表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/56

訪問

毎朝8時に更新。

「それでは身体には気を付けるのだぞ」

 そう言い置いて彼はマントを翻し、踵を返した。その彼に向けてルーディリートは深々と頭を下げる。馬車に乗り込む音がして、一団は静かに動き出した。安堵の息を漏らした彼女ではあったが、その直後に信じられない事が起こる。髪をまとめて押し込んでいた頭巾が外れ、彼女の豊かな銀髪が陽の下に晒されたのだ。慌てて隠そうとするが、それは間に合いそうもない。彼女は半ば観念して顔を上げる。しかし彼女が心配する事態にはならなかった。既に長を乗せた馬車からは死角に入っており、目の前を通り過ぎてゆく者達も、彼女には見覚えがなかったようだ。最後の馬車が通り過ぎようとして、中の人物と目が合う。

「ファルティマーナ様……」

 呟く彼女を見る伯母の目は驚きの色を秘めていたが、彼女がこの場に残っているのを見て、やや残念そうにしていた。その伯母に向けてルーディリートは笑みを返す。彼女は右手には籠を、左手にはアリーシャを連れて、足早に集落の佇まいへと急いだ。兄はソニアを、彼女の侍女を探していたのだ。ルーディリートは彼女の安否を気遣う。

「ソニア!」

 家の中に入り、名前を呼ぶ。ややあって、彼女はかまどの陰から身を起こした。

「姫様、ご無事でしたか」

「ソニアこそ、よく見つからなかったわね」

「ええ、村の人たちが、ここへ隠れているようにと仰るものですから、こうしていたのですが……」

 ソニアは煤で汚れて、すっかり真っ黒になっていた。その彼女を見てルーディリートは吹き出す。互いの無事を確認して、安心した心が弾けたのだ。

「今日は貴女から湯浴みすればいいわ」

「姫様、しかしそれでは……」

 ソニアは狼狽したような声になる。しかしルーディリートはにっこりと微笑んだだけで、彼女の懸念を柔らかく押し止めた。

「その格好では、折角の食事にも煤が入ってしまうでしょ?」

 聞きようによっては意地悪に聞こえないこともないが、幸いソニアとは長い付き合いだ。ソニアは主の指示に従って、煤で汚れた身体を家の中のどこにも擦れさせないようにして、裏手へと出て行った。

「それでは姫様、先に頂きます」

「念入りにね」

 笑みを含んだ声で言われては、ソニアに返す言葉はない。彼女を湯浴みへと送り出したルーディリートはアリーシャを連れて表に出た。右手には籠を携えている。

「ソニアは暫く手が空かないから、母様と一緒に薬湯を作る準備をしましょうね」

「はぁい」

 籠の中から薬草を取り出し、簡単に水洗いして、汚れやゴミを取り除く。それを今度はザルの上に置き、日陰でジワジワと乾燥させるのである。その作業の準備をルーディリート母娘は談笑しながら進めた。その作業を終えて、ザルに並べた薬草を乾燥室へ持ってゆく。乾燥室へザルごと入れてキチンと鍵を掛ける。

「これでいいわね。後は四日ほど経てば充分に乾いてるだろうから」

 ルーディリートは嬉しそうに呟くと、アリーシャの手を引いて表へ戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ