儀礼
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〈儀礼〉
「ルーディリート様」
ある肌寒い日の昼下がり、室内に独りでいた銀髪の女性は、黒髪の女性から突然の訪問を受けた。
「ユーナ……」
「一大事です。エリス様のご母堂、カミナーニャ様がお亡くなりになりました」
「カミナーニャ様が?」
淡々とした彼女の報告に、ルーディリートは目を丸くした。カミナーニャは四十六歳、至って元気であったし、近頃疫病が発生したとも聞いていない。
「原因は?」
「死因は心臓の病です」
「そう……」
心臓の機能が急低下すれば、死は避けられまい。恐らくは死神の鎌の一振りの下、倒れたのだろう。
「それでは、葬儀に参列しなければ……」
ルーディリートは呟いてから報告に来たユーゼラートを見詰める。彼女は澄ました顔でその場に片膝をついているが、全ては計算されていたに違いない。
「ファルティマーナ様に、入れ知恵されたのね……」
本来の主人の命令を聞くのは当然だ。結局、ルーディリートの命令に従うようにとの、ファルティマーナの命令がなければ、彼女は従わないだろう。
「それでは私めはこれにて失礼致します」
ユーゼラートは一礼して姿を消す。その彼女と入れ代わるようにして、ソニアが慌ただしく部屋の中へとやって来た。
「姫様、大変でございます」
「どうしたの?」
ソニアが慌てている理由は既に判ってはいるのだが、ルーディリートは敢えて尋ね返した。
「カミナーニャ様が、エリス様のご母堂様が、お倒れになりました!」
今し方ユーゼラートから受けた報告と同じ内容であるが、彼女は驚いて見せた。
「カミナーニャ様が?」
自らもワザとらしいと思ったが、驚かない訳にもゆくまい。
「それで、容体は?」
「はい、伝え聞く所によれば、既にお亡くなりになられたと……」
「そう……、それでは、葬儀に参列しなければなりませんわね」
「姫様?」
ソニアが今度は驚く番だった。ルーディリートが葬儀に参列すれば、その正体が露見し、無理矢理にでも城に連れ戻されるのは、火を見るよりも明らかだ。それを分かっているにも拘らず口にしたと言うことは、彼女にはその覚悟が出来ているのかもしれない。
「ソニア、急いで支度して頂戴。大丈夫よ、私はファルティマーナ様の機転で、死んだことになっているのですから」
ニッコリと微笑む彼女の顔を見て、ソニアは観念した。
「分かりました、取り急ぎ準備致します」
「よろしくね」
ルーディリートはソニアが出て行ったのを確認すると、表情を引き締めた。
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