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幽閉

 〈幽閉〉


 地下城セントクライス城の外れには、窓のない塔が建っている。その塔は内側の壁を螺旋状に登る階段が続き、最上階以外に部屋はない。その階段を黒尽くめの衣装を纏った男性が登っていた。

 男性の双眸は黒い澄んだ光を湛え、綺麗な眉には意志の強さを感じさせる。細身ではあるが、身のこなしは軽やかで足取りにも淀みはない。

 長い階段を登り詰めて、彼は扉の前に辿り着いた。軽く扉を叩いてから、ゆっくりと扉を開く。

「ルー、変わりはないか?」

「長様、何用でしょうか?」

 部屋の中には銀髪の女性が椅子に腰掛けていた。彼女の瑠璃色の瞳が室内に入って来た男性を優しい眼差しで迎える。だがすぐに哀しみの色を帯びた。

「ここは長様が来られるところではありません」

「そう言うな。久しぶりに会えたのだ、これまでのことを聞かせてくれ」

 妹の向かい側に腰掛けるが、彼女は口を閉ざして話そうとしない。その態度は頑なだった。

「ルー、私はずっとお前を……」

「お止め下さい。わたくしは既に死んだ者なのです。どうか、お忘れ下さい。許して下さい」

 ルーディリートの答えは常にこうだった。ファルティマーナの葬儀の前日に戻って来た彼女は、その場でソフィアに捕らえられ、この塔に閉じ込められている。

「長様には、あの人がいるでしょう?」

「エリスのことか?」

 妹はこれまでと違う話題を振って来たので、彼は正妻のソフィアの座に収まっている女性の名を出した。しかし彼女は首を横に振る。

「私が先見の巫女であるのを、お忘れですか?」

 彼女の言葉に、兄の顔色が変わる。ルーディリートは更に言葉を重ねた。

「夫婦の契りを交わしたようですね」

 ポツリと呟くように放たれた言葉に、兄は驚愕して絶句している。

「私を忘れて頂いて構いません」

 他人行儀で接していれば兄も諦めてくれるだろうと、彼女は自らの心を押し殺して対応していた。そうでもしなければ、半狂乱になってしまいそうな心境でもある。

「もういいでしょう? 私を楽にさせて下さい」

 兄は口を閉ざしたまま何も言わない。

「それと、何度も申し上げておりますが、娘を、アリーシャを返して下さい」

 ルーディリートは引き離されて会えないままになっている、愛娘の身を案じていた。

「そのことなのだが……」

「アリーシャは、私の生きる支えです。たった一人の、大切な我が子なのです」

 口籠もる兄に対して、更に言い募った彼女の目尻から、大粒の涙が零れ落ちる。

「ルー、すまない。アリーシャはエリスに囚われたままなのだ。身の回りの世話はソニアがしていると聞いている。心配する気持ちは分かるが、今少し辛抱してくれ」

「ソニアが?」

 城に戻って来て以来、ずっと顔を合わせていない侍女の名に、彼女は違和感を覚える。

「ソニアはお前の侍女だ。きっとアリーシャの身の上を案じての行動だろう。そう心配するな」

 不安感が表情に浮かんでいたのか、兄は優しい声と微笑みで彼女を気遣う。そっと兄の手が彼女の髪の毛を撫で下ろした。

「必ず、三人で暮らせるよう努めて来る」

 そう言い置くと兄は部屋から出て行ってしまう。

「……お兄様は、狡いです」

 一人残された彼女は俯き、下唇を噛み締めた。太股の上で固く握った拳が震える。その小さな拳の上で雫が弾け飛んだ。

「私の心を掴まえて離さないのに、この身は離れ離れ。私の身を引き裂くおつもりですか?」

 彼女の問い掛けは虚しく壁に吸い込まれる。さめざめとしたすすり泣きのみが反響した。

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