行商馬車の到着
行商馬車の到着
ナターリヤの義弟にあたるロシオンの行商馬車が、数日後に到着した。イグナートは到着の知らせを聞くやいなや、急ぎ取るものも取り敢えず、ロシオンのもとへ駆けつけた。彼は、イグナートと若年のころに冒険行を共にした、刎頸の友だった。重大な相談事がある旨を伝え夜半に館に来るように依頼し、そそくさと物品の交易の仕事にとりかかった。
その夜の館の小部屋にて。
「兄者、お元気と拝察します。姉上も息災でなによりですが、なにやら訳ありのようで。」
「おまえも息災なりよりだね、お前さんもずいぶん商売繁盛なことだな。
さて、今から話す内容は、他言無用。漏れれば一族の存亡にかかわる最重要機密事項で、慎重かつデリケートな問題にもかかわらず、ナターリヤは、感情に任せて養育すると決め込んいる・・・・・。」とため息無交じりでイグナートは、クラシコフ11世の13男のレミ・クラシコフを匿っている経緯を包み隠さず話し始めた。
「わしは帝都のことについては全く不案内なので、御子に関わる情報を少し話してはくれまいか。」
「承知した、兄者。
「かいつまんで話すと、夜叉妃と異名をとるクラシコフ11世の太皇太后であエレオノーラ・クラシコフ派、宰相のザハーロヴィチ・リトヴィノフ公爵を中心とした一派、焼き殺されたミロン侯爵の長男のドナートの下参集しつつある復讐派、様子見に徹している日和見貴族と、四五分裂にある。
「ミロン侯爵とともに御子は焼死したものと大半はみており、どの派閥も御子など眼中にはない。」
「そうか、御子に差し迫った危険はないのか。ふむ」
「で・・・。」
「一回りした帰路に、もう一度寄ってくれないか。それまでに断を下すので、頼みたいことができるやもしれぬのでな。」
「承知した。」