表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/56

訪問

毎朝8時に更新。

「私はあの頃は世間知らずで、男女の事柄なんて何も知りませんでしたから」

「それでも……」

「でも、幸せなんです。アリーシャがいてくれれば。その子が、私とあの人の愛の結晶だから。私の唯一の心の支え……」

 ルーディリートは伯母の言葉を遮って、愛おしそうに我が子の顔を眺めた。伯母の腕に抱かれて眠る彼女は父親似だ。それは父親の産みの親が言うのだから間違いない。つまりはファルティマーナにしてみれば、孫なのである。

「……そこまで言うのでしたら、連れて帰る訳には参りませんわね。分かりました、また折りを見て来ましょう。その時には一緒に城へ戻って頂きますからね」

「多分、ご期待には添えないと思います」

 ルーディリートは申し訳なさそうに返した。けれども伯母が気にしている様子はない。

「貴女は必ず戻って来ます。それだけは断言できます」

 ファルティマーナはそれだけを言い置いて(きびす)を返す。彼女の出て行った後をルーディリートはじっと見詰めていた。その彼女に、アリーシャを抱いたソニアが近づく。

「どう言うことでしょうか、随分と自信がありそうでしたし、それにどうしてそこまで姫様に拘るのでしょう?」

「理由は分かってるわ。でも、これは貴女には話す訳にはいかないの。私がこの理由を話せるのは、長だけ……」

「そうですか……。そのような理由があるのでしたら、私はそれ以上はお聞きしません」

 ソニアは自らの職分を越えてまでは詮索しない。ルーディリートはそれが嬉しくもあり、寂しくもあった。最も身近にいる人間に悩みを打ち明けられない、相談できないと言うことは心に負担を与える。そしてルーディリートは自らが精神的に強いと思ったことはなかった。

「姫様、御用がありましたら呼んで下さい。食事の用意を致します」

 ソニアが出て行ってしまうと、部屋の中はルーディリート母娘だけになる。

「アリーシャ、貴女だけは、守りますからね」

 彼女にとって娘は、その存在全てを賭けてでも守り抜くべき者になっていた。

「せめて、貴女にだけは、先見の能力が受け継がれていませんように」

 伯母が求めるのは、まさにそれであった。先見の巫女は彼女しかいない為、彼女が城に戻らない限りは先見の巫女が一族から失われてしまう。そうなれば一族の未来に暗雲を残すのだが、彼女には城に戻る勇気がなかった。

 そもそも一族の存亡は彼女に責任はない。しかし、それで頭を悩ませる人物を思い描いた時、彼女の胸は締め付けられるように痛んだ。

「戻らないって、決めたもの……」

 目尻から流れ落ちる熱い滴を、彼女はどうすることもできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ