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named L  作者: はぜ道ほむら
第一章 再誕する竜のアシンメトリ
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卓越した剣技

 


 落鳥樹の森は大木が広い間隔で立ち並び、暗いが視界は開けているため索敵を行いやすい。エルリンデはランタンは持たず、暗闇に目を慣れさせて探索している。

 夜目は冒険者の必須技能である。光源は探索において重要な役割を持つが、敵に自分の居場所を知らせてしまうことがある。そのため、状況によってはランタンを使わずに、夜目に頼った方が良いこともあるのだ。


「ギャギヤア!」

「ギギャ!」

「グギギッ」

 姦しい濁り声がエルリンデの耳に入る。明らかに人間のものではない。卑しく耳障りな声音は、冒険者になる前から聞いてきたものだ。複数で会話をしているのだろうか、人間とは異なる原始的な言語が飛び交う。


小鬼(ゴブリン)が三匹。通常種だね」

『手早く殺れ。そして調査において戻ろう』

「そうだね」


 小鬼(ゴブリン)__一般に緑の皮膚をした短身手長の怪物として知られる。顔は不細工に歪んだ人間の子どものようで醜く、モンスターの中でも特に嫌われている。過酷な環境では肌の色や行動などが変わり、様々な環境に適応している。そのため冒険者は何処に行っても大体ゴブリンに遭遇する。

 彼らの特筆すべき生態として増殖速度が挙げられる。いくら駆除しても、小鬼(ゴブリン)が減ることはない。幸いなことに彼らはそれほど強いわけではなく、初々しい冒険者や腕っぷしに自信がある農民であれば討伐できる程度だ。

 小鬼(ゴブリン)の増加は住民に危険に晒してしまうため、ギルドでは彼らの親指に報酬を設けており、討伐が推奨されている。だが、金級の二人にとっては大した金額でもなく、素材としても粗末だ。小鬼(ゴブリン)は唯々面倒なだけの敵である。


 エルリンデは音を立てずに走り出し、木を縫うように彼らの死角に回り込む。そこから奇襲を仕掛けた。


「___ふっ」

「ゴッ」

 静かに近づき三匹の内の一匹、最後方を歩いていた個体の首を、両手で持った白磁の剣で両断する。最小限の音で絶命させた小鬼(ゴブリン)の頭部が飛んでいく。

「_っ」

「グギィッ!」

 続けて二匹目。一匹目が倒れる間もなくエルリンデは小鬼(ゴブリン)の間合いに踏み込み、同様に首に向かって剣を振るう。一度目とは違って下斜めの軌道を描いた白磁の剣は首の根元を裂き、そのまま小鬼(ゴブリン)の左腋を抜ける。彼の左手が吹き飛び、頭は身体と繋がったままだ。一刀で即殺しきれなかった為、その口からは悲鳴が漏れてしまった。


 最後の小鬼(ゴブリン)は、二匹目の悲鳴を聞いて異変に気付く。驚いて振り向くと、既に白磁の刃が首めがけて迫ってきていた。

「グギャァ!」

「無駄っ!」

 咄嗟に長く太い両手で急所を守る小鬼(ゴブリン)。その行動は死までの時間を延ばしただけだ。エルリンデはそのまま振り抜き、両腕を吹き飛ばす。狙った首元には届かなかったが、致命傷には変わりない。


『終わったか?』

「うん、ちょうど」

「グ、グギッ」


 クラリスに返事をしながら、瀕死の小鬼(ゴブリン)にとどめを刺す。呻くそれを足で踏み押さえ、剣を首に当て横に振る。首が刎ね飛び、最後のゴブリンは絶命した。

 エルリンデは赤い血の付いた刀身を粗布で拭い、腰の鞘に納める。


小鬼(ゴブリン)の死体…いる?」

『ううむ……要らないな。小鬼(ゴブリン)がこの異変に関わっているとは考えにくいだろう。今はまだいい、他に収穫が無かったら持ち帰るとしようか』

 奴らは何処にでもいる。陸地であれば、沼地や孤島の過酷な環境でも生存しうるのだ。この森に居るのも、死骸が沢山あって食事に困らないから等の理由だろう。




 森の奥に奥に進んでいくと、エルリンデは木が少しずつ太くなっているのに気づく。


「木が森の浅い場所よりも太くなってる」

『着実に森の中心に向かっている証拠だろう。落鳥樹の森が一点から円状に広がってきたとするならば、中心に向かうほど木が成長しているのは道理だな』

「そして、その中心を調べると」

『ああ、何があるのか…楽しみだ』


 研究者特有の知的欲求を感じさせる興奮し浮ついた声を片耳で聞きながら、周囲を警戒していたエルリンデはずっと疑問に思っていたことを聞く。


「この森でアンデッドが出ないの不自然じゃない?」

『確かにそうだ、逆に何故アンデッド化していない?そこら中に死骸があるのに……』

 アンデッド化現象__死体が意思を持ち動き出す恐怖の現象は、放置された死体が何かしらの力を帯びることで生まれるとされる。生まれたアンデッドは力尽きるまで歩き回り、生者を襲い続ける。

 そのため、一般に死体は火葬することになっており、冒険者もモンスターの死体は、都市や街道に近いところであれば何らかの手段で処理することになっているのだ。

 エルリンデは当然、この森に入ってから特にアンデッドを警戒していたのだが、一向に現れる気配がない。そこら中に鳥の死骸が転がっているこの落鳥樹の森で、アンデッドが出現しない方が不自然だ。


『確かに不自然だな。ふむ、落鳥樹が悪さをしているのかもしれん。調べてみる価値はありそうだ』

「今やる?」

『いや、今日は出来るだけ奥へ進もう。もう陽が傾き始めているが、今日の夜はこっちに戻るか?』

「うん?そう、もう夜なの……戻るよ、夜の森は危険だからね」

 エルリンデは、クラリスに言われることで既に夕暮れであることに気づく。この森は落鳥樹の太く絡まった枝が屋根のようになっており陽が差さないため、エルリンデは時間の変化に気づかなかった。森に踏み入った時は昼であったので、およそ六時間ほど経過したようだ。


「今から帰還するよ」

 取り敢えず、今日の所は終いにしよう。



小鬼:緑の皮膚を持つ、人間の子どものような背丈の化物。下級のモンスターであり、探索者になりたての人間でも、簡単に倒すことが出来るだろう。厄介なのは繁殖速度と環境への適応力で、大陸の至る所で5~10程度の村のような集団を形成している。小鬼の駆除ができれば一応、探索者として食っていける。


ブックマーク、評価、感想など宜しくお願い致します。私は狂喜乱舞します。

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