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スキル「PV」は閲覧数に応じて強くなる  作者: ジブン
第一章 0〜1922 〜旅立ち〜
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第十話 1897

 朝、牢獄の天井から一筋の縄が放られた。


「登ってこい」


 俺は命令通りに縄を登った。


 久しぶりの光に眩しい目を開けると、俺の異様なステータスを警戒してか、3人の騎士と赤髪のヴァルターが俺を囲んでいた。


 騎士たちはすぐさま俺の手を縄で拘束する。


「大人しくしていたようだな」とヴァルターが言った。


 騎士たちはこの一晩で三度は牢獄の様子を確認しにきていた。


 そういう意味では壁を掘り進める脱出計画を変更してよかったと今更ながら思う。


 首吊り台のある城前の広場へと連れられる最中に俺はヴァルターは聞いた。


「村の人には、僕が処刑される事を伝えていますか?」

「伝えていない。伝えれば無駄な反乱がおこるかもしれないからな」


 処刑の話を聞きつけて、父ガリアたちが駆けつけることを危惧していた俺は安心した。 


「今から死ぬんだから、そんなことどうでもいいだろ?」

「そうですよね」  


 赤髪のヴァルターは広場に出る前に立ち止まる。


「気色の悪いガキだ」


 そう吐き捨てたヴァルターは手首の縄をグッと引っ張り、俺を広場へと連れ出した。


 広場には処刑を見るために既に多くの群衆がひしめいており、俺は好奇と憐れみの目に晒された。


 首吊り台は広場の真ん中に屹立しており、意外な事に俺以外にも既に二人が縄の前に立たされていた。


 一人は髪のボサボサな30代ほどの女性で、もう一人は小綺麗な格好をした恰幅の良い40代ほどの男性だ。


 俺は騎士たちに背中を押されながら木でできた首吊り台の階段を上がる。


 階段は俺のことを笑うかのようにミシミシと音を立てて軋む。


 思っていたより高い。


 シミュレーションは十分したつもりだが、怖いものは怖い。


 足の震えが止まらず、まるで身体が自分のものではない感覚がする。


 首吊り台の上には目の部分だけをくり抜いた黒いマスクをした処刑人が足場を落とすレバーを握りしめている。

 彼の落ち着いた様子は、まるで処刑が日常の一部になっているかのような雰囲気だ。


 俺は連れられるままに、既に縄の前にいる二人の間に立たされる。


 首吊り台に三人の罪人が揃うと、群衆たちはどよめきを大きくした。


 どうやら今回の公開処刑は真ん中に立たされる俺が目玉のようだ。


 俺のような子供みたいな若者すら、サルマン家に盾をつけば処刑される。


 見せしめとしては十分だし、残虐な娯楽を求める観客にとってはいいエンターテイメントとなるのだろう。


 近付いて分かったが、俺の左にいる女性はぶつぶつと聞き取れない呪文のように言葉を繰り返しており、右の男性は真っ青の顔でガチガチと歯を鳴らし、既に失禁しているようだ。


 俺の身長が思っていたより小さかったのか、黒いマスクの処刑人は気怠そうに木の台座を運び、俺の足元に置く。

 

 俺は処刑人に殴られる前に自らでその台座に登った。


 少し高くなった視点で改めて群衆を眺める。


 ニタニタと笑っているものもおれば、決して目を合わせまいと伏目がちに様子を伺っているものもいる。

 

 だが大抵は人は隣の人とひそひそ話をしている。


 彼らは首を吊られる俺たちを見て、生きている自分たちの小さな幸せを共有しているのだろう。


 そして次は自分かもしれないことを忘れるために、俺たちを極悪人へと仕立てあげて、自分たちの善良さを認め合うのだ。


「ここに、ランポス・マイルストン。マクノリアのマーシャ。ナザムのマルクの処刑を執行する」


 首吊り台の下から処刑を宣言する声がすると、群衆は息を呑むように静かになる。


「罪状。ランポス・マイルストン。外患罪。他国の貴族と交友し、我が領地に脅威を持ち込んだ」


 そこまで読み上げられると右の男は、急に大声を出し始めた。


「違う。私はただ弩を買い付けようとしただけだ。そもそも私はサルマン方伯様の指示に従って、良い武器を探していたのだ」


 処刑人はずかずかと男に近寄り、腹を殴ると口の中に汚い布を強引に突っ込んだ。


 うーうー、という言葉にならない唸りを上げる男は大量の汗をかき、失禁も相まって全身の服が濡れている。


「マクノリアのマーシャ。姦通罪。妻のある騎士を誘惑し、不貞を働いた」


 名前が呼ばれた左の女性は、一層早口に呪文のような言葉を繰り返す。

 

 何を言っているかは分からないが、恐らく彼女も処刑されるほどの罪はないはずだ。


 不貞を働いたなら、騎士もまた罪に問われるべきなのに、ここに立っているのが彼女だけだけなのはおかしい。


「ナザムのマルク。隠匿罪。自身のステータスを故意に隠蔽し、反乱を喚起する活動をした」 

 

 俺の行動のどこに反乱を喚起するものがあったのか。

 だがそれを主張しようにも隣の男の二の舞になるだけだろう。

 サルマン家の異常さはもう既に嫌という程に実感している。 


 罪状が読み上げられたことを確認した処刑人は、隣の男の方へと近づき彼の首に縄をかける。


 男は何やら抵抗をしているようだが処刑人によって首を捕まれ、解けないように強く縄は締められる。  


 次は俺だ。


 俺は気づかれないように少しだけ首を「硬化」させた。


 今の俺の「硬化」スキルレベルは7だ。全身どこでも30分ほどは「硬化」できるようにはなった。 


 処刑人は俺の首根っこをむんずと掴み、強引に縄にかける。


 キュッキュッと荒縄が俺の小さく細い首を締め付ける。


 若干呼吸はし辛いが、「硬化」のお陰で気道は確保できた。 


 俺に次いで左の女性にも縄がかけられると、処刑人は定位置に戻ってレバーを握る。


 俺は既に首を強く「硬化」させて準備をしていた。

 牢獄の中で何度もした練習を反芻する。


 まずは落下した時の衝動に備えて、首と周辺をできるだけを強く「硬化」する。

 その後は首だけを「硬化」して、それでいて中の気道は詰まらないように適度な柔らかさを保つ。そして最後は「運」に身をまかせる。


「正義とサン=ロレール・サルマン様の名のもとに、罪人たちを処刑する」


 処刑人がレバーを引くと足場の板がガコッと開き、俺の身体はそのまま一直線に落下した。


 俺の乗っていた木の台座がガコンと音を立てて落ちるが、俺の身体は首の縄だけを頼りに宙に放り出された。


 首への衝撃はかなりのものだったが、意識はある。

 しかし、首への衝撃より凄まじかったのは、両隣の反応だ。


 右の男はその体重のせいか首の骨が折れたようで、ビクンビクンと身体を痙攣させて泡を吹いている。既に意識を失っているが、白目を向いた眼球は今にもとび出しそうだ。


 左の女はグギギという人間とは思えない声を出しながら、首の縄に必死に手をかけている。爪が深く食い込んだ首からは血が流れ出し、足は空を走るかのように激しくバタついている。


 両隣で起こっている凄惨な死の瞬間に、俺は冷静さを失いそうになったが、「硬化」するイメージだけは途切れさせなかった。


 縄が軋む音の中で、群衆たちが悲鳴か歓声か分からない声をあげているのが分かる。


 死ぬ真似をしなくては。


 どれほど時間が経ってしまったかは分からないが、俺は隣の女の真似をして暴れ出した。

 

 首を硬化しながら、死ぬ演技をするのは難しかっが、それでも俺は必死に演技し続けた。


 しばらくの時が経ったと思う。


 右の男は既に力なく身体をもたげ、ポタポタと血や汗や糞尿の混じった液体を垂らしている。


 左の女は動きこそ弱まったが、まだ手を縄にかけて抵抗しているようだ。

 

 長い。


 徐々に呼吸が辛くなってきた。


 酸素不足のせいか「硬化」も弱まっていく気がする。


 焦ってはいけないと頭では分かってはいても、苦しさや死の恐怖が群がる蟻のように頭を支配していく。


 あぁ。ヤバい。


 やっぱり思い出してしまった。


 前世において首吊り自殺をしたあの瞬間が鮮明に蘇る。


 この異世界に転生してから、記憶に蓋をしていた最期の瞬間。 


 暗い部屋で、さらに視界が暗くなっていくあの瞬間。


 椅子から転げ落ちた時から後悔と苦しみが始まり、それが次第に身体を焼き尽くすような痛みに変わる瞬間。


 もう俺の頭には「硬化」するイメージなど消えてなくなり、本当の苦しみが始まった。


 息ができない。

 

 苦しい。


 死にたくない。


 突然俺が息を吹き返したように暴れ始めたことに、群衆たちはどっと声をあげる。


 イヤだ。


 また死ぬのか。


 与えられた力も活かせずに死ぬのか。

 

 ガリア。マーサ。アリア。ベンソン。ドルビン。ヤグー。


 マルク…ごめん。



 「死ぬな」

 


 死に触れた瞬間、俺の名を呼ぶマルクの声が聞こえた。


 マルクの声は俺の声でもあるはずだが、間違いなくマルクの声だと分かる。


 そうだ。


 俺は生きて、マルクにこの身体を返さなくてはならない。


 マルクの声のお陰で意識を取り戻した俺は再び首を「硬化」する。


 苦しい演技は続けつつも、頭は冷静に鉄になった首をイメージする。


 いつの間にか左の女も縄を揺らしながら力なくブランと垂れ下がっている。


 そろそろ俺も死ななくては。


 俺はゆっくりと暴れるのを抑えて、手足を力なく伸ばす。


 死んだ記憶を思い出し、今度は冷静にそれをなぞる。


 生きるために、死んだ経験を生かすのだ。 


 呼吸も最低限に抑えて、微かに通じている気道にわずかな空気だけを流し込む。


 口からよだれを垂らし、目は半目にする。


 首以外の感覚が失われていき、なんだか気持ちよくなってきた。


 あの時も最期はそうだった気がする。


「降ろせ」


 微かな聴覚がその言葉を捉えた。


 縄はゆっくりと引き下ろされ、ようやく俺の身体は石床の冷たさを感じた。

   

 後は問題なく死体置き場へと運ばれるだけだ。


 俺は「硬化」を解いて、できるだけ息を抑えて死んだ真似を続ける。


「お前たち、これをさっさと死体置き場へ運べ」


 赤髪のヴァルターの声が聞こえた。


「ちょっと待て」


 安心したのも束の間、何者かの声がヴァルターを静止する。


「なんだ。ダグラス」


「昔、運よく首吊りで生き残った奴がいる。また捕まえて俺様が可愛がってやったがな。ドクター。こいつらが本当に死んでいるか確認しろ」


 想定外の事が起こり、俺の心臓は唸るほど鼓動を強くし始めた。

 もし心音などを確認されれば間違いなく生きていると判断されてしまう。


「死んでいます」


 隣に伏している男の事を確認したと思しきドクターの声が聞こえる。


 どうする。

 必死に考えるが何も思い浮かばない。


 一時的に呼吸は止められるが、心臓の鼓動や脈を確認されれば一発でバレてしまう。


 ドクターの足音が着実にこちらに向かう。


 俺は息を止めて待つ。

 できるのは祈ることだけだ。

 

 ドクターは俺の身体を掴んで仰向けにすると、口元に耳を近づける。

 呼吸をしていない事を確認したドクターは、次に俺の胸に耳を当てる。

 

 終わった。俺は身動きも取れないまま絶望した。


 ドクターは俺の心臓が動いている事に気づいたのかビクッと振動する。


 ドクンドクンドクン、という俺のすばやい心音に耳を傾けていたドクターはなぜか再び俺の口元に顔を近付ける。


「動くな。なぜ生きている?」


 耳元でドクターの掠れた声が聞こえた。


「生きたい」


 俺は口を動かさず、ほとんど空気を吐くだけの声で、答えにもならない願いを伝えた。


「もう死ぬなよ」


 ドクターは俺の耳元に小さくそう言うとダグラスたちに向かって「死んでいます」と宣言した。


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