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【第一部完】セレニウス -銀月の竜-  作者: Kazma8910
第一部 竜と運び屋

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41 脱出②

 早朝のベニゼロス城を包囲する銃兵大隊は、神経質なまでに城内の様子を探っていた。

「皇太子が城を出る気配はないのか?」

 怒鳴り散らす大隊長を前に、銃兵たちは多少辟易していた。

「城の出入口は全て押さえています。我々の監視を逃れるのは不可能です」

 答える銃兵に大隊長は頷いた。ベニゼロス城の用途は要人の幽閉だ。攻め入るには強固な城壁と三重の堀を突破しなければならない。それはそのまま囚人の脱走を妨げることにもなる。見張りの兵が報告した。


「荷馬車が一台接近します。それから運び屋の翼竜も」

 城門前で双方を検問したが、城内の者に必要な食料物資を運んできただけだと判明した。

「よし、通れ」

 横柄な態度で馬車と翼竜を城に入れ、銃兵隊は引き続き監視体制に入った。

 やがて荷馬車が出てきた。先ほどと同じ男が御者台に座ってるのを確認し、銃兵隊はそれを通した。大隊長は、馬車の荷台に掛けた布が膨らんでいるのに気づいた。

「止めろ! 荷台を調べろ」


 銃兵が緊張した表情で布をめくり上げる。彼らが覗き込むと、布の下には野菜や果物の籠があった。

「朝市で売るやつですよ」

 御者がのんびりと説明すると、銃兵隊は拍子抜けした顔で通した。一人が城内から飛び立つ翼竜を見つけた。

「運び屋が戻っていきます。乗ってるのは一人で荷物も提げていません」

「なら、放っておけ」

 忌々しげに大隊長は吐き捨てた。

「見張りを続けろ。皇太子をここで足止めするのが我々の使命だ。失敗すればどうなるか分かってるだろうな」

 銃兵たちは再び、陰気な城を取り囲んだ。



 『運び屋の翼竜』が東へと飛び立っていく。テオドシウスとスタファノス、二人の竜騎兵がそれを真剣な面持ちで見送った。

「よし、奴らは気づいてないな」

 安堵した様子でテオが風ツバメの用意を始めた。ファノはあまり楽観していないようだった。

「大丈夫ですか、陛下が一人で翼竜を飛ばせるなど」


 今、厨房では運び屋の男が寝こけている。単独で翼竜に乗り城から脱出したのはアーケイディウス本人だった。

「陛下は最近随分と乗馬に力を入れてきたからな。足腰の筋肉も付いてきたはずだ」

「しかし、翼竜では勝手が違う。長距離は無理です」

「だから、こうやってあちこちに根回しするんだろうが」


 城の風ツバメに伝文管を着けさせ、二人は鳥を放った。竜学舎へ、帝都へ、そして協力者へ。彼らは仕事を終えると旅装で馬に乗り、ベニゼロス城を後にした。

「竜騎兵二人が出て行きます。不審な荷物はありません」

 監視役が報告し、大隊長は鼻で笑った。

「ふん、おおかた煌宮のご老人に泣きつくつもりだろう」

 あざ笑う銃兵たちに目もくれず、テオドシウスとスタファノスは帝都を目指した。



 プテロを休ませるための休憩を取った時、テスは見晴らしの良い岩によじ登り、周囲の山の形と持ち出した地図とを照合させた。

「うん、ちゃんと山脈の祈祷所方面に来てる」

 細かな修正を脳内で加え、地図を上着にしまった。運び屋特有の能力は地図を立体化して飛行路を割り出すことだ。相棒が体力を回復したのを確認し、彼女は翼竜の背に乗った。

「さあ、もう少し頑張ってね」

 山間の上昇気流を捉え、プテロは浮上した。



 日暮れ前に最初の祈祷所を見つけ出せたのに、どうやら空振りに終わりそうだった。

 何もないただの洞窟を見回し、テスは落胆の溜め息を押さえられなかった。

「最初からそんなに上手くいくはずないか…」

 頭を一振りすると、少し伸びた灰色のもつれ毛が目の上に落ちてきた。

「切っとけば良かった」

 ぼやきながらも、運び屋の少女は次の目的地への飛行経路を計算し始めた。

「今から無理しても日が暮れるし、休めるとこを探した方がいいか」


 上空の空模様で天候を見ようとした時、空に不自然な雲があるのに気づいた。

「…何だろ、竜巻?」

 晴れた空の中、黒く渦巻く雲の塊が浮かんでいる。気流が周囲を取り巻き、所々で稲光が見えた。

「あんなの見たことない。もしかして…」

 テスは決意した。竜笛を吹き、ビーチャを雲の中へと誘導する。プテロは多少戸惑ったようだが、重ねて吹くと覚悟を決めたように巨大な黒い塊に突入した。気流の激しさは予想以上で、テスは相棒の背中から振り落とされないようにするのが精一杯だった。

「頑張って、ビーチャ」


 幾度も振り払われるようにして雲の塊から離脱を余儀なくされたが、段々と気流の方向が読めてきた。

「ビーチャ、真下から行くよ!」

 竜笛が強く吹かれ、翼竜は斜めに滑るようにして雲の下へと滑空した。そこは気流が内部へと吸い込まれる箇所だった。大きく息を吸い込み、テスは翼竜の背で身を伏せた。プテロと少女は恐ろしい勢いで雲の中へと突入した。

 ぐるぐると回転しながらの急上昇に目が回りそうになった時、不意に気流がやんだ。黒い雲の中に、底光りのする大きな鱗が見えた。テスを乗せたプテロはそれに接近した。


 黒い鱗と金色の鬣。長大な胴体に深紅の枝分かれした角。細長い光彩を持つ金色の目がこちらに向けられた。実にひと月近くも消息が分からなかった月の竜、セレニウスがそこにいた。

『……何だ、お嬢か』

 頭に響く声も久しぶりだった。

「何だじゃないわよ、どこ行ってたの?」

『ヤボ用だよ』

 答える竜の声は、酷く疲れているように聞こえた。テスは最大の疑問を口にした。

「帝国は大騒ぎよ、東の国境守備隊が襲われたって。しかも犯人は竜だって言われてるんだから。まさか、あんたじゃないでしょ?」

 とぐろを巻くように胴体を丸め、やや捨て鉢にセレニウスは答えた。

『俺を見たってんなら、そうかもしれねえな』

 テスは息を呑んで自分が呼びだした月の竜を見つめた。

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