第十八話 3344
私は元気です。
今は義理深い鋭い目をした親方の下でお世話になっています。
給料が出たので送付させていただきます。そちらもお元気で。
短い文章と共に国王軍での1ヶ月の給料である4000ゴールドを便箋の中にしたためた。
偽名を使い情報もぼかしているが、俺が無事だと言うことが両親に伝わればそれでいい。
気温は少し寒くなり、朝は布団が恋しくなる。
ナザム村では種蒔きが始まっている頃だろう。
ガリアは動けるようになっただろうか。
マーサはしっかり食べているだろうか。
城に隣接する国王軍の寮から外を見る。
まだ朝は早く、稽古場には誰の姿もない。
この1ヶ月で色々な事があった。
まずは外見だが少しだけ体格がよくなった。
まだ貧弱な身体であることに変わりはないが、毎日二食の飯を食えるだけで身体が成長していく気がする。
そして髪の毛が伸びた。本来なら髪を切りたいところだが、変装の意味もこめて切らないでいる。最近は鬱陶しいので後ろで髪を結うようにしている。
同僚であるトマスからは「その髪型もブラックウッド大将へのリスペクトか?」とからかわれた。
そしてついに昨日、ブラックウッドの剣を全て受け切ったことで剣術稽古はようやく攻撃を教わる段階に入る。
剣術スキルは「PV」を使わずにレベル3まで上昇していた。
手っ取り早く「PV」を使いたい気持ちもあったが、急にレベルを上げてブラックウッドに勘付かれると稽古を続けてもらえない気がして我慢した。
彼はなぜかスキルという概念をあまり信用していないようなのだ。
魔法に関しては簡単な魔法を使えるようになった。
それも三日に一回行われるテベス王子とカリーナ王女との勉強会のお陰だ。
魔法の概念は思っていた以上に科学的で、火の魔法では火の性質を理解することが魔法習得への道だった。
だから口頭での説明よりも魔導書と呼ばれる本を読む方が習得への近道なのだが、大抵は魔法学校から持ち出し厳禁であるため、覚えた魔法の数は少ない。
剣と魔法の習得は概ね順調だが、気がかりな点がある。
それは閲覧数(PV)があまり伸びていないということだ。
もちろん稽古や勉強することでもステータスやレベルは上昇する。
だが、せっかく手に入れた俺だけのユニークスキル「PV」を活かせてない。
ステータスやスキルのレベルを上げるための消費「PV」は漸進的に増えており、何かを特化させるのも難しい状況が続いている。
このままではサルマン家を打倒することなんてできはしないだろう。
順風満帆な生活だけでは閲覧数(PV)は伸びない。
俺のピンチや活躍が未だ見ぬ読者を獲得するのだ。
だから俺は新たな展開を求めて冒険者たちが集まるという集会所へと向かった。
話に聞くところによれば冒険者とはモンスターの討伐を主にした職業であり、ほとんどの場合はパーティと呼ばれる集団で活動する。
モンスターの討伐は国からの特別要請以外、商人を中心とした各依頼者を通じて行われ、その交渉の中心となるのが集会所なのだ。
王城から歩いて数十分のところに〈カーバンクル〉と呼ばれる集会所はあった。
そこは酒場のような雰囲気の二階建ての木造建築である。
集会所の壁にはたくさんの依頼書が貼り付けられており、その中でも一番目立つ場所にデカデカと貼られているのは「ドラゴンの討伐」と書かれた依頼書だ。
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【ドラゴンの討伐】
依頼者:テレンス伯
報酬:80000ゴールド
内容:〈クロウスの谷〉にて発見されたドラゴンの討伐並びに素材の持ち帰り。無傷な状態で頭部を持ち帰れば加えて30000ゴールドを支払う。
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本当にドラゴンはいるのか。
どんな姿をしているのだろう。
などと考えながらも半開きの扉を開くとそこには多くの人々が騒ぎわっていた。
だが冒険者らしき屈強な男たちの中に、見慣れた人影が見えた。
しかも二人同時に。
「あなた。マルク?」
「おいおい。話を逸らさないでくれよ。って本当にマルクじゃねぇか。なんでこんな所にいるんだよ」
カウンター席に座るエルフのイェフェンと、立っていても同じぐらいの高さの商人のヤグーがそこにいた。
ヤグーの隣には見慣れない東洋風の男がおどおどした様子で立っている。
「イェフェンさん。ヤグーさん。こんにちは」
「エルフの嬢ちゃんはイェフェンって言うのか」
「嬢ちゃんはやめて。恐らくあなたより年上よ」
イェフェンとヤグーは何やら口論をしていたようだった。
「少し逞しくなったわね」
ヤグーの事を無視してイェフェンは俺に微笑みかける。
「実は国王軍に入りまして。あんまり大声では言えないのですが」
周囲の冒険者たちは、エルフと親しげに話す俺を見て不審そうな目を向けている。
そこから俺たちはできるだけ人目につかないように集会所の端に移動して、なぜ王都へきたのかについて話すことになった。
まず俺はイェフェンに対して家出だと嘘をついていた事を詫びて本当の事を話した。
俺が絞首刑になったのを命からがら逃げ出したことについて、彼らは神妙な顔で聞いていた。
イェフェンは旅の途で王都へと訪れていた。少し前からエルフを他に多種族の受け入れを始めた王都へはすんなりと入ることができたのだと言う。そして宿泊費と旅の資金調達のために、この冒険者集会所で依頼を探していたらしい。イェフェンはエルフの中でも弓の名手なようで、モンスター討伐なら簡単だと考えたらしい。
そしてヤグーはもちろん商売のために王都へとやってきていた。持ち込んだ全ての商品は売り払ったが、ある男と出会いしばらく王都への滞在を決めたのだという。
「それがこの男、ハムラだ」
「ど、どうも。ハムラです」
ヤグーの隣でおどおどと様子を伺っていた男が名乗った。
「ハムラは東の国の技術者なんだ」
「ギジュツシャ?」
イェフェンが怪訝な顔でその響きを問い直す。
「あぁ。この国ではまだ発展していないが、ハムラは機械を作ってるんだ。なぁそうだろ?」
「まぁ。そうですね。一応は」
ヤグーに紹介されたハムラは自信がなさそうに答える。
「もしかして溶解炉とかを作ってるんですか?」
俺は東の国ではガラス細工ができるようになったという話を元に聞いてみた。
「えっ?!そうです。けどこの国の人たちはそういうに全然興味がなくて」
ハムラは一瞬顔を輝かせた後、再び言葉を弱らせる。
「まぁ色々あって俺がハムラの技術やら機械を売ってやろうってなったんだ」
「違います。あなたが勝手に私につきまとってくるんです。私はただ魔法と機械を組み合わせれば、もっと色んなものが作れると思っただけなのに」
「お前も被害者か」
イェフェンがハムラに同情する。
なんとなく話が分かってきた。ヤグーはハムラの技術が金になると目を付け、さらには珍しいエルフのイェフェンをこの集会所で見つけたという具合だろう。
「おいお前ら。まだいたのか。ここは俺たち冒険者の集会所だ。目障りだから消えな」
四人で話している所に2mはあるかという大男が突っかかってきた。
「ちょっと待てよ。冒険者の旦那。見てみなこの弩。これならモンスターだって簡単に討伐できるってもんだ」
ヤグーはハムラの持っていた荷物の中から50センチほどの弩を取り出した。
「なんだこれ」
大男は奇妙な顔をして、弩を持ち上げる。
「なんとこれ。指を引くだけで矢が放てる優れもの。まだ東の国にしかない貴重なものだ。今ならお試し価格の500ゴールド。気に入ったらみんなに勧めて欲しい」
「ふーん。どう使うんだ?」
そう言うと大男はヤグーから矢を強引にぶんどり、上に向かって放った。
天井に矢が刺さり、集会所に緊張が走る。
「冒険者を舐めんじゃねぇ。こんなのじゃドラゴンに傷一つ付けられねぇよ」
大男はあろうことか、弩をボキッと真っ二つに折ってその場に捨てた。
その瞬間、ハムラは悲しそうな表情を浮かべ、イェフェンは眉間に皺を寄せる。
「金だ。金払え」
去ろうとする大男をヤグーが引き止める。
「分かった。分かった。ほらよ」
大男は集会所の木床に金を投げ捨てる。
「拾ったら帰れよ」
ヤグーが金を拾い、ハムラが折れた弩を拾いあげると、集会所の中は静かな嘲笑に包まれた。
「子供もいるじゃねぇか。ここは遊び場じゃねぇんだよ」
「エルフの女も、お高くとまりやがって。せっかく声かけてやったってのに」
「変なもん売りつけようとしやがって。帰れ。帰れ」
直接ではないが、そんな声が沸々と聞こえてくる。
異種族のエルフと見慣れぬ技術者の男、色黒の商人に小さな俺。
モンスター討伐で腕を競う冒険者たちの集会所では、俺たちは明らかに場違いであった。
「やりましょう」
「何をやるんだよ」
「僕たちでドラゴンを討伐するんです」
俺の頭には秘策が浮かんでいた。




