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6年間の片想い

作者: taktoto

「ずっと…好きでした。」


「ごめんなさい。」


このやりとりも既に二回目になる。佐川優斗(さがわゆうと)は二度目の失恋を味わった。

高校最後の卒業式、雪が降りしきる中で偶然彼女と話す切っ掛けが出来た。

これが最初で最後の恋になる予感がした。


6年前の4月8日、優斗は中学生へと進級した。

不安と期待に胸を膨らませ、自分の教室へと向かう。


―1年3組


これが優斗の学級だ。教室内は騒然としており、誰もが新しいこれからの生活に

胸を躍らせていた。

そんな中、一際目に入ったのが友達と明るく振舞う徳永美由紀(とくながみゆき)の姿。

これが優斗と美由紀の出会いだった。


新しいクラスでは自己紹介を行うのが定番で、優斗の順番が回ってきた。

無難に紹介を済ませ、席に戻った。


「全然アピール出来てねぇ…」


ボソリと呟く優斗、何時の間にか順番は美由紀の番になっていた。

優斗に緊張が走る。どうやら一目惚れしたらしい。


徳永美由紀(とくながみゆき)です。宜しくお願いします。」


男子がざわめいた。どうやら彼女のポジションはこれで決まったらしい。

クラスのアイドル的存在として。


「俺には高嶺の花だな…。」


優斗の中では既に負け戦の雰囲気が流れていた。

結局何も話せないまま、一年間はあっと言う間に過ぎた。


中学二年になると、クラスは別々になった。

退屈な一年になりそうな予感がしたが、何かあるかもしれない。


そんな期待を寄せたが、案の定何も無く一年は過ぎた。


中学三年になった。同じクラスになった優斗と美由紀。

どんな一年を過ごすのだろうか。


「このままじゃ…」


優斗は焦っていた。年を重ねるごとに綺麗になっていく美由紀と、

何も変わらない自分。


その違いにジレンマを抱き、何とかしようと必死に考えた。

そうこうしている間に、中体連が迫っていた。


美由紀はバレー部に所属していて、エースとして活躍している。

一方の優斗は帰宅部で特に何もしていない。


そんなある日の帰り道、自転車で帰るいつもの道。

自動販売機の前に美由紀が居た。


「やべぇ…話しかけようかな…でもな…」


葛藤している間にも、美由紀との距離は縮まってくる。

3メートル、2メートル…

優斗の心臓は張り裂けそうな程高鳴っていた。


突如名案が閃く。


「あ〜喉乾いた!!」


さも自然に自動販売機へ行く流れを作りたい様で、

わざと聞こえる様に大きな声を出していた。


美由紀は優斗をチラッと見たが、直ぐに視線を戻した。


優斗は自動販売機で適当に飲み物を買い、

思い切って美由紀に話しかけた。


「と…徳永さんも何か飲む?」


突然話しかけて来た優斗に、美由紀は少々驚きを見せたが、

笑顔で優斗の提案に応じた。


「有難う。じゃあ、オレンジジュースいいかな?」


美由紀の反応が嬉しかったのか、優斗は少しはしゃぎつつ

オレンジジュースを購入する。


「どうぞ…。」


緊張で手が震えながらも、精一杯悟られない様に手渡した。


「有難う。お金は?」


財布を出して払おうとする美由紀だが、優斗は首を大きく振り


「いらないいらない!!奢りだから!」


そんな優斗の反応が面白かったのか、クスクス笑いながら美由紀は

もう一度お礼を言った。


二人並んでジュースを飲む。

会話が無い。


何か話さなければと話題を探すが見当たらず、

二人の間には沈黙が流れていた。


―気まずい…。


しかし、この絶好のチャンスを逃す訳にはいかない。

優斗は部活について聞いてみる事にした。


「部活…調子どう?県大会いけそう?」


美由紀は少し考えながら、笑顔で答えた。


「調子いいよ!県大会行けるかも。」


嬉しそうに話す美由紀の姿に、胸が苦しくなる。

傍にいるだけでドキドキが止まらない。


「そうなんだ。頑張ってね。応援行くから。」


優斗はさり気なく見に行く事を言葉に混ぜた。


「うん!応援してね!」


美由紀の笑顔が眩しい…

優斗はその場にいられない程緊張していた。


その反面、このまま話していたい。

そんな感情も有った。


「じゃあ、先帰るね!バイバイ」


美由紀は自転車に乗って走りだした。

同じ方向なのだから、一緒に帰れば良かったと

優斗は激しく後悔していた。


一ヶ月後、中体連が始まった。

約束通り応援に行くことにした。

優斗は精一杯応援しようと心に決めていた。


一回戦、二回戦と順調に勝ち進んで行く。

次は準決勝だが、どうにもチームが騒がしい。


どうやら美由紀がケガをしていた様で、

試合に出られるかは微妙な状態らしい。


結果、美由紀が試合に出る事は無かった。

エースを欠いたチームはボロボロに負けた。


優斗は掛ける言葉が見つからず、

一人試合会場を後にした。


なんとなく気になって、バスを途中で降りた。

別に誰もいないのだけれど、自動販売機によりかかり

ボーっとしていた。


突然声を掛けられた。


「佐川君…?」


美由紀だった。優斗は緊張の面持ちで振り返ると

美由紀の目は真っ赤になっていた。


どうやら泣いていた様で、優斗はまたしても掛ける言葉が見つからなかった。

美由紀は必死に笑顔を作り、泣いていた事を悟られまいとしていたが、

その姿が余計に優斗の胸を締め付けた。


「今度さ…」


優斗がポツリと呟いた。


「…?」


美由紀は聞き取れなかったのか、不思議そうに優斗を見た。

優斗はそのまま言葉を続けた。


「今度さ…どっか行こうよ。気晴らしにさ。」


顔を真っ赤にしながら言う優斗の姿に、釣られて美由紀も頬を染めた。


「いいよ…。」


まさかOKして貰えるとは思っておらず、優斗は小さくガッツポーズをした。

初めてのデート…優斗の頭の中はそれで一杯になった。


「じゃあ、連絡するから…携帯教えてくれない?」


出会ってから三年、ようやく連絡先をゲットした優斗。

デートの日取りは一週間後の日曜日に決まった。


思えばこの時が最高に幸せだったのかもしれない。

デートの日は刻一刻と迫っていた。


いよいよデート当日。精一杯のオシャレをして優斗は街に出る。

予定より三十分早いが、待つ時間も楽しみの内だろう。


待ち合わせ場所に着くと、既に美由紀の姿があった。

シンプルなスカートには水色のTシャツ。


派手ではないが、清楚で美由紀のイメージはぴったりであった。

二人で映画を見て、食事をして、公園を散歩して…


中学生らしいデートをした。美由紀と別れると

どうしようも無く美由紀に会いたくなる。


優斗はこのまま付き合えたら…そう思い始めていた。

初デートを終えて、優斗と美由紀は二人で出掛ける事が増えた。


買い物に行ったり、ゲーセンに行ったり。

楽しい月日はあっと言う間に過ぎた。


冬が来て、進路をそろそろ決める時期になった。

美由紀と同じ学校に行きたくて、友達からあれこれ情報を仕入れた。


未だ優斗は告白できずにいた。

お互い受験で忙しくなり、二人で遊ぶ時間は減っていった。


「受験が終わるまでの辛抱だ。」


優斗はそう自分に言い聞かせ、受験に向けて勉強する。

美由紀も塾に通い出し、本格的に会う機会は無くなった。


受験の日も間近に迫り、教室内はピリピリしたムードで

美由紀にも話し掛け辛い雰囲気であった。


受験日当日、K高校の受験に向かう。

同級生で同じ高校を受験する人も多く、

当日になるとさすがに皆落ち着いていた。


美由紀もその中に居たが、話しかける事は出来なかった。


受験も無事に終わり、あとは卒業を待つのみとなった。

卒業式の練習と、受験が終わった解放感でにわかに活気づく校内。


優斗は美由紀と話すきっかけが無く、メールを送る事にした。


「もうすぐ卒業だね。その前にどこか遊びに行かない?」


当然OKが来る…。そう思っていた。しかし、返事の内容は逆だった。


「ごめんなさい。友達と予定が有って行けません。」


少しショックだったが、予定があるのならしょうがない。

優斗は卒業式を待つ事にした。


卒業式に告白して、高校へは一緒に通いたい。

そう思ったからだ。


卒業式が近づくにつれ、校内は慌ただしさを増して行く。

校内ではちらほらとカップルの姿が見られだした。


いよいよ卒業式当日。

卒業証書授与、花束贈呈…淡々と卒業式は終わりに近づいて行く。


教室に戻ると、泣きだす者や写真を取り出す者が増えだし、

いよいよ終わりが近づいて来た。


担任の最後の言葉が終わり

クラスメイトはそれぞれ、思い思いの場所へと向かう。


優斗もまた、美由紀のもとへ向かうべく

校舎を後にした。


美由紀の帰る道で、一人美由紀を待ち続ける。

一時間ほど経つと、友達と帰る美由紀の姿があった。


「徳永さん!!」


優斗は精一杯の声で呼びかけた。

美由紀は立ち止まると、友達に先に帰る様に促し、こちらへと向かった。


「佐川君。こんな所で何してるの?」


美由紀が笑顔で問いかける。久しぶりに美由紀の笑顔を間近で見た優斗は

思い切って自分の気持ちを伝える事にした。


「徳永さん…俺…好きです。君の事が。」


美由紀は驚いた表情を見せた後、静かにうつむいた。

そしてゆっくりと口を開いた。


「ごめんなさい…。付き合えない。」


思いがけない美由紀の言葉に、優斗は問い詰める。


「何で!?俺の事嫌いなの?」


美由紀は小さく首を振った。そして申し訳なさそうに言葉を続けた。


「塾に通っている時、付き合いだした人がいるから…。」


そう言うと、美由紀はその場を一人後にした。

残された優斗は呆然と空を眺めていた。

初めての失恋は優斗に重くのしかかり、涙を誘った。


立ち直るのに一月費やした。


高校生になった。幸か不幸か、美由紀とは学科が違い

お互いが校内で遭遇する事はまれになった。


気まずさが優斗の高校生活を退屈な物へと変化させた。


高校一年の冬、友達に紹介された女の子と付き合い始めた。

だが、一ヶ月で終わった。


その後も彼女は作るが長続きはせず、あっと言う間に

三年の月日は過ぎて行く。


高校ももう卒業だ。


優斗は大学へと進学が決まっており、残りの高校生活を

遊びに費やしていた。


美由紀は就職が決まっており。彼氏とも上手くいっている様だ。

お互いが完全に別々の道を歩んでいく。


優斗はこのまま静かに卒業を迎えるつもりだった。


卒業式の日は雪だった。

足元には7センチ程の雪が積もっており、

通学へは送迎を余儀なくされた。


母親に送ってもらう通学路。

その通り道、バスを待つ美由紀の姿があった。


雪に降られ寒そうな美由紀を、母親が気を使い

一緒に送って行くと言い出した。


美由紀は断りきれずに僕と同じ車に乗り込んだ。

会話も無く、学校の手前のコンビニで降ろされた。


二人で歩く最後の通学路。予想外な展開にお互い戸惑っていた。

どうせ最後なら…と、優斗が話しかけた。


「久しぶりに二人で歩くよね。」


「…うん。」


気まずさは残るが無視はされていない。

自分の気持ちにケリをつける為に、優斗は想いを又伝える。


「知ってる?俺…まだ美由紀が好きだよ。」


名前で呼ばれ、美由紀は少し照れた。優斗は構わず続ける。


「美由紀はどう思ってた?俺のこと。」


美由紀は立ち止まると、こちらをジッと見つめながら

答えを口にした。


「…好きだった。本当は今も…。」


その答えを聞き、胸のモヤモヤが晴れた優斗は

言葉を続けようとする美由紀を制した。


「もう…遅かったね。俺達。」


小さく頷く美由紀。静かな沈黙の間には周りの喧騒も入らず

ただ…学校のチャイムだけが終わりを告げる様に鳴り響いていた。


「最後にもう一度言わせて。」


美由紀は再度小さく頷く。


「ずっと…好きでした。」


美由紀は笑顔で答えた。


「…ごめんなさい。」


二人で小さく笑い合い、お互いにさようならを告げた。


三年後、他の誰かと街を歩く美由紀の姿を見た。

優斗も違う誰かと街を歩く。


お互いの距離は近くなったけど

もう会う事はないのだろう。


6年間の片思いは、あの卒業式に雪と共に溶けてなくなった。

淡い思い出を育て、新しい季節へと移り変わりながら…。


恋愛物って難しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] うううう。もどかしい。っていうのは、読者の視点だからなんですよね…。それは分かるんですけど。こうやって、すれ違っていく、想い合ってる二人を見るのはとてもつらいです。 それが、リアルでもありが…
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