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スキル「PV」は閲覧数に応じて強くなる  作者: ジブン
第二章 2083~
20/23

第二十話 4007

「やっぱりやめとくか?いきなりドラゴンはやりすぎだったかもしれん」


「小商人。怖気付いたか?」


「おい。姉ちゃん。俺は心配してやってんだぞ」


 ヤグーとイェフェンが口論をしている。

 ここ最近で何度も見た光景だ。


「おい。マルク。お前はどうなんだ?」


「あぁ。えーと」


 ヤグーからの質問に言葉が詰まる。

 頭があまり回っていないのは、ドラゴンの目が頭にチラついて一睡もすることができなかったからだ。


 昨日、目の当たりにしたドラゴンという圧倒的な脅威。

 途轍もない恐怖を感じたが、同時に畏敬の念も湧き上がった。


 今までエベレストを登ったり、深海へ潜ったりする冒険者たちの気持ちが分からなかった。

 なぜ、自ら進んで危険な道へ行くのかが理解できなかったのだ。

 だが圧倒的な存在であるドラゴンを見て、初めて冒険者たちの気持ちが分かった。


 自分の力を全て出し切るような一瞬に命をかけること。ただ生きているだけでは経験できないような特異な状況、想像を超えた未知の力との出会い、それが冒険なのだ。


 なぜモンスターと対峙する者が、冒険者と呼ばれるのか。

 少しだけその意味が分かった気がする。


「僕は行きたいです」


 イェフェンは頷き、ヤグーは溜息をつく。

 ハムラは俺の顔を不思議そうに見つめながら「僕も行きたいです。僕は闘えませんが…」とつぶやいた。



「仕方ねぇ。またお前の賭けにつきやってやるか」


 ヤグーが折れ、俺たちは馬車へと乗り込んだ。

 

 出発して、一時間もせずに俺たちはドラゴンを見つけた。

 だがドラゴンは遥か上空を飛んでおり、急いでそれを追うことになった。

 

 渓谷の高低差が激しくなってきた頃に、ドラゴンが一番高い丘に降り立つのが見えた。

 おそらくそこはドラゴンの巣とも呼べる場所で、どこか周りとは異質な雰囲気を漂わせていた。


「ここから一発お見舞いしてやるか?」


 馬を木に繋いで秘密兵器である大砲を取り出すとヤグーは言った。


「ダメだ。ここからでは届かない」


 イェフェンは腕をまっすぐに伸ばし親指を立ててドラゴンとの距離を測る。


 ドラゴンがこちらに気付いていない以上、不意打ちできればより良いだろう。

 だが砲弾は五つしかなく、最初の一発は特に慎重になる必要がある。


 俺たちは気づかれないように大砲を引いて近付く。

 ドラゴンはまるで生態系の頂点であるかのように、周囲を一切警戒していないようだ。


「この辺りが限界だな」


 距離にしておそらく800mほど、ここからならば砲弾は確実に届くだろう。


「いっそのこともっと近付いてもバレねぇんじゃねぇか」


「ダメだ。ドラゴンもこちらに気付いてはいる。これ以上近付けばあちらから襲いかかってくるぞ」


 イェフェンの勘を信じ、俺たちはその場で砲弾をセットする。 

 ドラゴンもこんな遠距離から攻撃が飛んでくるとは思いもしないだろう。

 まさしくこれは世界初の試みなのだ。


「緊張するな。照準は私に任せて、お前は魔法だけに集中しろ」


 イェフェンが大砲の位置と高さを調整し、ヤグーとハムラがそれを固定する。


 右手は砲身に触れ、左手は魔石を握りしめる。

 後は何度も練習した通りに、火を発生させるだけだ。


「いきます。ファイア」


 砲身の中で爆発が起こると砲口が火を吹き、砲弾は空を裂きながら真っ直ぐにドラゴンの元へと飛んでいく。

 ドラゴンは爆発音に気づき首を上げるが、突然飛んでくる砲弾を避けることはできなかったようだ。


 砲弾はドラゴンの胴体に確かに命中した。

 だが、それがドラゴンの厚い鱗を貫通することはなかった。

 距離のせいで威力が足りなかったのだ。


 冷えた空気を揺らす咆哮をあげたドラゴンは、その黄色の目で矮小な四人の標的に狙いを定めた。


「一度逃げるぞ」


 俺たちは車輪のついた大砲を引き、作戦通りに森の中へと走った。

 空を飛ぶドラゴンの視界を隠すには森の中が最適なのだ。


 まだ距離は遠く、森に隠れればドラゴンだろうと直ぐには見つけられないだろう。


 と思っていたが、ドラゴンの飛翔は脅威の素早さで、一度目の砲撃から10秒もせずに羽ばたきの音が聞こえるほど近くまで迫っていた。


 このままでは隠れることも叶わずに追いつかれてしまう。


「撃ちます」


 俺は逃げることを諦め、大砲を急旋回させると上空から迫るドラゴンに大砲の狙いを定めた。

 

「もう少し左だ」


 イェフェンの声に従って砲口を少しだけ左にズラす。

 ヤグーは「正気かよ」と文句を垂れながらも、砲弾を詰める。


「ファイア」


 一直線に迫りくるドラゴンは、対角から飛んでくる砲弾に対して身を翻す。

 しかし、方向を変えるために広がった巨大な右翼を砲弾が貫通する。


 ドラゴンはそのままバランスを崩し、まるで墜落する飛行機のように地面を擦りながら落下する。


 アイコンタクトをすると俺たちは二手に分かれて森の奥へと駆けていった。


 俺とイェフェンは大砲を運び、できるだけ安全な場所まで移動して砲撃をする。

 その間、ヤグーとハムラは弩を使ってドラゴンを牽制するという作戦だ。 


 背後から再びドラゴンの咆哮が響くと、それに続いて木々を薙ぎ倒しながらどこかへと進んでいく音が聞こえる。


 ヤグーとハムラが上手く引きつけてくれているようだ。


「ここからでは厳しいな」


 土煙が撒い、木々が薙ぎ倒されていく様でドラゴンの位置は掴めるが、木々が邪魔で砲撃を当てることは難しい。


「あそこからはどうですか?」


 俺は丘とは呼べないまでも周りからは少し高くなっている高地を指差す。

 

「いいだろう」


 高地へと登ると木々よりも高いドラゴンの頭が見える。

 ここから砲弾を撃てばドラゴンの頭部を傷つけるかもしれないが、流石にもうそれを気にして戦える状況ではない。


 イェフェンはドラゴンとの距離を測り、またその動きを予測して大砲の狙いを定める。


「3、2、1」

「ファイア」


 イェフェンの掛け声に合わせて発射した砲弾はドラゴンの方へと進んでいく。

 真っ直ぐに進む弾道は極めて正確だった。

 

 しかし大砲が火を吹いた瞬間、ドラゴンは瞬時にこちらを認め、首を曲げて砲弾を避けた。

 そして更にドラゴンは進んでいる方向を変えて、こちらに向かって突進し始めた。


「チッ。(さと)いな」


 イェフェンは舌打ちする。

 確かにドラゴンは大砲という兵器の特性を理解し始めているようだった。

 だから爆音が鳴ったその瞬間に警戒する方向を定め、更にこちらを先の標的へと移したのだ。


「迎え撃ちましょう」


 突進してくるドラゴンを正面から迎え撃つ。

 ギリギリまで待ち受けることが条件にはなるが、スピードに乗ったドラゴンは流石に砲弾を避けることができないだろう。


「危険だ」

「僕一人でやります。近くまで寄れば僕でも当てられます」

「そういう問題ではない」

「砲撃をした瞬間に大砲を置いて回避します。大砲は壊れるかもしれませんが、どのみち後二発しかありませんから」


 ドラゴンは猛スピードで迫って来ており、議論をする時間はない。


「死ぬなよ。幸運を祈る」


 俺の覚悟を察したイェフェンはそう言い残して木陰へと走った。

 

 俺は迫り来る土煙に大砲の照準を定める。


 命の危険であることは嫌というほど分かるが、恐怖とはまた違う胸の高鳴りが抑えられない。


 土煙の中からドラゴンの顔が見える。

 ドラゴンは顔を前に突き出し、牙を剥き出しにして迫ってくる。

 燃えるような黄色の目は、俺のことを敵として認めているようだ。


 来い。ドラゴン。一騎打ちだ。


「ファイ…」


「ブレスだ。避けろ」


 砲弾が放たれる前に、ドラゴンの口からまるで光線のような火柱が放たれる。

 

 イェフェンの声のお陰で、俺は紙一重で身体を投げ出してそれを避ける。


「集合場所で落ち合おう」


 イェフェンはそう言うとドラゴンに矢を放ち、そのまま森の奥へと去っていった。

 俺も直ぐに立ち上がり、イェフェンとは逆の方向へと走る。


 ドラゴンは矢を放ったイェフェンに標的を定め、そちらに向かって駈けていく。

 イェフェンとてこのままドラゴンに追いかけられれば直ぐに追いつかれてしまうだろう。


 大砲を失った今、俺にできることはなんだ。


 俺はその場で魔石を握り、火魔法の暴発を起こす。


 爆発音が響くとドラゴンが警戒のために一瞬停止するのが見えた。


 どうかこれで生き延びてくれ。


 俺はそう願いながら必死に森を敗走した。



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