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スキル「PV」は閲覧数に応じて強くなる  作者: ジブン
第二章 2083~
19/23

第十九話 3717

「で、できましたね」


「凄まじい破壊力ですね」


 俺とハムラは国王軍の厩舎の一角を借りた実験場で、とある兵器を作り上げていた。


「なんの音だ!こっちから爆発音がしたぞ」


 異変に気付いた国王軍たちがやってくる。

 馬たちも突然の爆発音にいななき暴れている。


「なんだこの巨大な穴は?マルコ?」


 俺は謝罪と共に厩舎の壁に空いた大きな穴の修理を約束することになった。 


「ところでなんだこの鉄塊は?」


「大砲です」


 車輪のついた2mはあるかという巨大な鉄の筒は、おそらくこの異世界で初めての大砲である。


 しかし、それは大砲と呼べるかどうかも危ういもので、俺のいた世界には存在しないものでもあった。


 なぜならこの世界にはまだ火薬が存在せず、代わりに魔法を利用しているからだ。


 火薬がない大砲とはいささか奇妙なものであるが、砲弾の推進力は確保できている。


 それは国宝級の魔石によって得られる強大な火魔法の爆発である。

 魔女の館にて魔女の火魔法を暴発させた魔石の所有者はカリーナ王女であるが、俺はカリーナ王女からその魔石を借りている。

 カリーナ王女は、少なからず俺に好意を抱いているようで、気が引けるがその好意を利用させてもらった。


 簡単にいうと火の魔法は、大気から燃焼性の酸素を集中させてから熱を発生させるイメージを具現化するものである。だから実際に火を発生させる際に対象に触れる必要はない。


 だからこそ砲身の内部の空間に火を発生させることは可能だった。 


 作り上げた大砲の構造はシンプルで、本来なら火薬を詰める場所に酸素を取り込む小さな穴の空いた空間があるだけの砲身がその全てである。しかし、鋳造技術や鉄の加工の未発達のこの世界では、それを作るだけでも二週間を要した。


 ドラゴン討伐の秘策とはこの特殊な大砲であり、俺の魔法とのすり合わせを含めた試行錯誤を経てそれはようやく完成したのだ。

 東の国の技術者であるハムラならば、俺のアイデアを形にしてくれると信じていた。


 その日の夜、俺とハムラとイェフェンとヤグーの四人は王都の近くにある河原で砲撃練習も兼ねた作戦会議を行なっていた。


「本当に当たるんですかね?」


 ハムラは心配そうに聞く。


「大丈夫です。イェフェンさんの腕があれば」


 遠くからモンスターの目玉を射抜く、エルフのイェフェンならば空を飛んでいるドラゴンにも砲弾を当てることができるだろう。


「弾道は把握した。出力が安定すればドラゴンに当てることも可能だとは思う。だがこの鉄塊は小回りは効くのか?」

 

 イェフェンは巨大な砲身を怪訝そうに見つめる。


「そこは僕が動かします。力とすばやさにはちょっとだけ自信があるので」


 俺は大砲を動かせるだけの「力」を「PV」によって実現させていた。


「成功してもらわねぇと困る。このデカブツの材料だけで4000ゴールドは使っちまったからな。弾も全部で五発しかねぇ。賭けだなこりゃ」


 ヤグーは手を揉みながら、口を歪ませる。


「もう一度、練習しますか」


 夜の河原に爆発音が響き、もくもくと煙が上がった。

 

♢♢♢


「本当にいくのか?」


 集会所のマスターである老父はしかめ面で言う。


「親切心で言ってやるが、死ににいくようなものだぞ。今度はガルシアのパーティが全滅した。平均レベル30の歴戦のパーティがなす術なくやられた。今回のドラゴンは巨大な上にかなり凶暴だ」 


 ガルシアとは集会所にて俺たちを追い出した2mの大男の名だった。

 確かに彼は見た目だけでなく、確かな実力も備えているようであった。

 そんな彼らのパーティが全滅したとなると危険ももっともだろう。


「親父。報酬金が上がったってのは本当だろうな?」


 ヤグーは背伸びして老父に問いかける。

 

「あぁ。テレンス伯が報酬を120000ゴールドまで引き上げると言った。それでも命の方が大切だとは思うがな」


 老父は誰一人として冒険者ではない四人のパーティを一瞥し、最後の忠告をする。


「やっぱり、やめときましょうよ。相手はあの〈巨竜(ドラゴン)〉ですよ」 

 

 ハムラは目を泳がせながら不安を漏らす。


「確かに命には代えられませんね。ハムラさんは待機でも大丈夫だとして、イェフェンさんとヤグーさんはどうですか?」


 大砲の作製には乗る気であったハムラだったが、わざわざドラゴン討伐についてくる必要はないだろう。 


「私は行く。ドラゴンを倒したものはエルフの中でも最大級の栄誉が与えられるからな。頭部の持ち帰りは悪趣味だが旅費のためならば仕方ない」


「俺も行く。もし成功すれば合計150000ゴールドだ。どんな商売よりも上がりがいい」


「では三人で行きましょう。ハムラさんの分も報酬はしっかり分けますから安心して下さい」


 歩を進めようとすると、ハムラは後ろから引き止める。


「置いてかないで下さいよ。行きます。行きますよぉ」


 こうして俺たち四人はドラゴン討伐へと出発した。


〈クロウスの谷〉へは王都セントフィルから馬車で丸一日ほど西へと進んだ場所にある。


 そこはカルマン大河の下流へと伸びる道沿いの渓谷であり、そこまでの道のりは比較的に安全である。

 

 しかし〈クロウスの谷〉には大型のトロールが群生しており、近づくことは半ば禁忌とされているらしい。


「では〈東の国(ハポネ)〉には王はいないのですか?」


 揺れる馬車の中、大砲を囲んで俺とハムラとイェフェンはそれぞれの異なる境遇について話していた。


「22年前に無血革命が起き、王は権力を失いました。今でも名ばかりの国の長ではありますが、実際は三年に一度選ばれる国民の代表たちが法を整備し、政治を行なっています」


「エルフの里も似ている。古来から元老院と呼ばれる議会を通じて(まつりごと)がなされる」


 詳しく聞くと〈東の国(ハポネ)〉では革命が起こる前には厳密な階級制度が存在していたのだという。特に興味深いのは、スキルやステータスによっても職業や身分が定められていたということだ。

 確かにステータスやスキルは可視化された能力そのものであり、それにより何らかの区分が与えられるのは合理的だといえるかもしれない。

 

 だがハムラはそれでは技術は向上しなかったと自信なさげに主張した。彼によればスキルはその者の生まれや環境に依存することが多く、スキルに全ての能力を還元してしまうことが、そこに明記されない新たな技術(スキル)が生まれる可能性を奪っていたのだという。ステータスもまた目に見える一つの指標(ステータス)に過ぎず、目に見えない潜在的な可能性はまだ誰にも書き込まれていない空白の状態なのだとハムラは語った。


 今までスキルやステータスを追い求めてきた俺には目から鱗の価値観であった。だがよく考えれば俺が元にいた世界においても同じことが起こっていたはずだ。学歴や知名度、年収が一つのステータスとなり、いつの間にかそれが人間の価値に成り代わっていることに悩むことは往々にしてあることだった。俺はそれを痛いほど理解している。なぜなら、俺の自殺の原因は、まさしく目に見える価値(ステータス)に悩んだ末の結果なのだから。


「ここらで一泊するぞ」


 馬車を操るヤグーの声が聞こえて、幌を開けると既に日は暮れ始めていた。


 焚き火を囲んで明日の打ち合わせをする。ドラゴンは5mほどの体長で、空を飛び、火を吹くのだと言う。全くのイメージ通りではあるが、実際に見るとたぶん震え上がってしまうのだろう。


 作戦は砲弾を当てることに限るのだが、俺とイェフェンは大砲を操作し、ヤグーとハムラは弩を持って牽制を行う。


「最後に確認だが、死にそうになったら逃げる。これだけは守ってくれよ」


 ヤグーの一言で作戦会議は締まり、俺たちは一人づつ交代で見張りを立てて仮眠することになった。

 

 1時間ほどの仮眠を済ませて、俺がハムラから見張りを交代すると、そこへコソコソとイェフェンがやってきた。


「この前の借りを返させてもらおうか」


 イェフェンは不敵に笑いながら、俺に接近する。


「脱ぎなさい」


 今回のイェフェンは気合が違うようだ。

 俺は言われるがまま、上着に手をかける。


 ボタンを外そうと手を掛けると突然、ドシーンと地面を揺らす音がした。


「静かに」


 イェフェンは瞬時に土をかけて焚き火の火を消す。


 地面を揺らす音は規則的に響き、こちらに近づいているようだった。


 異変に気づいたヤグーとハムラが馬車から出てくる。


「トロールが近くにいる」


 イェフェンは小声でそう言うと大きな弓を取り出し、足音の方へとゆっくりと進み始めた。

 まだトロールはこちらに気付いてはいないようだが、このまま足音がこちらに進めば鉢合わせてしまうだろう。


 俺は片手剣と魔石を携えて闇の中へと進むイェフェンの後ろを付いていった。


 進むにつれて足音は次第に大きくなり、身体を震わせる衝撃にトロールの巨体を身を持って感じる。

 

「一体しかいないようだ。私が矢を射つ」


 イェフェンは木陰に身を隠すと矢尻に毒を仕込み始めた。


 俺にはまだ足音だけで姿は見えていないが、どうやらイェフェンはもう闇の中のトロールを捉えているようだった。

 

 イェフェンは弓を目一杯に張って標準を定めると、緑の目を細めて闇の中に矢を放つ。


 矢は真っ直ぐに飛び、俺の視界から抜けると同時にトロールの唸り声が響いた。


「当たった。逃げるぞ」


 イェフェンは俺の腕を掴むと振り返って走り始めた。するとさっきまでの足音がさらに大きくなって、こちらに向かって走ってくるようだった。


 ドシン、ドシンという間隔の狭くなった足音だけでなく、巨大な生物の息を切らす声が近づいてくるのが分かる。


 俺は必死にイェフェンに付いていくが、暗闇のせいでうまく走ることができない。


 走っている最中に後ろを振り返ると、暗闇の中からトロールの巨大な顔が浮かび上がっている。全長は見えないが3mはあるかという高さだ。


 再び前を向いて走り出そうとした瞬間、つま先に何かが引っかかる。

 俺は勢いを殺せないままに前のめりに転げる。

 膝や手のひらの出血なんて気にしている場合ではない、と立ち上がるがトロールの足音は直ぐ後ろで止まった。

 振り返ると目の前には手足が大きく肥大化した人型の巨大モンスターが、俺の身長以上の大きさの木の棍棒を振りかぶっていた。


 しかし、そんな危機的な状況においても、視界の中に更なる脅威が映れば人はそちらに注目してしまう。


 俺の目が捉えたのは、トロールの後ろからまるで空間を裂くように現れた巨大な口と無数の鋭い牙であった。


 闇から現れたワニのような凶悪な口は、3mはあるトロールを顔からかぶりつくと、緑色の鱗に包まれた首を上空に向けて丸呑みしてしまった。膨れ上がった首の中をトロールが原型を保ったまま通っていくのが分かる。


 YouTubeか何かで見た、蛇が大きなネズミを丸呑みしていく様とそっくりだ。

 違うのはそれがドラゴンとトロールだったということだ。


 黄色の中に一筋の黒い線の入ったドラゴンの目は、確かに俺の事を視認している。

 だがドラゴンはまるで俺なんて存在していないかのように、悠々とトロールを胃の中に流し込む。

 

 俺が一歩も動けないままでいると、ドラゴンは巨大な翼を羽ばたかせ始めた。

 俺の身体はその風圧だけで後ろ向きに転げてしまった。


 再び立ち上がると、既にドラゴンは上空高くへと飛び去っていた。


「大きいな」


 俺の後ろで弓を構えていたイェフェンが言う。

 冷静に取り繕っているが、声が震えているのが分かる。


 俺たちは、あんな化物を相手にしようとしているのか。


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