別れ、そして出会い
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「さて、それでは……」
ランティウスは何と切り出せばよいものか迷った。考えてみれば自らの妹とは言え、つい今し方会ったばかりだ。それに侍女たちの名前も知らない。
そんな彼の様子を察して、黒髪の侍女が進み出た。
「若君、ソニアと申します。何なりと仰せ付け下さいませ」
「そうか、それではソニアよ、まずは都合できる人数を教えてくれ」
「私と、こちらに控える三人。これ以上は都合できません」
「そうか、分かった」
ランティウスは、部屋の外で待機していた自らの侍女を呼び寄せる。それでも六人にしかならない。
「では、この人数でルーディリートの荷物を運ぶ。まずはルーディリート……、長い名だな。ルーと呼んで差し支えないか?」
彼はそう言って、椅子に腰掛けたまま黙っていた妹の方へ振り返った。ルーディリートは首を傾げる。その仕草が可愛らしくて、彼は赤面した。
「ルーと呼ぶ。これは兄としてだ」
「はい、お兄さま」
ルーディリートは嬉しそうに微笑んだ。鈴を転がしたような彼女の声を初めて聞いた彼は、ますますぎこちなくなる。
「あら……」
ソニアはその時に気が付いた、このランティウスがなぜ残ったのかを。
「そうでしたか……」
「何か言ったか?」
「いえ、誠に親しみの籠もった呼び方だと思いまして、感服致しておりました」
「そうか」
侍女に上手くあしらわれていることに彼は気付かず、次の行動に移る。
「では、ルーの荷物を取りに行こう」
しかし、彼は部屋から出る寸前で立ち止まった。
「レナとサラは部屋の掃除をしてくれ。くれぐれも手抜かりなきようにな」
彼は自らの侍女に命令した。他の者たちは、フォリーナの部屋に向かう。
「まずは荷物の整頓から始めよう。何を持って行き、何を残すか、だ」
彼の言葉に従って、ソニアたちは部屋の中へ散らばった。自然と兄妹二人が入り口付近に残される。ランティウスは、幼い妹の手を握った。
「お兄さま、あれも持ってゆきたいの」
妹が指した方を見ると、そこには大きな壷があった。壷というよりは花瓶のようだが、大人の男性でも持ち運ぶには難儀しそうな大きさだ。彼の頬が引きつる。周囲では、侍女たちが衣裳箪笥から妹の服を取出しては、手際良くまとめていた。彼の手伝いを出来る者がいないのを確認し、ランティウスは覚悟を決める。
「ソニア、荷物の整理に一段落ついたらルーを見ててくれ。私は一仕事出来てしまった」
「若君?」
ソニアが作業の手を止めて振り返った先で、ランティウスは妹の依頼に応えようと花瓶に手をかけるところだった。慌ててソニアが駆け寄る。
「若君、危のうございます!」
彼女が手を出さなければ、ランティウスは派手にひっくり返っているところだった。