訪問
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「畏まりました。ルーディリート様、何なりと仰せつけ下さい」
彼女は頭を垂れて畏まる。しかしルーディリートは内心困っていた。ソニア一人でほとんどの事柄は間に合っているし、平和なこの地で護衛をつける必要性はない。恐らく伯母がユーゼラートを彼女の許へ送ったのは、彼女の動向を探る為と、いつでも城へ帰還させられるようにと言う二つの理由からだろう。ここで伯母の意向を無視してユーゼラートを帰しても、別の人物が来るだけだ。断る理由は山ほどあるが、その全てが徒労に終わると予測し、彼女は溜め息をついた。
「……分かったわ。それでは命令をする前に、質問に答えて貰うわ」
「はい」
「何ができるの?」
「得意とするのは体術です。夜陰に紛れて行動する事を主とし、陰ながら貴女様をお守りできるかと思います」
「そう……、それでは貴女のできる範囲内でいいから、そうして頂戴。それ以外には何もしないで。お願いだから、私たちの事を城にいるファルティマーナ様へ逐一報告する事だけはやめて頂戴」
「……畏まりました」
やや躊躇いながらもユーゼラートは頷いた。しかしルーディリートは既に、彼女が命令に従わないと看破している。それでもどうすることもできない自らの無力さを思い、空しさが心の中に広がるだけだ。
「あの人の娘だもの、母親は裏切らないでしょうね……」
彼女には聞こえないように、ルーディリートは呟く。
「母様、この人も一緒に暮らすの?」
アリーシャがあどけない瞳を向けて来る。ルーディリートは娘と同じ目の高さになるようにしゃがんだ。
「アリーシャは、一緒の方がいい?」
母の問いに娘は首を横に振った。
「ソニアだけでいい」
時として子供は残酷であるが、ユーゼラートはその言葉を聞いても、僅かも傷つかなかった。彼女は今のアリーシャぐらいの頃から厳しい訓練を受けて来たので、人の温かみや優しさを受けられなくても、気にしないのだ。
「貴女には……」
「ルーディリート様、お気遣いは無用です。私めは外でも充分ですから」
「そう……」
悪気を抱いていたルーディリートではあったが、当の本人が構わないと言うのならば、それで良いのだと納得する。
「それでは、御用の折りにはお呼び下さい。私めは常に側におりますので」
それだけを言い置くと、彼女の姿は掻き消える。土埃も立てず消える辺り、相当の腕の持ち主だ。ルーディリートは知らず、首筋をさすっていた。
「母様、どうしたの?」
「ん? 何でもないわ。それよりも、ご飯にしましょう」
「はぁい」
娘の手を引いて家の中に入る。ルーディリートは、寝首を掻かれはしないかと、不安になっていた。
次回更新は5月25日です。
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