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毎朝8時に更新。

「まだ、私を諦めてはくれていないのですか?」

 声が硬くなってしまう。そうでもしないと情に流されてしまうかもしれないからだ。

「姉様は? エリス姉様は、まだ身籠らないのですか?」

 彼女が城を出て九ヵ月以上経つ。産まれた子の父親が結婚してからも同じぐらいの日数が経っていた。

「どうも、そのような事すらしていないようで……。それに、あの子は何かを振り払うかのように仕事に没頭していますし、わずかでも時間が空くと、地上に赴いてしまうのです」

「……何てこと」

 伯母の話を聞く限りに於いては、彼女を忘れて貰う事はほぼ絶望的である。早く後継者でも産まれれば、彼女も城に戻れないでもない。しかし後継者がいないとなると、アリーシャは彼の唯一の子になってしまう。それでは戻れないのだ。正妻としても、側室としても傍らにいられない彼女にとって、産まれたアリーシャは唯一の心の支えにもなろう。その彼女を取り上げられたくはない。

「私が言うべき問題では有りませんから、二人については何も言いません。けど、あの人は何を考えていらっしゃるのでしょうか?」

「わたくしにも、あの子が何を考えているのかは、見当もつきません」

 ファルティマーナはその細い首を横に振った。ルーディリートはお産の直後にも拘らず、その身体を起こそうとする。

「なりません、姫様。今はまだ横になっていて下さいませ、お体に障ります」

 ソニアが彼女を止めた。ファルティマーナも頷いている。

「今はまだ動かない方がよろしくてよ。それにしても可愛い子ね、あの子にそっくり」

 ファルティマーナはソニアからアリーシャを受け取ると、その顔を見て微笑んだ。

「生まれたばかりでこれ程までに似ているなんて、あの子が生まれた時のことを思い出すわね。あの時はこうなるとは思いもしなかったわ……」

 一転、その表情が沈む。

「ファルティマーナ様、私は城に戻れませんし、戻るつもりも有りません。あの人には、私が死んだと言うことにして下さい。そうでもしなければ諦めてもくれないのでしょうから……」

「……そうね、それしか方法はないのかもしれませんわね」

 ファルティマーナは溜め息をついて、その形の良い眉根を寄せ合わせた。

「残念ですわ。わたくしは貴女こそ、あの子に相応しいと思っていたのですけれど……」

「申し訳ありません。私がふしだらでしたから」

「何を言っているの! 全てはあの子がいけないのです。どうして正室として迎え入れるまで我慢できなかったのでしょう。貴女の気持ちを知っていればそのような事を為さらなくても、結ばれると分かりそうなものなのに……」

「不安、だったのでしょうね」

 落胆の色を見せる伯母に、ルーディリートはそう言い放った。

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