訪問
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それから七年。
城から北東に位置する集落の外れ、緑豊かな野原に一組の母娘がやって来ていた。柔らかな陽射しの下、流れる小川に沿って母娘は歩く。
「アリーシャ、あまり遠くに行ってはいけませんよ」
頭巾からこぼれる銀髪をなびかせた女性は、少女に呼び掛けた。彼女は母の周りを飛び跳ねながら、朗らかに笑っている。やがて母の許へ走り寄って来ると、草を摘む彼女の手元を覗き込んだ。
「母様、何を持ってるの?」
母の手には白い小さな花をつけた草が握られていた。
「これは、サライナスの花。煎じて飲むととても落ち着くのよ」
「お花を飲むの?」
「このままでは飲まないわよ。乾かせて、それからすり潰すの。ソニアと一緒に、アリーシャもやろうか?」
「うん!」
幼いアリーシャは満面の笑みを浮かべて頷いた。彼女たちは小さな籠が一杯になるほど野草を摘むと、手を繋いで帰途に着いた。その彼女たちの目の前に馬が駆けて来る。乗り手の身なりからルーディリートは城の者だと気が付いて、身を固くした。
「そこの女。もうすぐここを長が通られる。無礼のないようにせよ」
それだけを言い捨てるようにして、騎馬は去ってゆく。ルーディリートは安堵半分、心配半分で道の脇へしゃがみこんだ。
「母様?」
幼いアリーシャには何が起きたのか分からない。ルーディリートは娘を抱き寄せた。
「アリーシャ、今からここを長が通りかかります。私たちは長に失礼のないように、通り過ぎるまでここで、こうしていなければならないのですよ」
アリーシャは小首を傾げたが、母と同じようにしていれば良いのだと理解して、彼女の言葉に従った。やがて遠くから鈴の音を響かせて数十人の集団がゆっくりとやって来た。ルーディリートは顔を見られてはならないと思い、頭巾の中へ髪の毛をまとめて押し込むと、頭を垂れて一団が通り過ぎるのを待った。アリーシャはその母の様子には気付かず、物珍しさも手伝って顔を上げたまま、目の前を通り過ぎてゆく一団を見続ける。静かに通り過ぎるかに見えた一団は、不意にその動きを止めた。ルーディリートの心臓が高鳴る。




