかな金の入った小袋を受け取る。

 

 本当はその金が薬代の足しにすらならず、パンと干し肉もガリアが食べる分にも満たないことを、母もドルビンも分かっているだろう。

 

 俺たちの家にはもはや一銭の余裕もないのだ。

 

 だがそれでも精一杯の感謝のために金を工面した母と、その気持ちを受け取ったドルビン。それは暖かくも、どこか悲しいやりとりに見えた。


「今ガリアは薬の作用で寝ておる。あいつはもう働くつもりでいるが、ありえん。回復力があることは認めるが、まだいつ悪化して死ぬかも分からん状態だ」


 そう言うとドルビンはベッドで眠るガリアを見つめる。

 

 安らかな表情で眠ってはいるが、肘から下のない右腕の包帯はまだ赤く滲んでいる。


「もしガリアが後30日、少なくとも20日は安静にしないならば、私は二度とお前さんたちと関わらないつもりだ。殺すために、わざわざ助けたわけではないからな。だからお前さんたちからもガリアに言ってやってくれ。起きた後でいいから」


 ドルビンは溜息をつきながら視線を落とした。


「何もかもありがとうございます。今から私たちは市場に行くので、帰ってきてからまた寄らせていただきます」


 俺と母マーサは改めてドルビンの礼を言ってから、市場へと向かった。

 村から歩いて3時間ほどで、目的地の市場へは着くという。


 道中、できるだけ歩くペースを合わせたつもりだったが、それでも台車を引く俺の方が母に先行することがしばしばだった。 


 サルマン領のほぼ中心に位置するマクノリアの市場は、休息日や昼夜を問わず様々な人で賑わっている。


 そう母から聞かされた話は本当だった。


 中央広場を中心に放射線状に広がる色とりどりの商店。

 

 元の世界でも見たことがある品々を取り扱っている店もあれば、気持ちの悪い植物の根っこ、爬虫類らしき巨大な鱗、綺麗に並べられたただの石っころ、など用途の想像もつかないような商品を扱っている店もある。


「ここら辺でいいかしら」


 母マーサは蚤の市として開放されている広場の片隅で、売るための商品を台車から取り出し並べ始めた。


 シミだらけの何枚かの布、使い古された木かご、黒く煤汚れた鍋、石床に直接並べられたそれらは、商品と呼ぶにはあまりにもみすぼらしかった。


 だが最後に母が少し躊躇しながらも並べた綺麗な緑色のドレスだけは異彩を放っていた。


 俺はそのドレスについて母に何も聞かなかった。


 恐らく、それは唯一の晴れ着と呼べるもので、家族から受け継がれたもの、あるいは父からの贈り物なのだろう。


 またドレス以外の商品も家にあったわずかな備品であり、そうした物を売らなければ生活ができないほどに我が家は困窮しているのだ。


 母と俺は座って客を待つが、楽しそう行き交う人々は哀れな農奴に見向きをしない。


「寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。世に珍しいウロボロスフルーツだよ。一つ食べれば寿命が10年延びると言われている幻の果物。ここでしか買えないウロボロスフルーツが、今なら大特価の1500ゴールド。早いもの勝ちだ」


 隣で商売を始めた背の低い色黒のスキンヘッドの男が声高に叫ぶと、瞬く間に人が群がり始めた。


 男が折り畳み式の長机に並べたのは緑色のドラゴンフルーツのような見た目をした果物だ。


 1500ゴールド。母から聞いた話によれば1000ゴールドあれば、しばらくは暮らせるというので、かなり高級な果物だと思うが客足は絶えない。


 石床に置かれたドレスが人混みに踏まれないように見守っていると、「ちょ、ちょっと待て。誰かあの猫を捕まえてくれ」と果物を売る男の声が聞こえてきた。


 目をやると人混みの中から、すっと一匹の黒猫が緑色のウロボロスフルーツを咥えてとび出した。 


 男は懸命に叫んでいるようだが、群がる客たちを相手に身動きが取れないようだ。


 俺は母に一言告げると、黒猫を追った。


 黒猫は市場の中を縦横無尽に駆け回ったが、上昇させた「すばやさ」のお陰で、なんとか追い付くことができた。

 

 どこまでも付いてくる俺に観念したのか、黒猫はウロボロスフルーツをポトっと落として去っていった。


 すまんな黒猫。だけどお前も10年寿命が延びたら色々と大変だろう。


 俺がウロボロスフルーツを片手に戻ると、既に人混みは無くなっており、男はキョロキョロと周りを見渡している。


「これ、猫から取り戻しました」

 

 俺が男にウロボロスフルーツを渡すと男はパッと笑顔になり、また大声で客を呼び始めた。


 すぐに俺の手渡した最後のウロボロスフルーツを売り切った男は、遅れて俺に礼を言ってきた。


「いやー。兄ちゃんありがとよ。助かったぜ」


 男は笑いながら金を勘定する。


「高級食材なんだね」


「あぁそうだ。なんせ仕入れ値ですら1200ゴールド前後はするからな。だが正直なところ、俺は全く魅力を感じねぇな。俺はこっちの方が好きだ」


 そう言うと男は俺にリンゴを投げてきた。


「お礼だ。兄ちゃん。実際あんなもん食っても寿命なんて伸びるわけねえからな」

 

 それもそうだ。

 もし寿命が延びるなら逆に1500ゴールドは安すぎる。

 この世界でも人は噂や迷信に対して、半ば分かっていながらもしがみつくものなのか。


 俺はもらったリンゴを懐に入れる。

 腹は減っているが、これは父にあげるために取っておこう。


 帰り支度をする男を尻目に客を待っていると、ようやく金持ちそうな婦人がドレスに興味を示してきた。


「このドレス。おいくら?」

「600ゴールドです。まだ一度しか着ていないものです」

「少し見てみてもいいかしら」


 婦人はドレスを自分の身体に合わせて確認する。


「ピッタリね。だけど、600ゴールドは高すぎるわ。出せるのはせいぜい400ゴールド。どうかしら?」


 婦人は意地悪そうな顔で値踏みをしてきた。


「…はい。分かりま…」


 少し考えた後、母マーサが了承しようとすると、先程の果物売りの男が急に割り込んできた。


「いやはや、奥さん。このドレスは絹でできているな。少し見せとくれ。うんうん。これはかなり良いものだぞ。どうだ。俺は750ゴールド出すが」


 男がドレスを触ると婦人はムキになってそれを引き離し、「私は800ゴールド出します」と言い放った。


 結局、800ゴールドを支払った婦人が満足そうに帰っていくと、果物売りの男が近づいて話しかけてきた。


「さっき助けてもらったよしみで今回の手数料はなしにしといてやる。あと助言してやるが、さっきのドレスは本当に上質のもんだから、400ゴールドで売るのは大損だ。しかも、あっちから食いついてきた客には一銭たりとも負けちゃいかん。これは商売の鉄則だ。あと、ここら辺のガラクタを売るならここじゃない方がいい。ここは金持ちが多いから、あっちの庶民が集まる市場の方がまだ売れるだろうよ」


 俺と母が礼を言って、移動するために荷物をまとめていると、再び男が話しかけてきた。


「そういえば兄ちゃんは、たまたま猫が落としたフルーツを拾ったのか?」

「いや。猫を追いかけて取り返したんです」

「この町の泥棒猫に追い付くとは、かなりの「すばやさ」だな。ステータスを見せてくれるかい?」  


 少し悩んだ末に俺は断った。


 俺のステータスは「PV」スキルのおかげで、少し極端なものになっている。

 メリットが明確でない以上、ステータスを開示する理由はないだろう。 


「なるほど。見た目によらず賢いようだな。よし、決めた。俺がお前を雇ってやる」

「え?」

「見たところ、お前は田舎者で貧乏だ。しばらく俺はここで商売をするつもりだから、手伝ってくれたらその分だけ金をやる。ここらは泥棒猫以外にもスリやら盗難が多くてな。足の早い兄ちゃんが見張っててくれるだけで、俺としては安心なんだ」


 詳しい話を聞くとその男は旅商人で、あと10日間ほどマクノリアの市場で商品を売るという。

 今日のような休息日には高級な商品も売るらしく、護衛もかねて人手が欲しかったところらしい。

 

 休息日なら農作業もできないし、「すばやさ」や「農作業」スキルが上がった今、仕事を早めに終わらせて手伝いにくることもできるはずだ。


 そうして俺は金や時間帯などの相談をして商人に正式に雇われることになった。

  

「名乗るのが忘れたな。俺はヤグーだ。よろしくな」

「マルクです。よろしくお願いします」


 こうして俺の農奴と商人の手伝いという、二足の草鞋の生活が始まった。


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